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【アジアエクスプレス】 九州発のハラルしょうゆを世界に

APUとフンドーキン醬油が共同開発

日本の大学で、増える外国人留学生らのさまざまなアイデアを生かす取り組みが広がっている。世界89カ国・地域、約3,000人の留学生が在籍する立命館アジア太平洋大学(APU・大分県別府市)の学生らが民間企業と共同開発したハラル(イスラム教の戒律で許されたもの)認証を取得した食品「ハラールはちみつ醤油」が1月に発売された。APUは従来から「実践を通じての学び」に力を入れているが、実際に商品完成にこぎ着けたのは初めて。APUの生協では発売から3週間で200本を売り上げる好調ぶりだ。(取材・写真=NNA北九州事務所 吉岡由夏)

立命館アジア太平洋大学(APU)の学生とフンドーキン醬油が共同開発した「ハラールはちみつ醤油」

立命館アジア太平洋大学(APU)の学生とフンドーキン醬油が共同開発した「ハラールはちみつ醤油」

APUには、インドネシアやバングラデシュなど約600人のイスラム教徒(ムスリム)の留学生が在籍する。「ハラールはちみつ醤油」の開発に関わった学生プロジェクトチームは計11人。出身はエルサルバドル、インドネシア、ベトナム、シンガポール、スリランカ、ネパール、日本と国際色豊かで、ムスリムでない学生も多く参加している。APUでこのプロジェクトのリーダーを務めるスリランカ人の大学院生、バハール・ガヤニさん(28)も仏教徒だ。

だがスリランカはキリスト教、仏教、イスラム教、ヒンズー教などが共存する多宗教国。ガヤニさんは子供の頃からムスリムの友人がおり、ハラルについてはよく知っていた。APUに留学してからはムスリムの友人らと一緒に食事ができない不便さを痛感し、皆でいつかテーブルを囲みたいとの思いからプロジェクトに参加したという。

APUの生協で「ハラールはちみつ醤油」を手にするガヤニさん=別府市(NNA撮影)

APUの生協で「ハラールはちみつ醤油」を手にするガヤニさん=別府市(NNA撮影)

九州一のしょうゆ生産量を誇る老舗メーカーのフンドーキン醬油(大分県臼杵市)とAPUの学生が出会ったのは2016年。APUの「ムスリム研究センター」の活動を支援している事業開発型投資会社インスパイア(東京都港区)の紹介で、学生らにしょうゆのテイスティングを実施したのがきっかけだ。

そのころフンドーキン醬油は、今後成長が期待されるアジア市場を開拓すべく、ムスリム向けのハラルしょうゆの開発を考えていた。日本料理に欠かせない調味料であるしょうゆは、日本国内では消費量が縮小しているが、海外では和食ブームとともに需要が伸び続けていたからだ。

APUとフンドーキン醬油、インスパイアの3者は17年5月に相互連携協定を締結し、プロジェクトの一環としてハラルしょうゆの共同開発を本格的にスタートした。

■理想と現実のギャップ

しょうゆの主原料は大豆、小麦、食塩で基本的にはハラルだが、うま味の調整や保存性を高めるための副原料の中には、豚由来のものやアルコールを含むものがある。「ハラールはちみつ醤油」の開発責任者であるフンドーキン醬油商品開発部開発課の阿部圭輔係長によると、ハラルしょうゆの製造はハラム(イスラム教の戒律で許されないもの)の混入を避けるため、製造場所、製造ライン、作業員や使用する掃除道具まで専用化を徹底するという。また、しょうゆの容器や封をするガムテープまでハラルに対応したものを使用する。

APUの学生チームは、忙しい勉学の合間を縫って週1回の会合を重ねながら、コンセプト作り、味、パッケージデザイン、価格などを考えていった。実際にフンドーキン醬油の工場にも足を運んだ。

蜂蜜しょうゆの試作品を作る学生プロジェクトチーム=2017年、APU

蜂蜜しょうゆの試作品を作る学生プロジェクトチーム=2017年、APU

「ハラールはちみつ醤油」の完成披露会で商品を手にする学生プロジェクトチームのメンバー=2018年12月、APU

「ハラールはちみつ醤油」の完成披露会で商品を手にする学生プロジェクトチームのメンバー=2018年12月、APU

ムスリムには甘口のしょうゆが好まれる。それなら、栄養価が高く、聖典コーランで生薬として記されている蜂蜜をしょうゆに配合したらどうか。最初は蜂蜜の割合を半分くらいにしたいと提案したが、蜂蜜はしょうゆに溶けきれず時間が経つと分離してしまう。また蜂蜜の価格は砂糖の7~8倍も高く、配合率が高くなればなるほど原材料費は跳ね上がる。「アイデアを実現させるのは簡単ではない。消費者のこと、業者さんのこと、関っている多くの人たちの立場を考えることを学んだ」とガヤニさんは振り返る。

こうして1年近く試行錯誤を重ね、蜂蜜を12.5%配合した「ハラールはちみつ醤油」ができあがった。

フンドーキン醬油の阿部氏は「ムスリムにとって特別な食品である蜂蜜をしょうゆに混ぜるというアイデアは、日本人には思い付かなかっただろう。学生らのおかげで日本に今までなかった、新しい商品ができた」と感慨深げだ。

■「世界平和」に通じる商品

プロジェクトはこれで終わらない。学生らが今取り組むのはマーケティング戦略だ。現在販売されているのは全国の立命館生活協同組合の店舗、フンドーキン醬油のオンラインショッピング、別府市のホテルの売店に限られているが、より多くの消費者に商品を知ってもらうためのイベントの開催や、ギフト仕様にして駅や空港の売店で販売するなどの案を考えている。

フンドーキン醬油営業部企画販促課の高野秀俊課長代理は、「ハラールはちみつ醤油」はムスリムだけでなく日本人にも合う味であり、全国に取扱店を拡大していきたいと意気込む。将来的には、和食市場の拡大が期待されるマレーシアの食品展示会にも参加する計画だ。

ハラルしょうゆだけの統計はないが、農林水産省によると、しょうゆ全般の輸出量は12年以降、年々増えている。民間非営利団体(NPO)「日本ハラール協会」によると、日本国内のムスリム在住者は約15万人、年間のムスリム訪日客もその2倍程度と推定される。ただ訪日客は滞在日数が限られるため、今後の日本のハラル食品市場は、長期滞在するムスリム学生や就労者の増加により徐々に拡大すると予測されている。

ガヤニさんは「ムスリムも非ムスリムも食べられるハラルしょうゆは『世界平和』につながる商品。宗教の壁を取り外し、皆が仲良くなれる」と胸をはる。大学院を修了するまであと1年、多くの学生にこのプロジェクトの意義を理解してもらい、仲間を増やしていきたいと意欲を燃やしている。

フンドーキン醬油の高野氏(左)と阿部氏=臼杵市(NNA撮影)

フンドーキン醬油の高野氏(左)と阿部氏=臼杵市(NNA撮影)

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「ハラールはちみつ醤油」

210ミリリットル入り、価格は税抜き400円。とろりとした甘口のしょうゆで、大学いもや鶏肉の照り焼きなどの料理に最適なほか、アイスクリームにかけるなどしてデザート感覚でも食べられる。

日本ハラール協会からハラル認証を取得。日本ハラール協会は、マレーシア・イスラム開発局(JAKIM)に認められた日本の公認団体。

※特集「アジアエクスプレス」は、アジア経済を観るNNAのフリー媒体「NNAカンパサール」2019年4月号<http://www.nna.jp/nnakanpasar/>から転載しています。


関連国・地域: インドネシア日本
関連業種: 食品・飲料

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