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【有為転変】第145回 賞賛されるNZアーダン首相

景気対策では、国家間で政策自体を厳密には比較できない。それぞれの国の社会や経済環境が異なるためだ。だが、今回の新型コロナウイルスへの防御対応では、どの国も直面している問題はほとんど同じであるため、各国指導者の采配力や政策の有効性を、総じて比較することが可能となっている。その上でニュージーランド(NZ)のアーダン首相が、台湾の蔡英文総統などと共に、コロナ対策で世界で最も優れたリーダーという評価が高まっている。

最近では、米雑誌アトランティックがアーダン首相を「世界で最も優れたリーダー」とし、「国民を説き伏せるわけではなく、国民と共に立ち上がる姿勢が共感を呼んだ」というヘレン・クラーク元NZ首相の言葉を引用して絶賛した。

より厳しく、より早く動いたアーダン首相(共同)

より厳しく、より早く動いたアーダン首相(共同)

また7日付の米ワシントンポストは「他の先進国が感染者数の推移をフラット化するのに四苦八苦する中で、NZはウイルス自体の撲滅に取り組んだ」と解説。大手シンクタンクのグラッタン・インスティテュートは「NZは世界の賞賛の的」と表現した。

■NZは豪の上を行く

NZの感染者数は23日時点で1,115人(死者16人)。NZの人口は約500万人と、アイルランドとほぼ同じ規模だが、アイルランドの感染者数は1万6,671人(死者数769人)に上ることから見れば、その少なさが分かるだろう。

アーダン首相が賞賛されるのは、とにかく早く、厳しく動いたことだろう。なにしろ国内に死者が1人も出ていない3月25日の時点でロックダウン(都市封鎖)を決めたほどだ。25日というと、日本では感染者が既に1,100人を超え、それでもようやく、安倍首相が東京五輪の延期検討で合意したばかりの頃である。

NZオタゴ大のマイケル・ベーカー教授(保健衛生)によると、NZでは感染者が出始めたのが2月後半で遅かったために、ヒトヒト感染の可能性が分かった頃には、国内の医療設備も十分でなかった。徒手空拳で見えない敵と戦うには、先手先手で国民間の接触を極力断つしかない。そこで、同教授らが急きょ政府に対して、緊急レベルを大急ぎで引き上げ、「できることは全て、一刻も早く行動するよう」提言したという。

外貨獲得の重要産業である観光業は壊滅的になるが、それでもロックダウンに踏み切った。日本からすると、オーストラリアでさえ対応は十分すぎるほどだったが、NZはさらにその上を行く。

例えば、ロックダウン後は、営業できる店はかなり限定され、スーパーと一部食品店、薬局のみとなった。肉屋やパン屋、果物屋さえ営業が認められていないほどだ。オーストラリアでは美容院や一般の雑貨店も開いている。

また、NZでは「バブル(bubble)」という言葉が頻繁に用いられる。基本的に同じ家に住み、身体的に接触できることを許された家族関係などを指す。そのため、バブル以外の交流は極めて厳格に禁じられた。

民間企業も自宅勤務が義務で、それができない場合、営業停止が強制された。その厳しさはオーストラリアの比ではないだろう。それなのに、政府のウイルス対応を「支持する」とした国民は84%に上った。

そのロックダウンも、来週28日に解除され、警戒度が最も重いレベル4から3に引き下げられる予定だ。同首相は「もしもロックダウンしていなかったら、感染者は4倍以上になっていたでしょう」と話す。

■「いつかはまた入る」

その一方で、NZの対応に疑問も出ていることは言及しておきたい。

オーストラリアのブレンダン・マーフィー首席医務官は、「確かにNZは世界の賞賛を浴びたが、短期的なロックダウンでウイルスを抑え込んだとしても、それをいつまで続けられる? 問題は、ウイルスが世界中でまん延していることだ。いつかはまた入ることになる」と警鐘を鳴らす。

オーストラリアでは、社会規制の強化で店舗封鎖などを強いる際に、一定の社会的距離を確保することにとどめ、生活必需品以外でも、店はできるだけオープンにしたままにし、国民の生活や家計を維持した。その意味で、「オーストラリアの方がうまく対処した」と言う。オーストラリアの感染率は100万人当たり254人と、NZの292人より低い。

いずれにしても豪NZ両国の感染者数の劇的な減少は、欧米や日本と比べて適切に対処していることを示している。

一方で日本では、1月末時点から感染者は確認されていたというのに、国内景気や政治のしがらみに縛られて後手後手に回り、3カ月後の現在になってもまだ、感染者は増える勢いを示している。国の対応が失敗したことを如実に示す。NZや豪州との違いは、政府の危機対応力の差、そして国民の命を最優先してきたかどうかに違いない。【NNA豪州・西原哲也】


関連国・地域: オーストラリアニュージーランド
関連業種: 社会・事件

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