現在、世界各地で鉄道の復権が目立ってきている。
そもそも19世紀初めに英国で出現した鉄道は、それまでの人力や家畜に依存した道路交通の輸送時間や輸送コストを大幅に改善した。ところが、20世紀に入って自動車が登場すると鉄道と自動車の競合が各地で発生し、20世紀後半には自動車輸送の優位性が確立された。このため、「鉄道の世紀」の世紀であった19世紀に対し、「自動車の世紀」となった20世紀に鉄道は陸上輸送の主役の座を失い、衰退の一途をたどっていった。
ところが、20世紀に進展した自動車輸送に依存しすぎた状況は見直しを迫られるようになり、21世紀に入るとロジスティクス費用の削減から鉄道や水運へのモーダルシフトが注目を集めるようになり、鉄道の復権が顕著となってきた。とくに、高速鉄道、都市鉄道、貨物(コンテナ)輸送の3つの面で鉄道の優位性が高く、単に輸送費用の側面のみならず、環境負荷、エネルギー効率などの側面からも鉄道への追い風が強まっている。
このような鉄道の復権はアジアでも見られる。アジアにおいても20世紀後半に鉄道が斜陽化する傾向が多くの国で見られ、中にはフィリピンのように鉄道網がほぼ壊滅してしまった国もあった。
しかしながら、現在どこの国においても、ロジスティクス改善の切り札として鉄道への関心が再び高まっている。近年では中国の「一帯一路」構想の具体化との一例ともいえる中国とヨーロッパを結ぶ鉄道によるコンテナ輸送が急速に拡大し、また昨年末には「一帯一路」の南進政策の象徴ともいえる中国―ラオス間の鉄道も開通し、東南アジア大陸部と中国の間の新たな輸送ルートとして注目されている。
本連載「アジアの鉄道」では、このようなアジアの鉄道の現状と将来像を、東アジア(モンゴル、北朝鮮を除く)、東南アジア、南アジアの国々を対象に検討していく。なお、本連載で扱う鉄道は在来線と高速鉄道を対象とし、都市鉄道については在来線を用いた都市内輸送が行われている事例のみ言及する。【横浜市立大学教授・柿崎一郎】