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【アジアで会う】迫田昌さん ジャパン・アグリ・チャレンジ・アジア代表 第315回 厳しい環境でトマト栽培に挑む(タイ)

さこた・しょう 1987年生まれ。東京都出身。慶応大学卒業後、アルバイトをしながら東南アジアや米国を旅した。英ロンドンへの語学留学を経て、ドイツ、タイ、ラオスで再生可能エネルギーなどの仕事に従事。2015年にタイ・バンコクにジャパン・アグリ・チャレンジ・アジアを立ち上げた。趣味はフットサルで、最近は独学でピアノを弾いている。

タイのスーパーマーケットに並ぶ赤々としたミニトマト。パッケージに印刷された「びじん」の文字が目を引く。栄養豊富で美容効果も高いというトマトの特徴を表すため「びじんトマト」と名付けた。

生まれも育ちも東京の都会っ子が農業と出会ったのは、前職でラオスを訪れた時のこと。カオニャオ(もち米)の生産が盛んな地で生まれて初めて田植えを体験した。「汗水垂らして作業した後の爽快感がたまらなくて。田舎暮らしに憧れていたこともあり、農業で生きていこうと決めました」

偶然にも会員制交流サイト(SNS)で大学の先輩であり現在のビジネスパートナーである野口豪氏が故郷の長野県で農業を営んでいることを知り、帰国後すぐに会いに行った。同じく農業の海外展開に関心を持っていた同氏と意気投合。市場調査を繰り返し、在留邦人も多く市場が大きいタイでミニトマトの生産に乗り出すことにした。

■苗全滅にも横転事故にもめげず

なぜミニトマトなのか。「タイでさまざまな野菜を試食し、おいしいトマトがないことに気付きました。タイの人たちも『トマトはおいしくないし、酸っぱいから嫌い』と口をそろえるんです」。故にトマトを主役にしたタイ料理は少ない。ならば甘くておいしいトマトを生産すれば、市場を創り出せると確信した。

タイは高温多湿で、雨期には日照時間が短くなり、トマト栽培に適した気候とは正反対。厳しい環境の中、15年に北部ペチャブン県の高原地帯に竹を使った手作りのビニールハウスを設置し、日本品種のミニトマト40株を植えた。しかし、豪雨によりビニールハウスは全壊。栽培を再開したものの、今度は病害虫により苗が全滅した。

技術不足を痛感し、日本のトマト生産者の指導を受け、一から学び直した。タイ人スタッフとともに、真っ黒に日焼けするまで農作業に励む日々。「『県内でトマトを作っている日本人がいるらしい』とのうわさを耳にするようになったんです。その『日本人』は、目の前にいる僕なのに」と笑う。それくらい現地に溶け込んでいた。

収穫したミニトマトは、自らピックアップトラックを運転し、バンコクまで片道7~8時間かけて運んだ。しかし疲労がピークに達し、ある日、帰り道に横転事故を起こした。奇跡的に大事には至らなかったが、今も腕にはその時の傷跡が残る。

苦難が続いても諦めなかったのは、タイ人スタッフたちの支えがあったからだ。1日100バーツ(約330円)程度で暮らしている日雇い労働者の人たちが、代わる代わる手料理をごちそうしてくれた。経済的に貧しくても幸せを分かち合う姿に、この国の人たちと農業に貢献していきたいとの思いがますます強まった。

■品質と生産量でナンバーワン目指す

17年には北部チェンライ県に第2農園を開設し、立ち上げ当初は数人だった従業員は、日雇い労働者を含め総勢50人に増えた。

4年の歳月を経て昨年ようやく品質と生産が安定し、国内のほぼすべての大手スーパーで販売されるようになり、バンコクと南部プーケット県を中心に100軒を超える飲食店やホテルで取り扱われるまでに成長。びじんトマトを使った100%ジュースも生産し、個人宅やオフィスへの個別宅配にも乗り出した。

今年1月にはシンガポールへの輸出も開始。事業が軌道に乗り始めた矢先、新型コロナウイルス感染症による影響が出始めた。国内では飲食店の営業がテークアウトのみに制限されたことで、収穫したトマトの約半分が販路を失った。可能な限りジュース製造などに活用したが、断腸の思いで廃棄せざるを得ないことも多かったという。

一方で社内の絆は強まり、一丸となって収支改善に取り組み、再び訪れた苦難を乗り越えた。国内の販売はほぼ回復し、定期便の運航再開後にはマレーシアへの輸出を開始する予定。香港やオーストラリアへの販路拡大も視野に入れる。

「まずはタイで、将来的には東南アジアでミニトマトの品質と生産量でナンバーワンになることが目標。そして、地域の人たちが、おいしくて安全な野菜や果物を生産することで自立できるモデルをつくっていきたいです」。甘酸っぱく、みずみずしいトマトには、揺るぎない思いが詰まっている。(タイ版編集・本田香織)


関連国・地域: タイ日本
関連業種: 農林・水産

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