オーストラリアのダットン国防相が最近、3AWラジオの番組で発言した、ソロモン諸島に対する歯に衣(きぬ)着せぬコメントが興味深い。中国の世界での振る舞いを知悉(ちしつ)しているかのようだ。
ソガバレ政権が中国から賄賂を受けたと思うかと聞かれたダットン国防相は、「誰もがそうだと推測している」と指摘。「中国は、我々と異なる方法でビジネスをする。中国はアフリカなどで確実に賄賂を活用するが、我々は賄賂ではなく、サポートを提供する。賄賂が通用するのなら我々は成果を得られない。ソロモン諸島の政治には、腐敗したカネが重要なファクターであるのは有名だ」と断罪してみせた。
■中国マネーの渡り方
世界各地で、中国の民間や国有企業が当地の有力政治家と商談を結ぶのを皮切りに、それが中国中央政府の影響力に結びついていく。公共放送ABCによると、中国マネーがソロモン諸島の政治家に渡る方法は2つある。
一つは、中国政府がソガバレ政権が保有する隠しファンドに出資すること。二つ目は、就任間もない議員を中国本土へのアゴ足付きの豪華接待旅行に招くことである。その際、中国側は日当の補助金まで支給して議員のポケットに入れる。この補助金額は、ソロモン諸島では家族を1年間養うのに十分な額だという。
ソガバレ政権は既に、国民の信頼を失いつつある。昨年11月末には、首都ホニアラでソガバレ首相の退陣を求めるデモが暴徒化し、3人が死亡する事態にまで発展した。この暴動の要因の一つも、ソガバレ首相の腐敗や、中国と関係を強化していたことだった。
オーストラリア政府は、ソロモン諸島の警察部隊を支援するために警察と国防軍の約120人を派遣している。だがソガバレ首相は明らかに、オーストラリアとは距離を置く姿勢を強めてきた。豪軍の駐在任期は来年までだ。
ソガバレ首相は現在、来年予定の次期総選挙を1年延ばそうと画策しており、これが国民から大反発を受けている。地元の大手紙ソロモンスターにも反中国的な記事は多く、ソガバレ政権に対する国民の不満は大きいようだ。
ソロモン諸島の野党連合リーダー、マシュー・ワレ議員は「ソガバレ首相が自身の権力支配を強化するために中国の存在を利用しており、豪国防軍の人員を中国軍に、置き換えようとしている」と主張する。同議員は、「中国との協定は国内でも社会的な混乱を生みかねず、もしも野党が政権を握れば、中国との合意は反故(ほご)にする」と明言している。
また日本の外交筋によると、ソロモンの国民の間では反ソガバレ政権の不満がうっ積しており、昨年末の暴動の火種もまだ完全には消えていないようだ。何かをきっかけに再び暴動に発展する気配も残り、それが今回の中国との安保協定になる可能性もある。それでもソガバレ政権の既得権益を享受する層も多く、次期選挙でソガバレ政権が倒れるかどうかは未知数だ。
再び国内で暴動の可能性があることが、皮肉にも、ソガバレ政権が中国軍への依存を求める要因にもなっている。ソガバレ首相による専制政治への憧憬(しょうけい)が中国の思惑と合致し、オーストラリアやニュージーランドからの警備支援を歓迎しない形になっているのだ。
モリソン首相は素早く反応している。
豪国防軍の主要な空軍基地4カ所に総額4億2,800万豪ドル(約394億円)を投じ、戦闘機と対潜ヘリコプターの迅速な配備を可能にする周辺インフラ整備を実施する。ダットン国防相は、混迷を極めるロシア情勢も絡め、「平和を維持する唯一の方法は、戦争に備え、強い国であることだ」と強調している。
■無縁ではない日本
ソロモン諸島を巡る緊迫状況は、実は日本とも無縁ではない。
日本は96年以来、ホニアラ国際空港施設の整備を4回にわたり無償援助で実施した。その他にも、幹線道路やホニアラ港、病院建設や技術協力など、19件以上の無償・技術供与プロジェクトを実施してきた。
当欄で前回、中国とソロモンが「南太平洋地域の航空ハブ化計画」で覚書(MOU)を結んだことは言及した。中国が国際空港や地方空港を整備し、中国軍の拠点が設けられれば、日本の公的資金で長年整備したソロモン諸島の空港インフラは、いずれ「中国の成果」となり、中国軍が利用する形になるということである。
幸か不幸か、先のMOUはまだ実現していない。調印の直後に、新型コロナウイルスが世界を席巻したためだ。
しかし、コロナが今後落ち着きを見せると、停止していたMOUは再び息を吹き返すのは間違いない。その時に、日本政府はオーストラリアのように毅然(きぜん)と対応できるだろうか。(了)【NNA豪州・西原哲也】
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