【アジアで会う】金承福さん 出版社「クオン」経営者 第181回 本でつなぐ日韓文化(日本)

キム・スンボク 韓国・全羅南道霊光出身。幼少期から文学に親しみ、ソウル芸術大学では現代詩を専攻。留学生として2001年に来日し、日本大学芸術学部に入学。卒業後、広告代理店勤務を経て、07年に出版社クオンを東京で設立。15年に東京・神田神保町にブックカフェ「チェッコリ」をオープン。日本出版界での韓国書籍の拡充を図るK―BOOK振興会の事務局長。クオンの意味は“(いいものは)永く続く”。

東京・神田神保町の古書街に、韓国関連の書籍を取り揃えたブックカフェ「チェッコリ」がオープンしたのは15年7月のこと。15坪ほどの店内には、空輸された最新書籍から子ども用の絵本まで、約4000冊がずらり。伝統茶をすすりながら本を自由に閲覧するもよし、日韓の語学交換にいそしむもよし。ハングルに囲まれながら、皆、思い思いに過ごしている。「本と読者をつなぐ空間が作りたかった」と、知的かつ温かみのある笑顔を浮かべるオーナーの金さん。彼女は、出版社「クオン」を07年に立ち上げ、韓国の名作を数多く日本語に翻訳出版しているカリスマ経営者だ。

■2度の経済危機をチャンスに変えて

「本なら何でも読んでしまう活字中毒の子どもだった」という金さんと日本との縁が始まったのは1991年。名門・ソウル芸術大学を卒業後、留学生として東京にやってきた。当時の韓国は、海外旅行が自由化されたばかり。「留学が大ブームになっていて、私もとにかく“外”に出たい一心だった」と振り返る。英国留学をするつもりが、父親が「遠すぎる」と猛反対。「だから、一番近いという理由だけで日本にした」と笑う。せっかくなら日本らしいものを学びたいと、日本大学芸術学部の文芸学科に入学。著名なエッセイストでもある伊藤礼氏のゼミに入り、安部公房をはじめとした近現代文学をたっぷりと学んだ。

97年に大学を卒業し、「韓国に帰ろうとしたものの」、アジア通貨危機で韓国経済は崩壊寸前。帰国しても働き口がないため、東京の広告代理店に就職を決めた。持ち前のリーダー気質と、「大変なことを大変と思わず、『とにかくやってみようよ』とチャレンジする」という行動力で、4年後には独立し広告会社を起業。当時、韓国で流行っていたキャラクターフォントを日本に導入しようと、ディズニーなどの大企業にプレゼンを仕掛け、好調に業績を上げた。しかし、今度は08年のリーマン・ショックで仕事が激減。本好きだった原点に戻り、「本当にやりたいことをやろう」と立ち上げたのが「クオン」だった。

■文学で韓国を再発見してもらいたい

「広告会社を経営する傍ら、これはと思う韓国の詩や小説を日本の出版社に売り込んでいたんですが、書籍化には至らず。だったら自分で出版社を作り、自分で出そうと」

「韓国人が経営する在京出版社」という特徴を生かして、作家や出版社のコネクションを開拓。韓国の最新刊を常時チェックし、「これは!」と思った作品の出版権の交渉をするのはもちろん、編集者・翻訳者の選定、ブックカバーのデザイン発注まで、全て金さん自らが手がける。これまでに出版した本は50冊以上。中でも実力派作家の話題作を紹介する「新しい韓国の文学シリーズ」は、「これまでにない小説が楽しめる」と一般読者からも注目を集めている。

「シリーズ第1弾として出版した『菜食主義者』(ハン・ガン著)は、すばらしい文体に私自身がほれ込んだ小説。クオンから日本語版を出した後、英語版が世界的文学賞であるブッカー賞を受賞したんですが、いいものは誰が読んでもいい作品なんだと自信がつきました」

とはいえ、本が売れないといわれる今の時代。少人数経営のクオンの台所事情をおせっかいながら心配すると、「確かに金銭的に苦しかった時もありました。でも、そんな時に限ってポンと数百万円出してくれる人が現れたりするんですよね。私が“持っている人”? そうかもしれません(笑)」。

金さんの活動は、出版業とブックカフェの運営にとどまらない。「韓国文学を日本で広げるためなら何でもしたい」と、文学をテーマにした韓国旅行の主催をはじめ、翻訳コンクール、翻訳講座など、新しい取り組みを次々と始めている。「クオンを立ち上げた10年前と比べても、韓国文学ファンは着実に増えていると感じます。最高のエンターテイメントである文学を通じて、韓国を“再発見”してもらうのが私の願いです」と金さん。来年は仕事を通じた“つながり”をつづった本を出版する予定だ。(東京編集部・古林由香)


関連国・地域: 韓国日本
関連業種: 社会・事件

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