• 印刷する

【プロの眼】NFTにメタバース 熱気を集める新市場

ゲームビジネスのプロ 佐藤翔(最終回)

最終回となる今回は、「韓国ゲーム会社のメタバース事業」「東南アジアのNFTゲーム」「インドのファンタジースポーツ」という、アジアのゲームビジネスで話題になっている3つのテーマに関して、そのビジネスの可能性とリスクについてお話しをします。

NFTゲーム『Axie Infinity』で遊ぶフィリピンのユーザーが増えている(筆者提供)

NFTゲーム『Axie Infinity』で遊ぶフィリピンのユーザーが増えている(筆者提供)

■1〈メタバース〉ゲーム内で商売可能、高収益を稼ぐ子供も

1つ目として、「メタバース」という言葉が株式市場で脚光を浴びています。メタバースとは、オンラインネットワーク上に構成された仮想空間のことです。

コロナ禍においてオフラインで人と会う機会が少なくなる中、人気の戦闘ゲーム『Fortnite(フォートナイト)』では著名なミュージシャンのライブコンサートをゲームの世界の中で公開し、多くのゲームプレイヤーが視聴しました。こうした、オンラインゲーム上におけるユーザー同士のさまざまな形の交流が投資家から注目を集めており、ゲーム以外の要素も絡めたビジネスの仕組み作りが試みられています。

アジアにおいてこの分野にとりわけ関心が強いのが、マルチ(多人数)プレイのオンラインゲームを得意とする韓国企業です。特に、フォートナイトと同じバトルロワイヤル系ゲーム(※)である『PUBG(プレイヤーアンノウンズバトルグラウンズ)』を開発したKrafton(クラフトン)社は、IT大手ネイバーの系列企業が運営するファッション系メタバース『ZEPETO(ゼペット)』に420万米ドル(約4億7,800万円)の投資を行っています。

一方、Netmarble(ネットマーブル)はMetaverse Entertainmentという文字通りメタバース事業の新会社を設立し、ネクソンは自社で長年運営するオンラインゲーム『メイプルストーリー』にメタバース的な交流要素を付け加えようとしています。

(※:他プレイヤーとの集団戦で最後の勝ち残りを目指すタイプのゲーム)

もっとも、メタバース内のルールは運営している企業によって定められるため、参加者にとって不公平な仕組みや倫理的な問題が告発されるケースが出てきています。

ゲーム内での制作物を売ることで収益を上げられる『Roblox』(NNA撮影)

ゲーム内での制作物を売ることで収益を上げられる『Roblox』(NNA撮影)

『Roblox(ロブロックス)』というゲームは子供向けのメタバース系ゲームの先駆的存在として知られ、中国などでも人気が高い作品です。ゲーム内ゲーム(※)や作中で使用できる道具などを一般のプレイヤーがゲーム内で開発し、他者に販売して収益を得ることができるのが特徴です。

(※:ゲームの世界の中で遊べるよう用意されたゲーム。例えば、街の探索をテーマにした作品世界の中で、主人公が球技場に行くと野球やサッカーのミニゲームが用意されていたり、お祭りのシーンになると射的や輪投げを遊べたりするなど、作品によってさまざま)

ところが運営側が、ゲーム内ゲームなどによって得たプレイヤーの収益に対して75.5%という高額な手数料を徴収し、プレイヤーの子供たちからお金を搾取しているとして、最近は問題視されるようになりました。アジアにおいてメタバース事業を実施する企業についても、参加者に対する公正な取り扱いやガバナンス(ルールによる統制など)がどうなっているのか、注意する必要がありそうです。

■2<NFTゲーム>話題になった新技術、アジアが市場リード

アートやスポーツなどの分野で昨年から注目されるようになったNFT(非代替性トークン※)。ゲームの分野においても、この仕組みを使った「NFTゲーム」がこれまでにないユーザーを獲得しています。

(※:代替性のない固有の価値を有するデジタルデータを、ブロックチェーン技術を用いて流通・認証できるようにする技術。NFTはデータのオリジナル性を裏付けるいわば古美術の鑑定証のようなもので、デジタルアートやゲーム上のキャラクターなどデジタル資産の取引に利用されている。一方、ビットコインなどに代表される暗号資産(仮想通貨)はNFTの対義語であるファンジブルトークン(FT)と呼ばれ、代替可能であるため決済や送金に利用される)

ゲームパブリッシャーの中には、仏大手Ubisoft(ユービーアイソフト)のように積極的にNFTアイテム売買の仕組みを導入する企業もある一方で、米国のValve(バルブ)は運営する大手ゲーム流通プラットフォームのSteam(スチーム)内でのNFTゲームの展開を禁止するなど、対応が分かれています。

この分野で注目に値するのはアジア、それも中国ではなく新興アジアのゲーム会社が世界のNFTを活用したゲームシーンをリードしているということです。中でも、ベトナムのSky Mavis(スカイメイビス)が開発した『Axie Infinity(アクシーインフィニティ)』は、DAU(※)が100万人を突破する最有力のNFTゲームです。

(※:Daily Active Usersの略。1日当たりの利用者数)

ベトナムのゲーム会社が開発した人気NFTゲーム『Axie Infinity』(筆者提供)

ベトナムのゲーム会社が開発した人気NFTゲーム『Axie Infinity』(筆者提供)

このゲームでは、NFTを利用した貴重なアイテムや自分が育成したキャラクターを売却することで収益を得られるほか、日々提示される課題を達成することでも少額のポイントを獲得できます。ポイントは仮想通貨に換えることが可能で、国民所得が相対的に低いフィリピンのような国で人気を博しています。ベトナムでは「二匹目のどじょう」を狙い、NFTゲームを作る会社への投資例が相次いでいます。

興味深い仕組みがもう1つあります。実はプレイするにはAxieという名のキャラクターを3体購入する必要があるのですが、最低でも数万円が掛かります。日本よりもはるかに1人当たり所得が低いフィリピンのユーザーがどうやって遊んでいるのでしょうか?

その答えは「スカラーシップ」と呼ばれるシステムにあります。このゲームは自分のキャラクターを他の人に貸し出し、借りた人が稼いだ金額のうちの何割かを貸し主が獲得できるのです。数万円の初期投資が払えないフィリピンの多くのユーザーは、数ある有名ギルド(組織)が提供するスカラーシップを利用し、収益を納めながらプレイしているのです。

もっとも、こうしたNFTゲームに対しては「ゲームと投資の要素が分離し、単にリスクの大きい投機的な盛り上がりが起きているのに過ぎないのではないか」という懸念や批判もあります。またフィリピンでは、アクシーインフィニティをプレイすることで得られる収入が最低賃金を下回っているということが問題視されてきています。

アクシーインフィニティの他にも、香港のAnimoca Brands(アニモカブランズ)がNFTゲームを開発するスタジオ(製作組織)を育てるためのインキュベーション(起業支援)プログラムを創設しています。結局、NFTゲームとはいってもゲームの部分が面白くなければ普及も難しいですし、著しく倫理性を欠いた仕組みを導入したゲームが問題を起こせばNFTゲーム自体の評判の低下や各国での規制・禁止につながりかねません。従って、面白いゲームを作ることのできるクリエイターやチームをさまざまな形で支援していくインキュベーションの仕組みは、こうした分野においても意味のあるものとなりそうです。

【動画リンク】フィリピンで『Axie Infinity』が人気の様子(筆者提供)

【動画リンク】フィリピンで『Axie Infinity』が人気の様子(筆者提供)

https://youtu.be/Yo-BrASMHU4

■3<ファンタジースポーツ>ギャンブルか遊技か、インドの急成長分野

以前、インドのeスポーツプラットフォームについて本連載でも話をしました。インドにおいてはスマートフォンの普及、通信・決済環境の整備を背景に、カジュアルゲーム(※)をプレイしてそのポイントを競うeスポーツプラットフォームのほか、ファンタジースポーツのプラットフォームが急成長しています。

(※:ルールや操作方法が簡単、短時間で気軽に楽しめるタイプのゲーム)

ファンタジースポーツというのは、例えばサッカーのゲームでは自分の好きな選手(現実の世界でも有名な)を集めたチームを作って、他のプレイヤーが同じように作ったチームと競うシミュレーションゲーム(模擬戦)の一種です。この勝敗には実際のスポーツの勝敗の結果や各種統計データが反映されます。主に米国で遊ばれており、FanDuel(ファンデュエル)などのプラットフォームが知られています。もっとも、多くの国ではファンタジースポーツはゲームビジネスとして扱われておらず、ギャンブルに属すると考えられています。

しかし、インドは賭博が法律で原則禁止されてはいるものの、まだ歴史が浅いゲームとゲーミング(ギャンブル)の境目が曖昧なため、ファンタジースポーツのプラットフォームでは金銭ではなくポイント提供の仕組みを使うことでゲームに似たものと見なされています。インドで人気の高いスポーツと言えばクリケットですが、人気のクリケットを中心にしたファンタジースポーツのプラットフォームがインドで急成長しているのです。

Dream11はインドで注目されるファンタジースポーツのプラットフォーム(NNA撮影)

Dream11はインドで注目されるファンタジースポーツのプラットフォーム(NNA撮影)

2021年に大手会計事務所KPMGが行った調査によると、インドのファンタジースポーツの市場は240億ルピー(約358億円)に達しています。ファンタジースポーツ以外のゲーム市場の規模が1,650億円なので、その2割超に相当するかなりの規模になっているといえます。インドのDream11(ドリームイレブン)というファンタジースポーツのプラットフォームは、19年の増資で運営会社の時価総額が10億ドルを超え、インドで初のゲーミング系ユニコーンとして市場関係者の注目を集めました。

ファンタジースポーツが盛り上がりを見せる一方、プレイヤーの腕前の要素が強いゲームと見せかけながら実はランダム要素(運まかせ=ギャンブル性)が強いゲームに対する規制の動きが、21年後半からインド各州で見られます。ゲーミングに関する規制がインド式のeスポーツプラットフォームや普通のゲームに飛び火する可能性もあります。インド国外ではゲームビジネスとは違う分野という扱いのファンタジースポーツですが、通常のゲームへの影響など、その規制動向にも今後注目していく必要があるように思います。

■投資関心は新分野へ、東南・南アジア有望

このように、アジアの企業は技術の発達により生まれた新しい分野のゲームに積極的な進出を始めています。これまで、新興アジアのコンテンツビジネスは中国の動向に大きく左右されてきました。今後、その傾向が全く無くなることはないでしょうが、中国国内で展開しづらい形態のゲームビジネスが、リスクをはらみつつも東南アジアや南アジアなどで独自の発達をしていくというケースはこれからも出てくると思います。

ゲーム系に限らず、各国の大企業や投資家は新たな事業分野に注目するようになっていますので、現地で製品やサービスを展開する際にはこうした分野の動向も押さえておくと役に立つかも知れません。

弊社では、世界のコンテンツ市場に関するニュースレターを無料で毎週発行しております。米国や欧州はもちろん、アジアのさまざまな地域における最新動向を取り上げています。コンテンツビジネスを生かした海外展開にご興味のある企業や政府機関の方々は、ウェブサイトからお問い合わせください。ご連絡をお待ちしております。

<筆者紹介>

佐藤翔(さとう・しょう)

京都大学総合人間学部卒、米国サンダーバード国際経営大学院で国際経営修士号取得。ルーディムス代表取締役。新興国コンテンツ市場調査に10年近い経験を持つ。日本初のゲーム産業インキュベーションプログラム、iGiの共同創設者。インドのNASSCOM GDC(インドのIT業界団体「NASSCOM」が主催するゲーム開発者会議)の国際ボードメンバーなどを歴任。日本、中国、サウジアラビアなど世界10カ国以上で講演。『ゲームの今 ゲーム業界を見通す18のキーワード』(SBクリエイティブ)で東南アジアの章を執筆。ウェブマガジン『PLANETS』で「インフォーマルマーケットから見る世界」を連載中。

※特集「プロの眼」は、アジア経済を観るNNAのフリー媒体「NNAカンパサール」2022年1月号<https://www.nna.jp/nnakanpasar/>から転載しています。


関連国・地域: 韓国インド日本
関連業種: IT・通信メディア・娯楽社会・事件

その他記事

すべての文頭を開く

国道5号改修、南・西部区間の進捗8割(06/29)

食品デリバリー、市況に変化 コロナ後の利用減や燃料費高騰で(06/29)

ジーフロッグ、ヤンゴンの日本語学校再開(06/29)

【食とインバウンド】日本のハラールトラベル2.0 第36回(06/29)

三菱、小型トラック新モデル 主力コルトL300、3万台以上目標(06/29)

ウシオが空港に殺菌設備 地場新興と開発、コロナで新市場(06/29)

G7サミット閉幕、対ロ圧力強化(06/29)

クオンタム、EV量産へトライアル車が完成(06/29)

堅調なロシア経済、中印が資源買い支え(06/29)

すべての文頭を開く

※本コメント機能はFacebook Ireland Limitedによって提供されており、この機能によって生じた損害に対して株式会社NNAは一切の責任を負いません。

の記事は有料サービスご契約者様限定記事です。契約すると続きをお読みいただけます。契約されている方は、画面右側にある各種ログインからログインください。
無料トライアルはこちら
購読申し込みはこちら

NNAからのご案内

出版物

SNSアカウント

各種ログイン