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【アジアの本棚】『没落の東京マーケット ──衰退の先に見えるもの』

■国際金融市場で敗れた日本への警世の書

私は1994年に日本銀行の担当記者だった。株や不動産のバブル崩壊はすでに始まっていたが、大手証券や長期信用銀行の破綻といった大ショックはまだ数年先の話で、今思えば「嵐の前の静けさ」のような時期ではあった。個人的には翌年に香港への赴任を控えており、「国際金融センターを目指す東京の将来に陰りが出てきた」というトーンの記事も書いたが、銀行関係者から「アジアの大手行でも時価総額は日本の都銀と比べると下の方です」と聞かされたのを覚えている。まだまだ「日本は大したもの」だった。

そのころを記憶している一人として本書を読むと、日本の金融業の地盤沈下の深刻さが改めて身に染みる。外為市場(取引高)では日本は89年に米英に次ぐ世界3位だったが、2013年以降シンガポール、香港に次々と抜かれ、16年には世界5位、アジアでも3位に転落している。株式市場売買高でも、03年に東京証券取引所は世界3位だったが、17年には日本取引所の売買高は中国の深セン、上海より下位の6位に後退。中国の両取引所の合計売買高は日本の約3倍。国際化の指標になっている外国企業の上場数では、首位のニューヨーク証取が495社なのに、日本はわずか6社。5位のシンガポールと比べても40分の1以下。日本のライバルはパプアニューギニアだという。このほか、デリバティブや国債、商品取引などでも日本の没落は際立っており、外国金融機関の東京撤退が続出するのも無理はない。

■復興の道を探るための現状認識

問題はなぜこうなったかだ。筆者は、金融当局の見通しの甘さ、巨額の資産を誇っていた生命保険や邦銀の衰退、筋の悪い構想に執着した歴代都知事らの失敗、欧米が金融革新を進めた時期にバブルの後始末に追われていた不運─など複合的な要因を挙げているが、日本が外為市場のトッププレーヤーだった当時も、邦銀の取引は常に円中心で「グローバルに多通貨を扱うノウハウも部隊もなかった」と冷徹に分析している。いまの状況を招いたのは、日本社会に深く根差した「内向きの発想」にも一因があるということだ。

筆者はまた、アベノミクスを支えてきた黒田日銀の「異次元金融緩和」による徹底した低金利の継続が、銀行の収益を圧迫し、マーケットも弱体化したとして、「成長の芽をどんどん摘み取っているようにみえる」と批判している。

では日本の行く末に希望はあるのか? 日本には米国や中国のようにベンチャーで成功した大富豪も少ないのだが、本書でも指摘しているように「小金持ち」はまだまだ多い。だが、「外から資金を集めようというマインドが全くなく」「国内の貯蓄プールにだけ注目して市場を活性化」しようというこれまでの政府や業界のやり方ではダメで、アジアマネーなどを積極的に取り込んでいかないと、各国と対抗できないと提言している。同時に、日本は教育などの面でも世界から取り残されつつあるとして、かつての海洋覇権国でいまは欧州の小国になっているポルトガルの姿と重ね合わせ、「残された時間は長くない」と警告する。読んでいて明るい気分にはならないが、だからこその「警世の書」といえる。

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『没落の東京マーケット──衰退の先に見えるもの』

太田康夫 著 日本経済新聞出版社

2018年3月発行

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【本の選者】岩瀬 彰

NNA代表取締役社長。1955年東京生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業後、共同通信社に入社。香港支局、中国総局、アジア室編集長などを経て2015年より現職

※特集「アジアの本棚」は、アジア経済を観るNNAのフリー媒体「NNAカンパサール」2019年4月号<http://www.nna.jp/nnakanpasar/>から転載しています。


関連国・地域: 日本
関連業種: 金融マクロ・統計・その他経済

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