• 印刷する

【外国企業の日本戦略】シーメンス「デジタルに国境ない」 【第4回】藤田研一社長に聞く

欧州最大の重電企業シーメンス。日本進出は明治20年(1887年)にさかのぼり、今年は130周年を迎えた。脱・原子力発電や再生可能エネルギー普及といった欧州連合(EU)の動きを先取りしてきたシーメンスは近年、ハードからソフトへと領域を拡大。製造業や発電所におけるクラウド型IoT(モノのインターネット)システム基盤「マインドスフィア(MindSphere)」を今年4月、日本でも提供開始した。藤田研一社長(日本法人)は、「日本とドイツはいずれも、ものづくりの風土があり、両国企業は競合ではなく協業すべきだ」と語る。デジタル化する製造業や社会に国境の壁はない、と説く藤田氏に日本事業の戦略を聞いた。

「日本とドイツ企業は競合ではなく協業関係にある」と話すシーメンスの藤田研一社長=東京(NNA撮影)

「日本とドイツ企業は競合ではなく協業関係にある」と話すシーメンスの藤田研一社長=東京(NNA撮影)

――シーメンス本社からみた日本法人の位置付けや日本市場の見方は。

本社では「デジタル化」、「オートメーション化(自動化)」、「エレクトリフィケーション(電化)」の3領域を強化しており、日本では電力事業や製造業のIoT分野に集中する考えだ。日本法人は、シーメンスが本社直轄している重点地域の一つ。進出130年の歴史で、ドイツ人が歴代、社長を務めてきたが、2011年からは日本人が社長に就き、「現地化(ローカル化)」を進めている。日本市場やアジアに強い日本企業との連携で、さらに日本事業を強固にする狙いだ。

■電力自由化に商機

――12年には、発電・送電事業の日本での強化策を打ち出した。沖縄電力の発電所でも納入実績をつくった。

日本では電力小売りの自由化が16年に始まり、完全自由化(発送電の分離)は20年を予定している。

電力会社が発電・送配電・小売りの全てを有するいわゆる「垂直統合型」が崩れると、マーケットが拡大し競争原理が働くようになる。約20兆円とも言われる市場で、価格競争が始まる。発電に関しては低コスト(高効率発電)と品質(安定した運転・供給)が求められる。そこにわれわれが世界中で納品している製品が投入されるのは自然の流れだ。ドイツでは電力市場は1998年に完全自由化しており、良いところも悪いところも含めてさまざまな事例がある。先行するわれわれの持つノウハウは多い。これを日本の事業者と共有したい。

――日本での電力部門への参入は、日本の既存プレーヤーにとっては「黒船」のような存在だ。

それはイメージの問題だと思う。海外での発電プロジェクトでは、日本の重電メーカーやエンジニアリング会社とコンソーシアムを組むことは当たり前に行われている。ガスタービンは当社製を採用し、発電機やボイラーなどは他社といった複数企業の製品と併用されることが多い。そういったさまざまなプレーヤーの組み合わせが、日本でも電力市場自由化の流れで進むということではないだろうか。

また、当社グループの日本企業との合弁会社もある。三菱日立製鉄機械との合弁のプライメタルズテクノロジーズ(本社・英国)や、安川電機との合弁の安川シーメンスオートメーション・ドライブ(本社・東京)などが国内外で展開しており、いつも日本企業と競合しているのではない。

■スペイン新幹線の運営も

――タイ、シンガポールなどアジアの大都市ではシーメンス製の鉄道車両が活躍している。中国ではフォルクスワーゲン(VW)の工場新設を請け負うなど、日本のインフラ・製造業にとっては脅威にも映る。

これもイメージの問題かもしれない。英国の高速鉄道案件では日立製作所が受注している。シーメンスが一人勝ちしているのではない。

当社では、スペインの新幹線(高速鉄道)を一括受注している。建設や納入だけではなく、その後の運営管理を行う。新幹線に遅れが発生した場合には料金を払い戻すことまでも担保している。

IoTの新時代は、メーカーがハードウエアを一括納入すれば、そこで発注企業との関係が途切れるのではない。鉄道や発電所あるいは工場であっても、その後のメンテナンスや運行・運転などのオペレーションも請け負いながら、ビッグデータの解析による全体最適の実績を世界中で積み上げている。

――一般の製造業や発電プラントに欧米ソフトのルールが適用化されることに脅威を感じる日本企業も多い。

間違いなく世界の市場環境は、「市場自由化」と「デジタル化」に進む。

デジタル化は、パートナーを組まないとできない。製造業であれ、発電所であれ、1社単独でなにもかもすべてができるというのはあり得ない。そうすると自然と企業間の垣根は越えていくことになる。日本企業という枠組みで考えると限界もある。

そもそもデジタルに国境はない。シーメンスが世界中に納入した7万基の風力発電機はデンマークと米国の監視センターが常時モニタリングしている。世界中の稼働状況が瞬時に分かるのだ。

当社ほどのたくさんのオプションを提供できる企業は、世界に何社あるだろうか。これが強みであり、利用してほしい。幸い、ものづくりのマインドは日独共通のものがあり、われわれは協業できる。

――シーメンスが欧米他社と違う強みは。

よく比較されるのが米ゼネラル・エレクトリック(GE)だ。ヘルスケアや重電など競合する部門が多い。当社の強みは、製造設備などの生産も行っており、「インダストリー4.0」に代表される「デジタルファクトリー」のコンセプトが導入しやすいことだ。

ロボットや工作機械の専業メーカーは、各社が得意な分野で強みを発揮している。われわれは工場全体や発電所など、より大型・広い範囲をカバーできる。

■デジタル化これから、導入に時間なお

――インダストリー4.0や、デジタルファクトリーへの関心が高まっている。

製造業の高度化・デジタル化を意味するインダストリー4.0や、製品開発から生産までをデジタルでバーチャルにシミュレートする「デジタルファクトリー」の講演会が盛んに各地で行われている。ということは、「これからの話」というのが実態だろう。

導入の事例に関しては、実証実験が各地でスタートしている。ただし、それが企業のバリューチェーン全体に行きわたるには相当の時間がかかる。製造業をみると、各工場で「カイゼン」を進めた結果「部分最適」になったが「全体最適」になっていない、ということがよくあり、これが今後のIoT化の課題となる。

デジタルファクトリーに関しては、すでにデジタル化している3次元(3D)CADなどのデータを、同じくデジタル上でシミュレーションし、試作検証後に製造技術や製造工程管理にまで一気通貫でつなげる。これをさらに進めると、開発から販売後のアフターサービスまでを一元管理でき、企業資産の最適運用が可能となる。

こうした一連の作業すべてを一社のみで実施することは困難だ。そのため、インターネット経由で必要な機能を利用する「SaaS(サービス型ソフトウエア)」などで専門性の高い企業が協力し合いながらプロジェクトを進めることになる。

現場の効率改善だけでなく、企業経営の効率化も促すだろう。

(遠藤堂太)

<会社概要>

◇シーメンス

1847年、ドイツ・ベルリンで創業。鉄道・発電・電気通信機器・医療機器などの分野で強みを持つ。2016年度(15年10月~16年9月)の売上高は796億4,400万ユーロ(約10兆3,243億円)、全世界(約200カ国・地域)に社員35万1,000人。このうち日本法人は売上高11億6,700万ユーロ、社員2,090人。

1887年に東京・築地に日本事務所を設立。1923年には日本初の日独提携事業として、シーメンスと古河電気工業出資で現在の富士電機が設立するなど、日本との関わりが深い。戦前はレントゲン、通信・電気設備、水力発電機器などを売り込んだ。

現在の日本法人名はシーメンス。2015年にヘルスケア部門を分社化している。


関連国・地域: 中国香港台湾韓国タイベトナムミャンマーカンボジアラオスマレーシアシンガポールインドネシアフィリピンオーストラリアインド日本欧州
関連業種: 電機その他製造IT・通信電力・ガス・水道マクロ・統計・その他経済

その他記事

すべての文頭を開く

帰国邦人専用PCR施設、グルガオンに設置(05/13)

膨らむ日本企業の商機 半導体をつくる島の未来(4)(05/14)

テイクオフ:新型コロナウイルス感染…(05/14)

シンガポール航空、成田経由LA線を再開(05/14)

【アジア三面記事】学友3人救った青年(05/14)

森永乳業、ベトナムの同業エロヴィ買収(05/14)

JOGMEC、比の石油備蓄構築へ調査(05/14)

最低賃金上昇率、アジア18カ国で韓国が最大(05/14)

すべての文頭を開く

※本コメント機能はFacebook Ireland Limitedによって提供されており、この機能によって生じた損害に対して株式会社NNAは一切の責任を負いません。

の記事は有料サービスご契約者様限定記事です。契約すると続きをお読みいただけます。契約されている方は、画面右側にある各種ログインからログインください。
無料トライアルはこちら
購読申し込みはこちら

NNAからのご案内

出版物

SNSアカウント

各種ログイン