【ASEAN】ベトナム医療は魅力的な投資機会か?(12)

2018年2月8日付NNA記事「韓越の機関、ヘルスケア事業推進で覚書

」(https://www.nna.jp/news/result/1723342)によると、韓国グローバルヘルスケア事業協同組合は7日、ベトナムのハノイで韓越技術革新センター(IN CENTECH)と相互協力に関する覚書(MOU)を締結したと明らかにしたという。

同記事によると、韓越技術革新センターは、両国の技術協力を目的に、ベトナム科学技術省の傘下に設立された機関だ。MOU締結により両機関は、韓越間のヘルスケア関連ビジネスの発掘や発展を図り、韓国企業のベトナム進出を支援するとしている。

そのために今後は、サービスや製品に関する共同ブランド開発や販売から、国内外の展示会への参加、海外での販路開拓、政府とその関連機関との協力事業まで、さまざまな事業を推進していくという。

■各国が参入機会をうかがうベトナム医療セクター 

今までのシリーズでも見てきた通り、ベトナムの医療セクターは今後の市場拡大が見込める有望なマーケットだ。有望なのはベトナム企業や日本企業のみならず他の国にとっても同様で、特に国内での市場の大幅な拡大が見込めなくなった高齢化の進む先進国から熱い視線が注がれている。

こうした市場を前にして、リスクだけをあげつらえて、“進出しないリスク”を考えないのは片手落ちだ。多くの競合がこれから進出しようとしている中で、いかにリスクをコントロールして、確実な市場への参画を図るかが腕の見せ所だ。

このシリーズのまとめとして、下記の10の医療サービスの進出の際に考慮すべき主要な点について、前回に引き続いて確認していきたい。

(1)現地で十分な患者数、また今後の患者数の拡大は見込めるか

(2)日本医療が現地での医療ニーズに対して十分効果的か

(3)(日本から医師を派遣する場合)現地で日系の医師が市民に対して医療行為を行うことが法規上可能か

(4)現地で日系の病院が提供するサービスに対して支払える「購買力」があるか(現地の所得水準が、日系医療サービスに対して支払えるレベルにあるか)

(5)日本企業に準じる、または上回る医療技術やサービスを提供している現地の医療機関はどの程度あるか(日系病院の強みが競合と比較してどの程度発揮できるか)

(6)現地で医療人材の確保が可能か

(7)集客面で好ましい立地の確保が経済的見合う形で可能か

(8)医薬品や医療機器など、現地において経済的に見合う水準での調達は可能か

(9)(日本から医師を派遣する場合)日本から安定して医師を派遣できる環境か

(10)現地で医療機関の設立が可能か(資本比率や許認可関連)

今回は「(3)(日本から医師を派遣する場合)現地で日系の医師が市民に対して医療行為を行うことが法規上可能か」と「(4)現地で日系の病院が提供するサービスに対して支払える「購買力」があるか(現地の所得水準が、日系医療サービスに対して支払えるレベルにあるか)」を取り上げる。

■ベトナムにおいて外国人による医療行為が可能なのか

海外の医療環境への投資を考えているのが医療機関の場合、現地で外国人としてどの程度の治療が可能なのかは重要な論点だ。現地側も日本からの投資に期待する点として、日本からの先進医療の提供に対する高い関心が背景にある場合が多い。

「(3)(日本から医師を派遣する場合)現地で日系の医師が市民に対して医療行為を行うことが法規上可能か」の観点からベトナムの医療環境を確認すると、「条件付きで可能な国」ということだ。

ベトナムの場合、外国人医師が医療にかかわることができる条件(ベトナムで医業証を取得するため)として、下記の6つの条件を少なくとも満たす必要がある。

(1)関連する専門的な学位を有すること(海外の学位も有効とされる)

(2)十分な実技経験があること(これについては、専門領域によって、必要とされる実技経験期間が別途定められている)

(3)健康であること

(4)ベトナム語の会話が可能であること

(5)裁判所によって、医療行為を行うことを禁止されていないこと

(6)労働局が発行する労働許可証(又は労働許可免除証明書)を持っていること

上記において、明確にベトナム人であることを規定はしていないものの、(4)の「ベトナム語の会話が可能であること」がハードルになるが、ベトナム語が堪能でない外国人は、診療を行う言語を登録してその言語で治療指示及び処方を行い、その指示をベトナム語に翻訳することができれば、ベトナムで診断が可能とされている。

ただ、そのためには「医療通訳」が翻訳することが必要と言われているのだが、日本語が分かりかつ医療用語が日本語でもベトナム語でもわかる人材は極めて少ない。特に、単に言葉が分かればいい話ではなく、その言葉の意味する治療行為が何か、病気の状況が何かをしっかり理解して正しく訳す必要がある。こうした優秀な医療通訳人材の確保も重要な論点になる。

結論としては、このように医療通訳を確保して、上記の6条件を満たした場合は、日本人医師でもベトナムで治療を行うことが可能であると理解されている。

■日本医療を安定的に利用できる現地の所得水準があるか

「(4)現地で日系の病院が提供するサービスに対して支払える『購買力』があるか(現地の所得水準が、日系医療サービスに対して支払えるレベルにあるか)」は、日系医療機関が現地で根付いて事業展開する上で、きわめて重要な論点だ。

日本の医療に対する期待感が高いことは過去にお伝えしたが、それと同様にその医療がどの程度の金額で提供されるのかに対するある種の恐怖感は、発展途上国になればなるほど、高まってくる。

日本医療をしっかり提供するとなると、現地の医師より相当所得水準の高い日本人医師が現地で勤務することになるため、その分診療費に跳ね返ってくる。加えて、高度医療に不可欠な医薬や医療機器を導入し、現地の医療機関が総じて手を抜きがちな衛生管理をしっかり行うとなると、その分医療費は当然高くなる。

結果として、進出する国はこうした現地の医療機関より数段階高い水準の医療費を払える層がどの程度いるかが極めて重要なポイントになる。

従って基本的な構造として、現地で日本の治療や出資に前向きな国であればあるほど、日本人医師の現地での治療に対する制度的な制約が少ない一方で、所得水準の低さからそうした医療に対する「購買力」が低いという「反比例の関係」が存在するというジレンマが存在する(図表1参照)。

つまり、「医療の発展度合いがそれほど高くない国で、購買力(所得水準)が高い国はどこか?」が重要なポイントになる。

■狙い目は所得水準が「高すぎず、低すぎない」国

参考までに、アジアの主要国の所得水準(一人当たり名目GDP)を見てみる(図表2参照)。シンガポールやマレーシア、タイなど所得水準が高すぎる国は、日本医療に対するニーズが低くなるので除外するべきだ。一方で、カンボジア、バングラデシュ、ミャンマーのように所得水準が低すぎると、高度医療に対する購買力が下がるため、安定して支払うことが可能な顧客が少ないため、事業環境として好ましくないことになる。

従って狙い目は「高すぎず、低すぎない」国になる。具体的には、スリランカ、インドネシア、フィリピン、ベトナムあたりになろうか。

一方で、新興国においてより大事になるのが、「現在所得水準が高い国」でははなく、「近い将来所得水準が高くなることが見込まれる国はどこか?」の発想だ。

下記図表3は、「アジア主要国の実質GDP成長率(%)」で、2011~14年の平均値と、15年推定値を比較したものだ。これで見ると、カンボジア、ラオス、ミャンマーなどグラフの右側に来ている高成長の国々は過去平均と比較して実質GDP成長率が下落傾向にある。

一方でベトナムは、インドネシアやフィリピン、バングラデシュ、スリランカと並んでより所得水準の高い国々で、その結果、カンボジア、ラオス、ミャンマーと比較してより低い成長率にはなる。ただそうした比較的現段階でより高い所得水準の国々の中で、ベトナムは高い成長率を保っている国でもある。

こう見てくると、ベトナムはアセアン諸国の中でも比較的確実に患者数の拡大が見込める国と言える。ベトナムの人口が現段階9,000万人超存在しており、かつ人口が増加していることに加えて、1人当たりのGDP(国内総生産)も堅調に増加していく中で、今後より日本の医療機関が提供するような高度医療にかける金額も高まっていくからだ。記事の冒頭で取り上げた韓国をはじめ、多くの国が熱い期待感を持つ理由が見えてくる。

次回は、「(5) 日本企業に準じる、または上回る医療技術やサービスを提供している現地の医療機関はどの程度あるか(日系病院の強みが競合と比較してどの程度発揮できるか)」から見ていきたい。

<筆者紹介>

杉田浩一

株式会社アジア戦略アドバイザリー 代表取締役。カリフォルニア大学サンタバーバラ校物理学および生物学部卒。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)経済学修士課程卒。15年間にわたり複数の外資系投資銀行にて、海外進出戦略立案サポートや、M&Aアドバイザリーをはじめとするコーポレートファイナンス業務に携わる。2000年から09年まで、UBS証券会社投資銀行本部M&Aアドバイザリーチームに在籍し、数多くのM&A案件においてアドバイザーを務める。また09年から12年まで、米系投資銀行のフーリハン・ローキーにて、在日副代表を務める傍ら東南アジアにおけるM&Aアドバイザリー業務に従事。

12年に、東南アジアでのM&Aアドバイザリーおよび業界調査を主要業務とする株式会社アジア戦略アドバイザリーを創業。よりリスク度の高い東南アジア案件において、質の高いアドバイザリーサービスの提供を目指してASEAN各国での案件を遂行中。特に、現地の主要財閥との直接の関係を生かし、日系企業と現地企業間の資本・業務提携をサポートしている。


関連国・地域: ベトナム日本
関連業種: 医療・薬品

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