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輸出専用日本酒で香港に挑む 免許1号、福島の焼酎メーカー

2021年11月、「輸出専用」の日本酒が香港に向けて出荷された。日本政府が初めて認めた輸出専用の日本酒製造免許を取得したのは、福島県只見町の米焼酎メーカー「ねっか」。なぜ、焼酎メーカーが日本酒を造り、香港市場に挑むのか。海外有数の日本酒激戦地・香港で勝算はあるのか。数々の疑問をぶつけてみようと、寒気が身にしみる歳末、ねっかの酒蔵を訪ねた。【鈴木健太】

「酒造りを通じ、只見の田んぼを守りたい」と話す、ねっか代表社員の脇坂斉弘さん=21年12月9日、只見町の自社田(NNA撮影)

「酒造りを通じ、只見の田んぼを守りたい」と話す、ねっか代表社員の脇坂斉弘さん=21年12月9日、只見町の自社田(NNA撮影)

21年12月8日――。東京から特急列車に3時間揺られ、会津田島駅(福島県南会津町)に。その後、最寄りのレンタカー店で車を借り、西方面にさらに40~50分。午前中に東京を出発したものの4時間近くかかり、酒蔵が見えてきたころには日が暮れ始めていた。

酒蔵がある只見町は、来訪者を圧倒する大自然が売りだ。14年6月にユネスコエコパークに登録され、町内約750平方キロメートルの9割以上が山林。毎冬の積雪は3メートルを超える。岩山やブナ林、田園に囲まれ、住民約4,000人が自然の恵みを受けながら暮らしている。

ねっかの米焼酎、日本酒はともに、只見町の自社田(約6ヘクタール)で収穫したコメが原料で、もろみをつくるまでの工程は同じだ。華やかな香りは共通しつつ「その後に搾るか、蒸留するかの違いがあるだけだが、味わいは大きく異なる。そうした酒造りの面白さを伝えるとともに、酒造りを通じ、只見の田んぼを守りたい」。ねっか代表社員の脇坂斉弘(よしひろ)さん(47)はそう力を込めた。

■地酒造りでコメ消費拡大

ねっかは16年7月、脇坂さんと地元のコメ農家4人の計5人で設立した。日本のコメ消費量の減少や只見の人口流出、高齢化、耕作放棄地の増加が日増しに進む中、美しい田園風景を次世代がどう受け継ぐか。5人は、食用だけでなく、地酒によるコメの消費拡大が必須だと考え、起業を決意。国は過当競争を防ぐため、焼酎や日本酒の製造免許を簡単に認めていないが、特産品を主原料にすれば焼酎を造ることができる免許に目を付け、米焼酎から酒造りをスタートした。

酒造りの仕込み作業をするねっかの蔵人=21年12月9日、ねっかの酒蔵(NNA撮影)

酒造りの仕込み作業をするねっかの蔵人=21年12月9日、ねっかの酒蔵(NNA撮影)

もともとは隣町(南会津町)の日本酒メーカー「花泉酒造」専務だった脇坂さん。酒造り16年の経験を生かし、只見のコメを使い、日本酒をしのぐフルーティーな香りがする米焼酎を目指した。17年4月に発売。18年11月からは花泉時代のつてを生かし、英国輸出を始めた。

転機は19年後半。親しい業界関係者から「国が近い将来、輸出用に限り日本酒を製造できる免許をつくるかもしれない」との話を耳にした。脇坂さんは心が躍った。というのも、英国に続く輸出先の商談が浮上するたび、販売側から「日本酒は造っていないのか」と問われることが多かったからだ。海外で焼酎の知名度は低く、日本酒の問い合わせを受けるごとに知り合いの酒蔵を紹介していた。そうした経緯もあり、21年4月に新免許の申請受け付けが始まると真っ先に手続きし、5月28日付で交付第1号になった。

免許取得の傍ら、輸出ルートの商談も一気に進んだ。2月に東京で開かれた小売業者・飲食店向けの合同商談会をきっかけに、香港への販路を持つ日系輸出商社がねっかの米焼酎に注目。日本酒の新免許の話でも盛り上がり、米焼酎と日本酒を1箱にし、輸出する方向でまとまった。

実は香港挑戦は、ねっかにとって再チャレンジだ。3~4年前、英国に次ぐ米焼酎の輸出先として一時検討し、輸出入ともに担当商社が決まったものの、19年の大規模デモや20年の新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、話は立ち消えになっていた。

■新しい酒文化の「流れ」

庭園の折れ曲がったせせらぎに杯を浮かべ、杯が自分を通り過ぎる前に歌を素早く詠む……。そんな、風流な中国起源の歌遊び「流觴曲水(りゅうしょうきょくすい)」にならい、ねっかは香港輸出に伴う新ブランドを「流觴」と名付けた。ブランド名には、歴代歌人のように心から楽しんでもらうだけでなく、自社の米焼酎と日本酒をセット販売することや、そもそもコメづくりから自社で手掛けていることなど、ねっかならではの特徴を踏まえ、新しい酒文化の「流れ」を創りたいとの思いも込めた。

21年9月にコメを収穫し、10月から仕込み作業を開始。そして11月下旬、自社の米焼酎と日本酒の瓶1本(720ミリリットル)ずつを1箱にした流觴500セットを香港に初めて輸出した。22年の春と秋にも香港への追加輸出を検討している。

今や、多彩な日本酒が入手でき、日本酒の激戦地となった香港。しかし、アルコール度数30度以下の酒類輸出は無課税だったり、日本同様に米食文化があったりと、競争にさらされても日本の酒蔵が挑戦するメリットは少なくない。

ねっかは、田んぼへの思いや自社米を使うストーリー性をはじめ、農産物の生産管理基準「JGAP認証」、完全菜食者向けの「ヴィーガン認定証」の取得済みをアピールし、市場での差別化を狙う。流觴500セットは、米焼酎、日本酒それぞれを単独で味わうのはもちろん、「日本酒に米焼酎を少しずつ混ぜて飲む」など、新しい酒文化の「流れ」も提案している。

脇坂さんによると、ブランド名は未定だが、米国やスペインなど新しい輸出先の商談も動き始めている。日本のコメ消費量の減少傾向を踏まえると、只見の田んぼの生産量を維持・拡大するためには輸出強化が不可欠だ。米焼酎か日本酒かは手法の違いでしかない。最近は、海外でも品質管理がしやすい酒を増やそうと、コメを原料にしたウイスキー、ジンの研究にも力を入れている。

ねっかの売り上げの海外比率はまだ1割程度。脇坂さんは「必要あれば新しい製造拠点をつくるなどし、3割程度まで伸ばしたい」と意欲を示した。

ねっかの米焼酎(左)と日本酒の瓶1本ずつをセットにした新ブランド「流觴」=2021年12月9日、福島県只見町のねっかの酒蔵(NNA撮影)

ねっかの米焼酎(左)と日本酒の瓶1本ずつをセットにした新ブランド「流觴」=2021年12月9日、福島県只見町のねっかの酒蔵(NNA撮影)


関連国・地域: 香港日本
関連業種: 食品・飲料農林・水産サービスマクロ・統計・その他経済

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