第10回　「不動産開発・建機業界から見るタイプラスワン　カンボジアとミャンマーではどちらが有力な進出先か」（その10） ■建機関連業界から見るカンボジアとミ…

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■建機関連業界から見るカンボジアとミャンマーの投資事業環境比較

今回のこのシリーズでは、「不動産開発・建機業界から見るタイプラスワン　カンボジアとミャンマーではどちらが有力な進出先か」と題して、大よそどのような業界においても必要とされるインフラ整備の状況と、現地におけるファイナンス等お金の流れに関する整備状況の視点から、カンボジアとベトナムの状況を比較してきた。
前回（https://www.nna.jp/news/show/1595540）はそのまとめの第１弾として、不動産開発業界をテーマに、今までの主要なポイントを振り返りながら、両国の投資環境の違いについてみてきた。今回は、同様に両国における建機及びそのファイナンス業界を比較して、それぞれの国の投資環境の特徴を見ていきたいと思う。

■比較的自由度の高いカンボジアの金融業界環境

2016年12月28日付の「第３回　カンボジアとミャンマーではどちらが有力な進出先か（その３）」（リンク）では、カンボジアにおける建機ファイナンス業界の特徴をまとめている。その主要なポイントは下記の通りだ。

●資金需要：現在極めて旺盛
●資金供給：銀行貸し付け、建機メーカーによる貸し付け、リース、マイクロファイナンス機関による貸付などの幅広いルートでのファイナンスが行われている
●資金供給者：建機メーカーやその代理店の国籍にかかわらず幅広くファイナンスを提供している
●担保保全：衛星利用測位システム（ＧＰＳ）を敷設することにより、貸し倒れによる担保保全を防ぐ仕組みが実施されている。従って、貸倒れの発生も比較的少ない様子
●担保価値：中古建機に対する需要は底堅く、中古建機の市場も機能しているため、（メーカーや機種にもよるが）中古建機市場での流動性及び一定程度の価値が維持されている
●外資の参入:比較的容易

このように、比較的緩い規制の中で、我々が普段一般的に見るような借入やリース、ハイヤーパーチェス、割賦などの幅広いサービスが各国企業から提供されているのがカンボジアの建機ファイナンス業界の特徴だ。多くの金融機関の間で活発な競争が行われ、その結果、貸し付け金利水準の低下を含むサービス水準の向上も図られている。

■カンボジアと比較して大きく劣後するミャンマーの建機ファイナンス市場

次にミャンマーの建機ファイナンス業界の状況を見ていこう。2017年３月８日付「第７回　カンボジアとミャンマーではどちらが有力な進出先か（その７）」（https://www.nna.jp/news/show/1574529）では、ミャンマーにおける建機ファイナンスの市場環境の特徴をまとめている。その特徴を一言で表すと、ミャンマーの建機ファイナンス業界は、カンボジアのそれと比較して今のところ大きく劣後している状況だ。

●資金需要：銀行などの貸し付けが不十分な中で、建機ファイナンスに対する潜在的な需要は旺盛
●資金供給：提供形態はカンボジアと比較してより限定的で、主に提供しているサービスは「ハイヤーパーチェス」で、一部割賦の提供も行っている程度（リースは実質行われていない）
●資金提供者：これらの建機ファイナンス・サービスは基本的に現地資本のディーラーが行っており、外資の建機ディーラーは行っていない
●担保保全： ファイナンスの提供を行っている現地のディーラーは、販売する建機にＧＰＳなどを付けておらず、担保保全の能力もカンボジアと比較して低い
●担保価値：中古の建設機器の市場がカンボジアほど整備されておらず、中古の部品などの入手も限られるため、比較的新車での購入に流れる傾向が強い。そのため中古市場の価格の底支えが弱く、下取り価格も低くなりがち
●外資の参入：比較的難しい

このように、一口に「タイプラスワン」の新興国といっても、カンボジアとミャンマーで、ファイナンスの提供環境は大きく異なっている。今後ミャンマーにおいても、状況は変わっていくことが予想されるが、現段階においてはカンボジアのほうがファイナンス面での充実度は上回っているとはいえよう。
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■両国の建機ファイナンス業界の事業環境の違いの原因は？

なぜカンボジアでこのように各種のサービスが提供され、業界が整備されてきたか、また逆にミャンマーにおいてそのような状況に至っていないか。こうした事業環境の違いの重要なポイントは、業界に対する規制の厳しさにある。
カンボジアは、業界全体において規制の基準が比較的緩やかで、外資も進出しやすいことから、日系を含む高いサービスを有する企業が入って競争の水準を高めている。一方で、ミャンマーでは、可能な事業形態が限られ、加えて外資にとっての参入規制が一部課されているため、サービス環境の改善も必然的に限られたものになる。結果、建機ファイナンスは業態として確立しているとは言えない状況だ。
建機ファイナンス業界の業界環境の比較は、この業態の事業参入のしやすさだけの話にとどまらず、それぞれの国のファイナンス業界全体に対するスタンスを見るうえで重要だ。
事業リスクの高い新興国においては、貸し倒れを含め与信に対するリスクも高くなるため、そのリスクを織り込んだ金利でなければ事業が成り立たない。必然的に金利水準は、先進国のそれと比較すると高いレベルに落ち着くことになる。
そうした中で、例えば上限金利を設定するなど硬直的な規制を導入すると、上限金利より低い貸出金利では、貸出側は収益が上がる形で事業展開ができず、その結果“非合法な”高い金利で貸し出さざるをえなくなる。一方で、成長の機会にあふれる新興国においては、恒常的に借入れに対するニーズは強く、高い金利でも借りたいという需要は存在する。こうして、上限金利がない中ではそれまで合法的に行われていた貸し付けが、上限金利の制定後は非合法で継続されることになり、結果として“闇金融”が広がっていくことになる。

■今後長期的にはカンボジアの優位性が変わっていく可能性も

今までの話をまとめると、単純にファイナンスに関する事業環境は、カンボジアが進んでいてミャンマーが遅れているとの結論に帰結するかのようだ。ただ現在起こりつつある状況を見ると、必ずしもそうとは単純に言い切れないことが見えてくる。
カンボジアでは、上述の「上限金利」が、今年の４月１日から導入された。その結果、今までは規制も緩く、各金融機関の競争下で決められていた金利より低い水準で、事業の展開を行う必要が出てきた。そのため、現地の金融機関では今期の減益が予想されている。
2017年４月12日付のＮＮＡ記事「小口融資の上限金利、複数機関が減益を予測」（https://www.nna.jp/news/result/1595365）によると、カンボジア中央銀行が４月１日から、マイクロファイナンス（小口金融）機関の上限金利を18％に引き下げたことを受け、複数企業が今年の減益を予測している。同記事の予想では「2,000米ドル以上の融資を行う機関への影響はほとんどないが、自国通貨リエルで2,000米ドル未満に相当する少額融資を行う機関は大きな打撃を受けるだろう」とみている。
例えば、ＡＭＫは今年の利益が前年の660万米ドル（約７億3,000万円）から半減すると厳しい予測を立てており、その結果自己資本利益率（ＲＯＥ）は現在の約20％から大幅に低下するという。ビジョンファンド・カンボジアも、今年の純利益は昨年の340万米ドルから60％程度減少するとの見方を示す。

■ミャンマーでのマイクロファイナンスに参入する企業が増える可能性も

一方で、ミャンマーにおいては、海外からのマイクロファイナンス事業への新たな参入が続いている。2017年４月７日付のＮＮＡ記事「ドラゴンキャピタル、ミャンマーで小口金融」（https://www.nna.jp/news/result/1595365）によると、ベトナムに拠点を持つ英系資産運用会社ドラゴン・キャピタルとミャンマーの消費財販売大手ロイヘイン・グループのルビー・ヒル・フィナンシャルは４月５日、合弁によるマイクロファイナンス（小口金融）機関をミャンマー最大都市のヤンゴンに設立することで合意している。
ロイヘインのサイ・サム・トゥン会長は「ミャンマーでは投資の潜在性が高い半面、人口の７割が地方に住み、金融機関にアクセスできない人が多い。金融部門が国内総生産（ＧＤＰ）に占める割合も５％ほどしかない」と述べ、マイクロファイナンスはミャンマーの経済発展と貧困脱却に貢献するとした。
ドラゴン・キャピタルのスクリブン会長も「我々はカンボジアでマイクロファイナンスを運用した経験を生かし、ミャンマーの人々が融資にアクセスできるよう手助けしたい」と話した。同社にとって、ミャンマーへの投資は初となる。ミャンマーでは顕在化しているが融資を受けられていない資金需要が10億米ドルに上るとみられているという。
カンボジアで今後規制がより強まり、かつミャンマーにおいて事業環境が整備されれば、カンボジアでファイナンス事業を展開する企業が、より需要が存在し事業機会の広がるミャンマーへの進出をより積極的に考えていくことになるだろう。

■発展途上国の成長に重要なリスクマネーの供給

途上国の成長において欠かせないのは、リスクマネーをどのように安定して呼び込むかだ。より高いリスクに応じたリターンが見込めない限り、その国に投資を行おうとするインセンティブは湧いてこない。無理してリスクが高いがリターンの少ない国に投資をするより、より安定して高いリターンを獲得できる別の国に投資をしたほうが良い。従って、そうしたより魅力的な投資先に、資金は勝手に流れてしまう。
つまり、どの程度リスクマネーを安定的に呼び込める環境にあるかが、経済発展において重要な要素となる。リスク度が高い場合は、海外からの開発援助資金や非政府組織（ＮＧＯ）などからの寄付などが呼び水になるが、その後安定した成長につなげるためには、リスクマネーが安定して入ってくることが不可欠で、それができる事業環境かを見ることで、その国の長期的な成長の動向を占うことができる。
そのための重要な要素が、現地における規制環境だ。今後の規制環境の変化次第で、大きく両国の発展のスピードは変わってくるだろう。進出国の選択においても、その国における規制環境の状況と、今後の展開について注意深く確認することが重要だ。

■シリーズ全体のまとめとして、結局どちらが有力な進出先といえるのか

今回「不動産開発・建機業界から見るタイプラスワン　カンボジアとミャンマーではどちらが有力な進出先か」と題して、10回にわたり両国の事業環境から、どちらが有力な進出先になりうるかを見てきた。
不動産開発業界にしても、建機ファイナンス業界にしても、より規制環境が緩く隣国の経済成長を上手く取り込んでいるカンボジアのほうが、規制環境も厳しく、かつ政府の方針が大きくぶれがちなミャンマーと比較して、今のところ分があるように見える。ひいては、今後のインフラ整備の進展やその原資となるファイナンス環境の整備度合いから、短期的にはカンボジアのほうが、より進出環境として早く整備が進むことが予想される。
ただ、それ以上に重要な点として、このような評価は単純にどちらがいいと言い切れるものではないことが見えてきたと思う。その理由として、現在の事業環境の比較とともに、今後の事業環境を見ていく必要があること、そして今後の事業環境を見ていくと、新興国ならではの変動要因が多く、単純な事象だけを基にどちらかと言い切れるほど簡単でないからだ。特に、今まで見てきた中で、不動産開発事業にしても、ファイナンス事業にしても、その国の規制環境が、業界の成長に極めて大きなインパクトをもたらすことが理解できたかと思う。
このように、カンボジアとミャンマーの比較の場合をはじめとして、進出対象国の是非を考える際には、足元の事業環境の違いをしっかり比較して理解することと、それに加えて今後の動向に対して注意深く気を配ることに留意されることを強くお勧めしてこのシリーズの終わりの言葉としたい。

＜筆者紹介＞
杉田浩一
株式会社アジア戦略アドバイザリー 代表取締役。カリフォルニア大学サンタバーバラ校物理学及び生物学部卒。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス（ＬＳＥ）経済学修士課程卒。15年間にわたり複数の外資系投資銀行にて、海外進出戦略立案サポートや、M&Aアドバイザリーをはじめとするコーポレートファイナンス業務に携わる。2000年から09年まで、ＵＢＳ証券会社投資銀行本部Ｍ＆Ａアドバイザリーチームに在籍し、数多くのＭ＆Ａ案件においてアドバイザーを務める。また09年から12年まで、米系投資銀行のフーリハン・ローキーにて、在日副代表を務める傍ら東南アジアにおけるＭ＆Ａアドバイザリー業務に従事。
12年に、東南アジアでのＭ＆Ａアドバイザリー及び業界調査を主要業務とする株式会社アジア戦略アドバイザリーを創業。よりリスク度の高い東南アジア案件において、質の高いアドバイザリーサービスの提供を目指してＡＳＥＡＮ各国での案件を遂行中。特に、現地の主要財閥との直接の関係を生かし、日系企業と現地企業間の資本・業務提携をサポートしている。

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