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中国もハイブリッド車が現実解 自動車の未来、PwC専門家に聞く(前)

電動化や自動運転、シェアリングなど大きな変化に直面している自動車業界。「電動化によってガソリン車はなくなる」「中国ではハイブリッド車(HV)が普及しない」といった言説が独り歩きしている。しかし、「パワートレインは現段階ではHVが次世代車として現実的であり、技術や合理性から立脚した冷静な分析が必要だ」とPwCジャパングループ自動車セクター顧問の藤村俊夫氏(元トヨタ自動車エンジニア)は指摘する。PwCコンサルティングの自動車・商用車サービスリーダーの早瀬慶氏を交え、自動車産業の将来像を聞いた。【遠藤堂太】

――中国では地場メーカーでも技術のキャッチアップが可能な電気自動車(EV)を推進するため、中国政府は新エネルギー車(NEV)規制を導入。この結果、日本メーカーが競争優位に立つHVが普及しないと言われている。

「EVの実需は少ない印象がある」と話すPwCコンサルティングの早瀬慶リーダー=東京(NNA撮影)

「EVの実需は少ない印象がある」と話すPwCコンサルティングの早瀬慶リーダー=東京(NNA撮影)

(早瀬)今年4月の上海モーターショーでは、政策に沿うような格好で各社ともEVをアピールしていた。ただ、中国メーカー各社の担当者に聞くと、本音ではEVよりもガソリン・ディーゼル車、HVの開発が必要だし売り込みたい、との声が多い。

中国工場を拡張中のある外資ディーゼルエンジン大手担当者も「中国でも向こう数年はまだ大きなチャンスがある」と語っていた。EVをめぐる報道からのイメージとリアルな世界とは大きくかけ離れている。EVの実需は統計・推計よりも少ないという印象を持った。

(藤村)ある日本の自動車メーカーが4月、HVの技術特許を無償開放し、システムの販売も行うと発表した。仲間作りを進め、より実現可能な「現実解」のHVを拡大することで、環境対応とユーザーニーズに応えることが狙いだ。ハイブリッド技術を導入したいという中国メーカーの動きが昨年頃からあったようだが、無償開放で、その動きが加速するだろう。

中国政府は2030年頃にはHVの販売を全体の25%、(天然ガスや水素などの)エネルギー代替のエンジン車を25%、NEV(プラグインハイブリッド=PHV、EV、燃料電池車=FCV)を40%とする方針を示している。

新エネルギー車(NEV)規制の導入と並行して、メーカーごとに各社平均の燃費を算定し目標を定めた「企業平均燃費(CAFC)」規制も設けている。これらをクリアするためにはEV、FCVだけではなく、HVを含む、よりエネルギー効率が高く、よりクリーンな燃料を使う内燃機関車両を導入しなければならない。中国ではまだまだ日本メーカーの商機は大きい。

「日本メーカーのHV技術無償開放によって、中国メーカーにHV導入の動きが進む」と話すPwCジャパンの藤村俊夫顧問=東京(NNA撮影)

「日本メーカーのHV技術無償開放によって、中国メーカーにHV導入の動きが進む」と話すPwCジャパンの藤村俊夫顧問=東京(NNA撮影)

――中国では昨年、EVが98万台、PHVが27万台売れた。新車の全体市場(2,800万台)から比べるとまだ少ない。

中国の米系自動車メーカーの工場。2人乗りのEVを生産している=柳州(NNA撮影)

中国の米系自動車メーカーの工場。2人乗りのEVを生産している=柳州(NNA撮影)

(藤村)EV登録車の半分近くは比較的購入価格の安い2人乗りの超低速小型EV(LSEV)であることに留意する必要がある。走りさえすれば良いので、パワーウインドーもいらない。われわれのイメージする乗用車とは異なるものだ。このほか、LSEVで、ナンバープレートもない違法な未登録車が、地方を中心に登録車よりも多く走っていると言われている。中国の今後のモビリティーの一角を担うだろう。

LSEVは低速が前提なので、鋼板の代わりに樹脂を使い軽量化をはかる。そのため日本の樹脂メーカーとも取引が始まっているようだ。従来にはない新ジャンルのEV市場が形成されつつある。

■燃料電池車、日本は商用化に遅れ

――中国では水素を利用するFC(燃料電池)バスの導入が各都市で数百台単位で進みつつある。日本が得意と言われるFCVでも技術面で負けているのではないか。

(藤村)中国は世界一の自動車市場になったが、技術力やブランド力は日米欧の優位性が高い。FCバスの普及が一部で進んでいるが、国外のメガサプライヤーやティア1(1次下請け)から技術を購入しているのが実態だ。

中国は技術水準が進んでいるイメージがあるが、それはITやアイデア創出の部分が大きいのではないか。IT企業は「走る、曲がる、止まる」の安全を担保しながら自動車を製造することはできない。

FCVでは、水素製造も含めた技術開発力において日本の優位性は非常に高い。ただし、電気トラックやFCトラックなど商用利用では欧米での実用化が進んでいる。日本には普及を後押しする環境(インフラ、スタートアップ企業の育成、政府のバックアップ)が未だ整備されておらず、実証実験の期間も短い。資金を持つ投資家が新技術にチャレンジしていないことも日本での普及を阻んでいるのではないか。

――アジアではインド政府もEV導入に熱心だ。

(藤村)インドは中国とほぼ同じ人口規模で13億~14億人だが、電力供給量は中国の10分の1程度だ。「低炭素社会の実現」よりも「きょうの生活」を優先するのがインドの実態。電力を自動車用に回す余力はない。

インド政府は17年に「30年までに新車販売の100%をEVにする」方針を打ち出した。日本メーカー2社の首脳2人がそろって、インドでモディ首相に会い、その後インドは「30年までに30%」へと目標を後退させた。それでも、電源の7割以上は石炭火力発電に頼っており、実現は厳しい。新興国に適正な技術を助言することが、日本をはじめとする先進国の役割だろう。

新車市場は中国やインドを中心に今後も伸びるが、所得水準が低くても新車購入の意欲が高いことから、低価格で購入できるガソリン車を残す必要がある。

EVは仮にバッテリー価格を劇的に低減できたとしても、電池密度の技術の壁(航続距離と重量)や充電(時間とインフラ)の課題が残る。EVは都市内など短距離利用に限定されるだろう。結局、環境(二酸化炭素=CO2削減)対策、燃費の向上、価格で、ガソリン車の次の次世代車として現実解なのはHVだ。その次に、PHV、EV、FCVの順となる。

<関連記事>

・2030年に新車の半分「商用車」に、PwC

https://www.nna.jp/news/show/1872785

・EVブームに危うさ PwC藤村顧問、水素車も切り札

https://www.nna.jp/news/show/1781634


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関連業種: 自動車・二輪車マクロ・統計・その他経済

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