【アジアインタビュー】中国が米国を追い越す日 習政権のブレーン・胡教授に聞く

中国で10月、5年に1度の共産党大会が開催され、習近平政権が2期目に入った。政治的にも経済的にも世界への影響力が増している中国は何を目指しているのだろうか。習政権のブレーンとして知られる清華大学国情研究センター長の胡鞍鋼教授に中国の行方について聞いた。

「一帯一路構想は日本にとってもチャンスとなる」と語る胡鞍鋼・清華大教授

「一帯一路構想は日本にとってもチャンスとなる」と語る胡鞍鋼・清華大教授

――10月の共産党大会の演説で習近平国家主席は、建国100周年となる2049年までに経済や政治で世界をリードする「社会主義現代化強国になる」ことを目標に掲げた。成長鈍化や構造改革、生産年齢人口の減少など時代の変化に直面しているが、本当に「強国」となることは可能か。

中国を世界の中の「強国」にするという目標は、半世紀前の1956年に毛沢東が打ち出した長い歴史のある概念で、目新しいものではない。当時の党規約には「社会主義国家」としての発展を主眼に置いたが、トウ小平時代の1970年代はまず最低限の生活を保障し、将来的に「全面的な小康社会(ややゆとりのある社会)」を実現することを目標に掲げた。これが長らく中国共産党指導者たちの重要な目標となっていた。習国家主席が「社会主義」に「現代化強国」という言葉を付け加え、「社会主義現代化強国」を新たな国家の長期目標に位置づけたことになる。毛沢東が打ち出した目標をトウ小平が変え、トウ小平の目標をさらに習近平国家主席が変更したという歴史的な意味合いを持つ。

――「強国」とはどんな概念か。

強国がどんなものかを定義するのは重要だ。トウ小平は当時、高度成長を経て近代化を遂げていた日本や米国などを訪問し、強国とはどんなものかを学んだ。一つ目は経済面においての強国だ。1人当たりのGDP(国内総生産)が米国の60~70%の水準に達すれば、人口14億人全体のGDP規模で中国が米国を追い越し、世界一となる。

2番目は政治面での強国だ。米国をはじめとする西側諸国の民主主義政治を超越した、特色ある社会主義体制を確立すること。3番目の強国は、文化面で米国を超えることだ。中華文化を広め、世界に影響力を持つようになることだ。

4番目の強国は、民生面でも米国を超えることだ。医療や教育、就業、老人福祉などの厚生環境を充実させ、人民が豊かな生活を送れるようにすること。米国ですらまだ実現していないが、医療保険制度と社会保障制度をすべての人民が享受できるようにし、都市と農村という地域の格差や所得の格差を縮める。

環境面では、「グリーン・ニューディール」(低炭素経済)政策として「美しい中国」を建設することを目標とした。米オバマ前大統領と習国家主席が16年9月、地球温暖化防止に向けた国際的な新しい枠組み「パリ協定」を批准したと共同発表した。中国は30年までに温室効果ガスの排出量を05年比で60~65%削減する目標を立てているが、この目標もかなり前倒しで実現できる見通しだ。現在のトランプ米大統領はパリ協定からの脱退を表明している一方で、中国は必ずこれを実行していく方向性に揺るぎはない。

さらに中国は世界平和に貢献すべきだと考えている。中国は決して戦争を起こさない、紛争にも参加しない。国際連合平和維持軍(PKO)に派遣している兵士の数は国連安保理常任理事国別で最も多く、国連への拠出金は米国、日本に次ぐ3位となっている。

そして経済における世界のグローバル化にも大きな役割を果たしていこうとしている。日本にとって中国は最大の貿易相手国で、中国のグローバル化の恩恵を最も受ける国になりうるだろう。科学・イノベーションの方面でも、中国は21世紀に世界で最も影響力を持つようになる。すでに特許取得数は米国を抜いて世界トップとなった。

習国家主席が党大会で打ち出したこうした49年までの長期目標を、日本はよく注目すべきだろう。中国を脅威と捉えるのではなく、チャンスとしてみる視点が求められている。英国は中国とは地理的に遠いにもかかわらず経済関係の構築には積極的で、人民元取引センターを開設したほか、中国人留学生の数が世界でも多い国となっている。低成長にあえぐ日本も英国などに学び、中国の成長を取り込んで日本に利益をもたらすという姿勢が重要になってくるのではないか。

――だが中国の世界への影響力拡大を警戒する論調は少なくない。

かつてスペインや英国、米国が世界で影響力を増した時代も同じだったが、一つの国が強くなれば周辺でそれを警戒する動きは広まった。植民地主義、帝国主義、覇権主義という3つの時代があり、我々人類はこの3つの時代に甚大な犠牲を強いられたのは知っての通りだが、現在は新しい時代だ。

中国は今、政治的、経済的にも強大となり、米国にとって代わろうとしているとみられている。これは100年前に米国が英国を超えた時代と似ているものの、習国家主席が政治報告の中で世界の国々と「ウィン・ウィン」の関係を築き、共同発展する目標をはっきり打ち出していることを忘れてはならない。世界240の国・地域のうち120の国・地域にとって中国が最大の貿易相手国になっている。控えめな見通しであっても、20年にはこれが150カ国・地域に増えるとみられている。グローバル化の進展によって世界との経済的な結びつきが強まる中、中国が他国と戦争をし、地域の紛争にかかわることに何のメリットがあるだろうか。

――日本の政治家やマスコミ、国民は民主主義や市場経済、人権尊重など西側諸国が重要視してきた基本的な価値観について中国とは共有できないのではないかと考えている。この価値観の違いが中国の影響力の拡大を懸念する背景にもなっているのではないか。

政治文化の多様性を認めなければならないだろう。多様性は世界の魅力のひとつ。多様性が保たれた生態系ほど美しいとされるが、政治文化も同じだ。我々は(政治、経済システムの違いによる)競争を怖れていないし、競争がなければ進歩もない。互いに競争しながらも、同時に協力していく姿勢が大切だ。中国の文化は広い寛容性を持ち、外部から学ぼうとする精神を貫いている。世界に平和貢献できる時代が来ると考えている。

胡教授は中国新体制の重要ポイントを解説した最新書籍『中国集団指導体制の「核心」と「七つのメカニズム」』と『習近平政権の新理念―人民を中心とする発展ビジョン』(いずれも日本僑報社刊行)を出版

胡教授は中国新体制の重要ポイントを解説した最新書籍『中国集団指導体制の「核心」と「七つのメカニズム」』と『習近平政権の新理念―人民を中心とする発展ビジョン』(いずれも日本僑報社刊行)を出版

――中国は10年まで2桁台の高い経済成長を誇っていたが、直近5~6年は1桁台に落ち込み、16年は6.7%成長までに減速している。今後の長期的な成長率はどうなると予測しているか。

中国の経済発展の段階を3つに分けて考えている。最初の発展段階は1978年~2011年の高成長時代。2段階目は11年~20年の中・高成長時代で、7%の平均成長率になる見通し。3段階目は20年~35年で、4.8%~5.6%の成長率を実現し、35年以降も4%前後の成長率に安定するだろうとみている。1人当たりの平均所得でみると、1978年~2011年は低所得の時代、11年~20年は中所得の時代、20年~35年はさらに高所得に向かう時期に。そして35年以降は先進国と同等レベルに達するだろう。

これら成長を大きく後押しするのが「創新(イノベーション)」や創業だ。創業という観点からみてみると、現在登録されている企業(登録市場主体)数は9,000万社余りに達し、03年時点の3,000万社から3倍にもなった。20年には1億社超と、日本の人口と同じ数まで増えると予想している。これに伴って就業者、特に都市部の就業者数が増える見通しだ。すでに全国の就業者は7億7,000万人に上っている。女性の社会進出が進んでいるほか、男性は55歳、女性は50歳としている退職年齢についても将来的には引き上げられる見通しで、ますます就業者の数は増えていくだろう。

また例えばドローン(小型無人機)がすでに農業分野にも応用され、スマートフォンでの決済が普及しているように、人工知能(AI)やIoT(モノのインターネット)などの最新技術が物流やサービスなど産業の垣根を越えたイノベーションや創業を促進していく。15年にGDPに占める第3次産業の割合は50%を超えたが、35年にはこれが3分の2に上るとみている。安定成長に向けた経済構造改革も順調に進んでいく。

――今後の日中関係はどうなるか。新シルクロード構想「一帯一路」に日本も参画する機会はあるか。

日中関係は長らくこう着状態にあり、両国関係者も深い関心を寄せている。習政権の新指導部が提唱しているのは世界の国々との互恵関係だ。中国にとって周辺国との良好な関係づくりは、中国自身の発展にも欠かせない環境づくりだと認識している。今後、両国が大局的な観点から共同の利益を見出していけるかどうかが重要となるだろう。日中関係の改善は日本経済にとってもチャンスとなるはずだ。

一帯一路について中国は常にオープンで、日本や米国の参画も歓迎している。トランプ米大統領が自国優先で保護主義的な政策を強める中にあっても、逆に中国はグローバル化の歩みを止めることはない。世界のインフラ投資の機会に参画していくことは、こうしたグローバル化に逆行する動きを阻止することにもなると認識している。(聞き手=吉沢健一)

<プロフィル>

胡鞍鋼氏

1953年生まれ。清華大学公共管理学院教授。同大学国情研究センター長。「第13次5カ年計画」専門委員会委員などを歴任。中国共産党第18回党大会代表。党大会で決定される新ガイドラインを解説した『習近平政権の新理念―人民を中心とする発展ビジョン』、中国新体制の重要ポイントを記した『中国集団指導体制の「核心」と「七つのメカニズム」』(いずれも日本僑報社で邦訳出版)を執筆した。


関連国・地域: 中国-全国日本米国
関連業種: 経済一般・統計電力・ガス・水道金融・保険政治

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