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【プロの眼】オンラインも内容充実 アジアの業界イベント

ゲームビジネスのプロ 佐藤翔 (8)

ゲーム業界で開催されているイベントは、新型コロナウイルス禍になりオンラインの場に移りましたが、感染状況の緩和につれオフライン会場とのハイブリッド開催が増えてきています。ちょうど11月はインドネシアやインド、韓国などのイベントが立て続けに開催されました。今回は、アジアのゲームイベントがどのような形で開催されているのかについて説明します。

マレーシアのゲームイベント「LEVEL UP KL」の様子(筆者提供)

マレーシアのゲームイベント「LEVEL UP KL」の様子(筆者提供)

ゲーム業界で開催されているイベントは、前回取り上げた「東京ゲームショウ」あるいはアメリカの「E3」、ドイツの「gamescom」といった、日本や米国、欧州のような大市場だけで開催されているわけではありません。

インドや東南アジアなど、あらゆる国においてゲーム開発者の交流会・勉強会であったり、ゲームパブリッシャー(販売、配信を行う会社)が小規模なゲームスタジオ(制作会社)にゲーム開発を外注する場であったり、さまざまな機能を持つイベントが企画・実行されてきました。日々、地球上のどこかでゲームの開発者やビジネス関係者のためのイベントが開かれている、というのは驚くべきことではないでしょうか。

■オンライン開催増、周辺諸国にも進出

欧州のゲーム開発者であるPavol Budayさんという方が作成した「Game Conference Guide」というゲーム開発者のためのイベントのリストがあります。これは欧州のみならず南北アメリカやアフリカ、アジアで開催されているビジネス目的のBtoB(B2B、企業間取引)、またはビジネス目的とファンの娯楽目的を兼ねたBtoBtoC(B2C、企業・消費者間取引)のイベントを中心にまとめてリストアップしたものです。

これだけのイベントを網羅したリストというのは世界的に見ても他に例がなく、グローバルのゲーム市場を対象にしているゲーム業界人にとっては、欠かすことのできない便利なツールとなっています。

こちらのイベントリストに掲載されているアジアのイベントは全部で36。筆者が把握しているだけでも、中国では200を優に超えるゲーム業界関係者向けのイベントが開催されていますので、もちろんこれが全てというわけではありませんが、アジアの代表的なイベントは大体載っています。試みに、このリストに掲載されている、日本を除くアジアにおける最近3カ月のイベントをまとめてみました(表)。

今年11月時点のGame Conference Guideの集計によると、2021年開催のゲームイベントは302。そのうち開催形式が「オンラインのみ」のイベントは222、「オフラインのみ」が45、オフラインとオンラインを合わせた「ハイブリッド形式」が35となっています。以前はゲーム業界でもオフラインのイベントが多かったのですが、昨年のコロナ禍で次々と中止に追い込まれた結果、オンライン開催の数が大きく増えました。今年は各国の情勢に合わせて、ハイブリッド型のイベントが増えてきています。

またこうしたイベントは、コロナ禍以前は各国の大都市で年1回という場合がほとんどでした。しかし、オンラインでも開催されるようになってからは同じイベントをより長期間、1年の間に複数にわたって実施し、さらには周辺諸国にも進出する現象が起きています。

オンライン開催はオフラインの場合に比べて、どうしてもチケット料金などの収入が減ってしまいます。その一方、一度作成したオンラインイベントの仕組みの横展開は容易です。同じような形式を用いて世界中の複数都市で開催し、またそれらを年に複数回実施することで、これまでリーチできなかった顧客に間口を広げようとする事業者が出てきています。私も今年は中国の「WN China」というイベントで登壇しましたが、元々はロシアで行われていたもので、今年になって中国など周辺諸国でも開催されるようになりました。

オンラインのイベントに参加すると、さまざまな工夫をしていることがうかがえます。下図は今年11月、インドで開催された「India Game Developers Conference(IGDC)」というゲーム開発者向けイベントの様子です。以前は南インドのハイデラバードで行われていましたが、昨年からオンラインのみの開催となりました。

会期中の3日間、エヌビディアやEpic Gamesのような欧米企業と、インドの複合企業(コングロマリット)リライアンス・インダストリーズのような現地の企業が登壇。数多くのインドのゲームスタジオがブースを用意していました。セッション、ブース展示、スポンサーとの接触、ラウンジでの情報交換、といったイベント本来のあらゆる機能がバラバラのページではなく、同じページ内で完結するように設計され、ゲーム開発者と関係者が活発に交流できるよう工夫されていました。

11月にオンラインで行われたインドのゲームカンファレンス「India Game Developers Conference」の様子(筆者提供)

11月にオンラインで行われたインドのゲームカンファレンス「India Game Developers Conference」の様子(筆者提供)

同じく11月にオンライン開催だったインドネシアのゲームカンファレンス「Indonesia Game Developer Exchange」の内部のトップページ(筆者提供)

同じく11月にオンライン開催だったインドネシアのゲームカンファレンス「Indonesia Game Developer Exchange」の内部のトップページ(筆者提供)

■目的はマッチング、担当者との交流も

新興アジア諸国で開かれるこうしたイベントには、どのような目的があるのでしょうか?

最も重要な目的は、ゲーム開発者とその作品の販売に関係するさまざまなステークホルダー(利害関係者)とのマッチング・交流です。マレーシアやインドなどでゲームイベントが始まった当初の目的は、西欧や米国から大手ゲームパブリッシャーを登壇者や出展者として呼び込み、現地ゲーム開発会社への外注のために商談する場を設けることでした。

エンジニアへの賃金が高騰する先進国のゲームパブリッシャーにとって、安価でそれなりの技術力を持つ新興国のゲームスタジオは、指示通りの成果物を一定以上の品質で納品することができるのであれば、魅力的な開発協力先です。

最近では、これらの新興国でも独自IP(※)を活用したゲーム制作での成功例が増えてきているため、単なる外注ではなく、タイトル(作品)の買い付けにパブリッシャーが訪れることもあります。現地発の独自タイトルを目立たせるため、イベントの際に現地のゲームを表彰する式典なども開催されるようになってきました。

※知的財産。著作物としてのゲーム作品、アニメや映画などゲームの原作、そこに含まれるキャラクター、音楽、名称などの要素を指す

ゲームパブリッシャーだけではなく、プラットフォーマー(※1)や、デジタル広告の専門企業、ローカライザー(※2)などが参加していることもあり、ゲーム開発者にとってはパブリッシャーと交渉するだけではなく、こうした会社の担当者とつながり、会食などを通じて人となりを知ることができるのが、イベント参加の重要な目的となっています。招待講演などを行うスピーカーと交流し、開発のノウハウを知るのも重要です。

※1:機器メーカーや配信会社。機種や配信サービスごとにゲームの販売・利用の方式(プラットフォーム)が異なる

※2:外国作品を展開先の言語や文化、法律に合わせて翻訳や改変を行う事業者

また、現地のゲームファンが参加するイベントは、作品をファンに遊んでもらうことで改善点などを見極めるユーザーテストの貴重な機会となっています。大きなイベントでは自社ゲームを宣伝する機会や、現地販売で売り上げにつながる場合もあります。

サウジアラビアで開催された技術系イベント。筆者もゲームの審査員として参加した(筆者提供)

サウジアラビアで開催された技術系イベント。筆者もゲームの審査員として参加した(筆者提供)

■食事おいしいアジア、料理充実のレバノン

余談になりますが、アジアのオフラインのゲームイベントに参加する楽しみの一つ、それは現地の料理です。米国など先進国のイベントでは、なぜか食事の評判が芳しくないことが多いのですが、新興アジアのイベントにはおいしい食事が提供されることが多いのです。マレーシアのゲームイベント「LEVEL UP KL」で提供された「サテ(串焼き)」、インドのゲーム開発者会議で供された「ハイデラバード・ビリヤニ(炊き込みご飯)」、「サウジアラビアのカブサ(肉炊き込みご飯)」、いずれも現地ならではの趣向を凝らしたおいしい料理ばかりでした。

16年頃に行われたレバノンのゲームイベントでの食事(筆者提供)

16年頃に行われたレバノンのゲームイベントでの食事(筆者提供)

世界の数十のゲームイベントに参加した私として、最も印象に残っているのはレバノンのイベント「MENA Games Conference & Exhibition」の食事会です。休憩時間に「スフィーハ(中東風ピザ)」や「ケバブ(焼肉)」などさまざまな料理が参加者に振る舞われ、デザートに「バクラヴァ」という現地のお菓子も提供されました。参加者はアラブ諸国からだけではなく、イランやトルコからもスピーカーが登壇し、さらには欧州や米国、アフリカからも業界関係者が参加し、さまざまな情報交換や商談を行っていました。

規模ではドイツのgamescomやインドのIGDCのようなイベントに及ばないとはいえ、現場の開発者から経営者まで、どこの国のどのような職種の人ともフレンドリーに交流できる素晴らしいイベントでした。現在のレバノンは経済状況がかなり厳しく、こちらのイベントも開催地がアラブ首長国連邦へ移転してしまいましたが、いつかまたこうしたイベントに参加したいですね。

<筆者紹介>

佐藤翔(さとう・しょう)

京都大学総合人間学部卒、米国サンダーバード国際経営大学院で国際経営修士号取得。ルーディムス代表取締役。新興国コンテンツ市場調査に10年近い経験を持つ。日本初のゲーム産業インキュベーションプログラム、iGiの共同創設者。インドのNASSCOM GDC(インドのIT業界団体「NASSCOM」が主催するゲーム開発者会議)の国際ボードメンバーなどを歴任。日本、中国、サウジアラビアなど世界10カ国以上で講演。『ゲームの今 ゲーム業界を見通す18のキーワード』(SBクリエイティブ)で東南アジアの章を執筆。ウェブマガジン『PLANETS』で「インフォーマルマーケットから見る世界」を連載中。

※特集「プロの眼」は、アジア経済を観るNNAのフリー媒体「NNAカンパサール」2021年12月号<https://www.nna.jp/nnakanpasar/>から転載しています。


関連国・地域: マレーシアインド日本中東欧州
関連業種: IT・通信メディア・娯楽マクロ・統計・その他経済

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