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【有為転変】第154回 コマツのT40物語

昨年末にシドニー郊外のリゾート地に車で家族旅行した際、大平原を南下する途中の集落で、何の変哲もない小さなハンバーガー店に立ち寄った。その時、カウンターに置かれていた手作りのフリーペーパーを手に取って読んでいると、そこに興味深い話が書かれていた。日本の大手重機ブランド、コマツの初代ブルドーザーとオーストラリアについての物語だった。

このフリーペーパーは、トラックドライバー向けのコミュニティー誌「ハイウエー・エバンジェリスト(Highway Evangelist)」。注目した記事は、「あなた方ドライバーがよく運んでいる大型重機が、どこからやって来たのか考えたことはある?」という問いかけから始まり、コマツの初代ブルドーザーがどうやって日本からオーストラリアに渡ったのかについて紹介していた。

トラックドライバー向けのコミュニティー誌
「HIGHWAY EVANGELIST」

トラックドライバー向けのコミュニティー誌 「HIGHWAY EVANGELIST」

■マニラ湾から引き上げると……

物語の概要はこうだ。

鉱業重機メーカーとして日本で創業したコマツは1935年に、農業用のブルドーザー「T40(後にG40と呼ばれる)」を生産した。油圧方式で、ガソリン機関トラクターの前方にブレードを装着した画期的な重機だった。これは国産第1号のブルドーザーとして、日本各地の農地で活躍していたが、第二次世界大戦で日本海軍が機関砲の移動車として使うようになった。

コマツは戦時中にT40を計351台生産した。海軍はそれらをアジア各地に輸送したが、途中で船が沈められるなどの被害があり、結局パプアニューギニアやマニラなどの太平洋地域に届けられたのは、数台のみにとどまった。

戦中戦後に活躍したコマツ製ブルドーザーT40(出典:Komatsu)

戦中戦後に活躍したコマツ製ブルドーザーT40(出典:Komatsu)

戦後、T40を含め、日本軍の戦車などの軍事兵器は米軍にマニラ港で廃棄されてしまった。だが数年後、それらが船舶の通行に邪魔になることから、オーストラリアのある商社マンが、再度海から引き上げて「鉄くずとして」処理する事業を請け負った。

だが引き上げてみると、T40は明らかに軍事兵器ではない。しかも、何年も海に沈められていたにもかかわらず、修理可能な状態に見えた。そこで彼は、地元ニューサウスウェールズ州郊外のエベネーザーに住む友人にT40を売却した。その友人はちょうど息子2人が農業を始めたばかりだった。

その息子たち、グラハム氏とポール氏がT40の車両全体に付いたフジツボを取り除き、オイルや発火装置などを交換して整備した結果、ついにT40は再び動き出した。ガソリンエンジンだったが、灯油で稼働するように改造した。そうしてT40はその後21年間も、NSW州有数の青果生産地ホークスベリーで使われた。特に毎年のように起こった洪水被害後の農地整備には大活躍したという。

■日本人社員が偶然見つける

その後1979年に寿命を迎え、農地に放置されていたところを、あるトラックドライバーが見つけ、地元の機械セールで売りに出した。その時、そこを訪れたコマツの日本人社員がT40を偶然見つけて驚き、是非にと購入したという。

ちょうどその数カ月後の7月6日、代理店販売に頼っていたコマツは正式にオーストラリア現法をシドニーのボタニーに設立し、開所式を行った。当時のT40の保有者も招待され、オーストラリア進出を祝ったという。

戦中戦後の混乱を生き抜いた日本生まれのT40は、フィリピンで一度死んだ後、オーストラリアで蘇生して農業に貢献し、約40年ぶりに故郷の日本に帰国した。それも、生まれた石川県小松市にある粟津工場に。世界にたった1台しか残っていないT40は、粟津工場で生産された状態に再び整備され、現在は静岡県伊豆市にあるコマツテクノセンターに展示されているという。【NNA豪州・西原哲也】


関連国・地域: オーストラリア
関連業種: 社会・事件

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