【ASEAN】ベトナム医療は魅力的な投資機会か?(8)

NNA11月23日付記事「ゼネコンITD、王室系の病院建設を受注」(https://www.nna.jp/news/result/1691539)によると、タイのゼネコン最大手イタリアンタイ・デベロップメント(ITD)は、王室系の医療機関を運営する「チュラポーン・ロイヤル・アカデミー」から病院などの建設事業を受注したと発表した。受注額は74億9,500万バーツ(約257億円)という。

同記事によると、病院(病床数400床)、医科大学、寮、商業施設を建設し、建物の構造から電気系統、通信システム、空調設備、昇降機、内装、外観などの工事を一貫して手掛けるという。

チュラポーン・ロイヤル・アカデミーは医療研究所やがんセンターなどを運営。プミポン前国王の三女であるチュラポーン王女は、来月5日の前国王の誕生日を記念し、医療施設の拡張を計画している。

■有力私立病院が多く存在するタイの病院市場

タイでは、バンコク病院をはじめとする大手病院が数多く存在し、東南アジア諸国連合(ASEAN)の中でも医療サービスにおける先進国に位置付けられている。近年では、ミャンマーやカンボジアなどASEAN近隣国をはじめ、インドや中東からのメディカルツーリズムの主要な受け入れ国の一つとなっている。タイでの主要な受け入れ先病院は、バンコク病院を筆頭とする現地の有力な私立病院だ。

タイの証券取引所においては、現在少なくとも25社の医療機関が上場している。病院が上場というと、日本人的な感覚からはいまひとつピンとこないが、タイにおいては(というか基本海外の多くの国では)私立病院も明確な営利目的で運営しており、その中の大手は上場企業として業容拡大に勤しんでいるのが一般的な姿だ。

こうして資本市場へアクセスし、資金力を得た有力病院は、優秀な医師の囲い込みや豪華な内装の病院の建設、別の病院の買収等、質量ともに充実を図っている。下記は、バンコクにおける主要な私立病院の中の写真だが、ホスピタリティが行き届いたサービスやきれいな内装などさすがはメディカルツーリズムのハブを任じているだけあると思われせるものばかりだ。

サミティベート病院のコンファレンス会場(株式会社アジア戦略アドバイザリー提供)

サミティベート病院のコンファレンス会場(株式会社アジア戦略アドバイザリー提供)

バムルン病院の病室(株式会社アジア戦略アドバイザリー提供)

バムルン病院の病室(株式会社アジア戦略アドバイザリー提供)

ただ、タイも昔から今のように私立病院が公立病院を凌駕する形で存在していたかというとそうではない。ひと昔のタイにおいても、病院は基本的に公立機関がメインで、私立病院はその存在自体が珍しかった時期も長かった。当初は、それこそ今のベトナムでそうであるように、人々は優秀な医師は公立病院にいて、そこで高度な治療を行っており、私立病院はクリニックの延長のような位置づけのように見られていた時もあった。

それが今では、私立病院のプレゼンスは大幅に高まり、「富裕者向けのより高度かつ高価格の医療は私立」、「より庶民向けの治療は公立」といった色分けができている。公的機関の財源は政府からの補助金に依存するため、財政的に厳しい傾向にあるのに対し、民間医療機関の場合は民間保険利用者、駐在員などの外国人を多く対象としている点などから、ホテル並みのサービス、付帯施設を備える病院もあり、その格差は非常に大きくなる一方だ。

■タイ私立病院の草分け的なバンコク病院

果たしてタイにおいてはどのような過程を経て、このような現在の私立病院の隆盛につながっていったのだろうか。そこにはそうした先駆者的な私立病院によるどのような取り組みがあったのだろうか。

今回この点について、タイの私立病院の草分け的な存在をリードした方に、直接話を聞いた。それは、タイにおける有力私立病院であるバンコク病院の共同創業者Pongsak Viddayakorn氏のご子息であるSatit Viddayakorn氏だ。

バンコク病院は、現在その持株会社であるBangkok Dusit Medical Services Company Limited (BDMS)傘下で合計45の病院を運営しており、世界的に見ても大手の病院グループとなっている。BDMS社の現在の時価総額は3,300億バーツをこえており、日本円にして1兆円を超える大企業だ。そのグループの中にはサミティベート病院などバンコクにおける日本人にとっても馴染みのある病院も含まれている。

Satit Viddayakorn氏の父親であるPongask Viddayakorn氏は1969年のバンコク病院創業メンバーの一員で、その後1977年から2007年までBDMSの社長を務めていた。その間に同社は業容を大幅に拡大し、1991年の証券取引所への上場など今に至る拡大の礎を築いている。その息子であるSatit Viddayakorn氏は父の近くでバンコク病院の事業拡大を目撃してきたいわば時代の生き証人だ。

■タイの30年前にあるベトナムの医療事情

同氏に、まずは現在のベトナムの医療環境について聞いてみた。

――ベトナムにおいては現在公立病院のプレゼンスが高く、まだタイのような技術力のある有力な私立病院は数少ない状況だ。こうした風景は過去にはタイにおいても見られたのか?

まだバンコク病院がそれほど大きくなかった30~40年前のタイはまさにこんな感じだった。病院といえば公立病院で、私立病院は数えるほどしかなかった。

――それが現在では私立病院のプレゼンスが高まり、医療技術等を含めて公立病院をしのぐポジションまできている。

そう考えると隔世の感がある。ただそこに至るまでは、やはり人々の意識を変える必要があり、それなりの時間がかかっている。またそこに至るまでは、多くの失敗した私立病院の存在もある。

――そうした私立病院の拡大の流れにおいて、バンコク病院は常に中心的な役割を果たしてきた。なぜ、バンコク病院は多くの困難を乗り越えて、このようなポジションにたどり着くことができたのだろうか?

それにはいくつかの要因が存在していると思う。

同氏はおもむろに身を乗り出して、なぜバンコク病院が数多くの病院間の競争を潜り抜けて、現在の地位にたどり着くことができたのかについて語り始めた。残念ながら、今回はここで紙幅が尽きた。次回、バンコク病院の差別化戦略について記載したい。

<筆者紹介>

杉田浩一

株式会社アジア戦略アドバイザリー 代表取締役。カリフォルニア大学サンタバーバラ校物理学および生物学部卒。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)経済学修士課程卒。15年間にわたり複数の外資系投資銀行にて、海外進出戦略立案サポートや、M&Aアドバイザリーをはじめとするコーポレートファイナンス業務に携わる。2000年から09年まで、UBS証券会社投資銀行本部M&Aアドバイザリーチームに在籍し、数多くのM&A案件においてアドバイザーを務める。また09年から12年まで、米系投資銀行のフーリハン・ローキーにて、在日副代表を務める傍ら東南アジアにおけるM&Aアドバイザリー業務に従事。

12年に、東南アジアでのM&Aアドバイザリーおよび業界調査を主要業務とする株式会社アジア戦略アドバイザリーを創業。よりリスク度の高い東南アジア案件において、質の高いアドバイザリーサービスの提供を目指してASEAN各国での案件を遂行中。特に、現地の主要財閥との直接の関係を生かし、日系企業と現地企業間の資本・業務提携をサポートしている。


関連国・地域: タイベトナム日本
関連業種: 経済一般・統計医療・薬品

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