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【有為転変】第171回 テキストリーク事件の真相

その国で騒がれるニュース、特に国内政治の話題が、その国の社会やメディアの姿をそのまま映し出すことがある。ニューサウスウェールズ(NSW)州のベレジクリアン前首相が以前、モリソン首相を「身の毛のよだつ人(horrible, horrible person)」と評したテキストメッセージを自由党の連邦政府の閣僚に送っていたことが、国内で波紋を広げている。バーナビー・ジョイス副首相をも巻き込み、連立与党の基盤を揺るがす事態になっている。

ナショナル・プレスクラブでこのほど開かれたランチセミナーの質問タイムで、民放テンのヴァン・オンセレン記者が、モリソン首相にコピーを持っているとして突きつけたテキストによると、ベレジクリアン氏だけでなく、そのテキストを送った相手の連邦政府閣僚も同調し、「詐欺師」、「全くの精神異常者だ(a complete psycho)」などと、モリソン首相をこき下ろしたという。2019年末に起きた大規模な山火事で人々が犠牲になっている中で、モリソン首相が政治ゲームに浮かれていたことが背景のようだ。

ベレジクリアン氏は直ちに声明を発表し、「そんなテキストは覚えていない。この困難な時代に、我が国を率いるべきなのはモリソン首相しかいない」などと、火消しに懸命になった。ただし、メール自体を否定しなかったところが逆に疑いを強めてしまった。特に、この閣僚とは一体誰なのか。メディアの関心が急に熱を帯びた。

■「偽善者でウソつき」

ジョイス副首相はモリソン首相を擁護し、「この閣僚は名乗り出た方がいい。時間の問題だ」と威勢良く非難していた。

ところがその直後、ジョイス副首相自身が昨年3月にある自由党員に対して宛てたテキストで、モリソン首相について「偽善者でウソつきだ。ヤツを信用したことはない」などと書きつらねていたことが判明した。

斬り付けた相手の返り血を浴びた形となったジョイス副首相は、汗顔の至りでモリソン首相に謝罪し、辞任を何度も申し出たが、モリソン首相は受理しなかったという。

モリソン首相は「政治は残忍なビジネスで、政治家も普通の人間と同じ。時には怒り、ひどいこともする。私が一体誰を裁けるというのだろう」と、ジョイス副首相に対して鷹揚(おうよう)な態度を見せ、許すことを明らかにした。

9日の議会でもジョイス副首相は、労働党から痛烈に批判されながら、真っ赤な顔で「首相との強固な連携が、コロナ危機を乗り切ることができた証拠」などと弁明していた。

■ヴァン・オンセレン記者の背景

個人的にいささか違和感があったのは、これはゴシップ以外のニュース的価値があったのかということだ。

ベレジクリアン氏がモリソン首相を痛烈にこき下ろしたとされるのは、2年も前のことだ。ジョイス副首相の文面も昨年3月だ。しかもジョイス氏は副首相だとはいえ、あくまで別の政党だ。いずれの文面も、何か大きな汚職につながる証拠ですらなく、虚勢を張った単なる愚痴の言い合い程度に過ぎない。しかも両氏は、現在のモリソン首相を称賛している点も同じだ。

過去の戯言(たわごと)を記者が掘り起こしたとして、一体何の価値があるのだろう。日本で例えるなら、東京都知事が日本の首相をこき下ろした個人メールがリークされた、というようなものだ。だがそんなことは日本では日常茶飯事で、暴露されたとしても週刊誌のゴシップにはなりこそすれ、政治的大騒ぎになるだろうか。

9日付SMHの紙面。ヴァンオンセレン記者(写真中央)の首相への質問が政界を揺るがした

9日付SMHの紙面。ヴァンオンセレン記者(写真中央)の首相への質問が政界を揺るがした

そんなことを考えていたが、4日付のシドニー・モーニング・ヘラルド紙を読み、やや腑に落ちる気がした。同紙は、ヴァン・オンセレン記者の記者らしからぬ破天荒な経歴や行動を皮肉る記事を掲載していた。民放テン社内でもいじめに関与していたとして同記者が訴えられているという。この国ではあり得るとは思っていたが、記者の「功名心」に政治が振り回された可能性がある。

■大きな余韻が残る?

オーストラリアは5月には総選挙が控えている。1月時点の連立与党の政党支持率(PPM調査)は34%と、11月の39%から大きく落ち込んでいる。労働党は35%と、同32%から上昇して連立与党を逆転している。いずれもリーク事件前の調査だ。

この「事件」の余韻は大きそうだ。少なくとも、一枚岩に見えた閣僚間の人間関係が、案外にぜい弱であることを示すのには十分だった。【NNA豪州・西原哲也】


関連国・地域: オーストラリア日本
関連業種: 社会・事件

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