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「日豪関係は全てが合格点」 コート駐日豪大使インタビュー

オーストラリア政府が現在、日本でオーストラリアの姿を8カ月にわたって紹介する祭典「オーストラリアnow」など、日本でのPR活動を拡大させている。その活動を率いるのが、東京で駐日オーストラリア大使を務めるリチャード・コート氏だ。コート大使はかつて、西オーストラリア(WA)州の首相を務めた経験がある。日本とは政治的、経済的に約40年間にわたって深い関係があったという大使に、両国をめぐる政治経済について、ざっくばらんに話を聞いた。【NNA豪州編集部】

――日本とはどんな関係があったのですか

WA州の政界を出た後の16年間は、民間の資源業界にいましたが、日本とは政治、商業いずれの分野でもすばらしい関係を築きました。多くの日本の資源企業がWA州に投資しており、幾つかの企業には私もアドバイザーとして関わりました。当時は電力会社が海外の資源業界に投資する規制が緩和された時期でした。

リチャード・コート駐日豪大使

リチャード・コート駐日豪大使

実は私の父は、日本と深い関係がありました。父(チャールズ・コート元WA州首相)は第二次世界大戦当時、オーストラリア軍でパプアニューギニアのブーゲンビル島におり、日本軍の捕虜返還交渉に携わったのですが、帰国してからWA州首相を務めました。55年から60年代には日本と鉄鋼や液化天然ガス(LNG)交渉を手がけました。それはWA州にとって初のLNG輸出取引でした。日豪の経済関係の強化だけでなく、かつての日本人捕虜たちとも再会して友好を深め、2008年に旭日重光章を受章しました。

私は政界に入って最初の10年間、野党にいました。それまでに培ったネットワークで日本企業に対し、WA州により多く投資するよう呼びかけました。鉄鋼や石炭、LNGの輸出で、我々は近代の日本を手助けしたのだという自負があります(笑)。

――駐日本大使として1年たちました

この40年間で何度も日本を訪れ、またWA州の自宅にも日本企業の関係者を招いたりして、親交を深めてきました。いつも日本文化には心地よさを感じてきましたが、大使として赴任した今回は特に日本の特質を垣間見ています。安全で、人々は礼儀正しく、危機や災難に見舞われても優れたチームワークで対処する。日本とオーストラリアの信頼関係は大変良好なので、オーストラリア政府が日本で責任ある職務を果たすのも難しいところではありません。全てが合格点、といったところでしょう。

――日豪は経済連携協定(EPA)を締結しましたが、日本市場でオーストラリア産農産物の状況はどうですか

EPAは両国が恩恵を受ける形で、非常にうまくいっています。日本とオーストラリアは共に貿易立国ですから、輸出を拡大させる必要があります。市場を開放すると、外国産商品との競争が待ち受けますが、オーストラリアはそれを恐れてはいません。農業分野で、多くの教訓を得てきたからです。関税を引き下げると、自国の農家が国際競争力をつけるということです。競争のある市場では、競争力を持たないと負けてしまうということです。

――環太平洋連携協定の新協定(TPP11)がまとまりましたが、オーストラリア連邦政府のチオボー貿易・観光・投資相が、米国がいないことはオーストラリアを利すると言っていました。これには同意できますか

まず、日本とオーストラリアは非常にうまく協調してTPP交渉をまとめ上げたことを言いたいです。米国が抜けたらまとまらないだろうと言われながら、全く正反対のことが起きた。11カ国が協調して非常にポジティブに、うまくまとめあげました。

我々はいつも、米国がTPPに参加することについては支持してきました。オーストラリアは米国製品との競争を恐れません。我々の仕事はオーストラリアのブランドを確立し、輸出先での評判を確立することです。

――しかし日本のスーパーで、オージービーフとアメリカンビーフが同じような価格で売られていたら、オージービーフは影響を受けませんか

それでもオージービーフの方が味はいいですよ(笑)。確かに米国はより大きな牛肉生産国で、巨大な輸出国でもあります。しかしそうはいっても、われわれは市場の競争を恐れない、ということに尽きます。

面白いことに、丸紅のようにオーストラリアの牛肉市場に投資する日本の商社もありますし、イオンはタスマニアで牧場を経営しています。タスマニアはオーガニックの畜産製品でも知られます。

米国企業の立場を考えると、米国とオーストラリアでどちらが有利かは分かります。アジア太平洋では、ある分野はオーストラリア、ある分野は日本に優位性がありますが、農業だけではなく、エネルギー分野など新しい分野で両国が協力することで、米国企業よりも輸出拡大の相乗効果が生まれるのです。

――日本産ブドウはオーストラリアに輸出できていませんが、日本ではオーストラリア産ブドウは4倍に増えています

ブドウは賞味期限が短く、輸出には特別な手入れが必要な産品ですが、それでも輸出を増やせることを示しています。しかも日本のブドウと季節が逆になりますから、日本の消費者にとってもメリットがあるのです。

農産物は季節性の高い輸出品ですが、日本の農家は、海外の農産物に対して拒否反応を示しがちです。ですが、日本の農家が南半球で生産することに興味を示し始めているのも確かです。それによって日本の収穫期と反対の季節でも日本に供給できます。ポテトやタマネギを作る北海道の先進的な農家が、不作の年に備える形でタスマニアでいわばリスクヘッジとして生産するという形もできるのです。

ですから、例えば日本のブドウを、オーストラリアで生産することも可能です。牛肉や果物だけでなく、アーモンドなどにも、日本からオーストラリアへの農業投資は増えつつあるのです。

――ところでターンブル首相についてですが、アボット前首相と比べると、日本との関係を深めることには特別な思い入れがないように見えます

それは違います。私は両者を共によく知っています。2人とも、日豪関係の強力なサポーターです。ターンブル首相は今年初めに来日しましたが、全てが非常に成功裏に進みました。ターンブル首相自身も「日本は真の友人だ」と発言していましたし、安倍首相との協調もうまくいっています。

――個人的な見解ですが、もしターンブル首相が2015年にアボット政権を転覆させていなければ、新型潜水艦は日本が受注できていただろうと思っています。そして日豪の産業協力は、今よりはるかに進展していたでしょう

あの時、アボット政権でも既に、開かれた入札を導入することを話し合っていました。そして入札したところ、日本とフランス、ドイツが非常に拮抗(きっこう)する価格で応札してきました。そして最終的にフランスが受注したということであり、首相が誰であるかということとは関係がありません。適切な入札プロセスが行われたということです。ですから結果は同じだったでしょう。

しかしオーストラリアだけでなく、軍事技術の初の大型輸出を狙った日本も、今回の入札を通じて得た教訓は多かったはずです。

「両国の強固な関係を、自己満足で終わらせません」

「両国の強固な関係を、自己満足で終わらせません」

入札に際して日本の企業連合がオーストラリアを訪れて全土を回りました。新型潜水艦の生産パートナーになる場合に、オーストラリアの製造業界はどんな技術や経験を持っているのか視察したところ、石油・ガスなどの資源業界を中心に、洗練された生産技術やインフラを持っていることが分かり、そこでオーストラリアに生産拠点を設けることにしたのです。

視野を広げれば、防衛技術に費やせる予算が限られているわれわれ両国は、アジア太平洋での軍事技術での開発協力が可能であることを知ったということです。潜水艦入札の後、日本はオーストラリアの開発能力を知り、オーストラリアも日本の軍事技術能力の高さを学んだのです。

潜水艦の入札が残念だったとあなたはおっしゃいましたが、私は逆に、日豪の防衛協力が深まる可能性をもたらしたと思っています。

――オーストラリアの政界を見ると、ターンブル首相とアボット前首相の対立が見られます。保守政権にとっては来年の選挙に影響しませんか

まさに、デモクラシー(民主主義)が機能しているということに尽きます。政界でも同じように、民主主義では競争があります。私は政治の世界に20年間いて、西オーストラリアの首相を8年間務めました。その間、誰かが私のポストを奪おうとしてきたものです。国内政治についてはコメントできませんが、保守政権はわずかな差ながら優勢で、政府もうまく機能しています。選挙については、どういう結果であれ、オーストラリア人が選択することです。

――日本の政治に目を向けると、政権は現在スキャンダルまみれで、議会もほとんど政策議論ができていません。日本の政治文化について思うことはありませんか

私は日本の国内政治についてはコメントできません。唯一言えるのは、日本とオーストラリアが今までに無いくらい良好な関係だということだけです。

――オーストラリア大使館は今、「オーストラリアnow」を開催しています。日本を選んだのはなぜですか?

オーストラリア政府は毎年、「オーストラリアの今」を紹介するために、一つの国や地域を選んでいます。昨年はドイツでしたが、今年はオーストラリア人からの日本への関心が高まっていることからも日本を選びました。オーストラリア人はスポーツが好きですから、19年のラグビー・ワールドカップ、20年の東京オリンピック・パラリンピックと、大イベントが続くこともあるのでしょうし、観光客も増えています。オーストラリア人の間で日本語学習率が高いこともあるでしょう。イノベーション、ライフスタイル、文化・芸術の分野で40イベントを開催する予定です。

――大使としてのミッションは何でしょうか

今の日本とオーストラリアの強固な関係を自己満足で終わらせない、ということでしょう。アジア太平洋で日本企業とオーストラリア企業が協業することを支援したいです。

例えばエネルギー分野は、ガスや石炭、再生エネルギーなどオーストラリア企業が強いですが、アジアではそれらを必要としている国がたくさんあります。オーストラリア企業は、日本のエンジニアリング企業とLNGの受け入れターミナルなどで事業協力しています。日本企業はLNGの新規生産事業に投資している。

つまり日本はオーストラリアに投資し、他の市場に投資できる。われわれ両国は、その方式を別の分野にも適用できるということです。(了)(聞き手=西原哲也)


関連国・地域: オーストラリア日本
関連業種: 天然資源マクロ・統計・その他経済政治社会・事件

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