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【アジアインタビュー】 「経済の本質を“面白く”伝えたい」 『中国嫁日記』の井上氏、初の経済マンガ

中国など海外工場に送金するお金が、円の為替相場が安くなったせいで高くつく。手持ちの日本円が目減りすることになるが、「減った分のワタシたちのお金、誰が取りましたか?」──。そんな中国人妻の素朴な疑問に答えることから始まるストーリーは、お金とは何か、経済成長とは何かなどの経済の本質を問い直すことにつながっていく。100万部近くを売り上げるベストセラー『中国嫁日記』の著者、井上純一氏がこのほど、初めて経済を語るマンガ『キミのお金はどこに消えるのか』を出版した。なぜ今、経済マンガを描くことになったのかを井上氏に聞いた。(取材・文=吉沢健一、写真=須賀毅)

──中国人のお嫁さん、月(ゆえ)さんとの日常生活の発見などを描いた『中国嫁日記』シリーズが、100万部近いベストセラーとなっていますが、このたび、自身初めてとなる経済マンガ『キミのお金はどこに消えるのか』を出版されました。

この本の企画協力をしていただいた、経済に詳しいアル・シャードさんが昔から、日本経済のデフレはお金を刷らないと解決しないということを教えてくれていたのですが、実際に安倍政権となって金融緩和された途端に雇用が回復した。本当だったと驚きました。そのことをなるべくたくさんの人に知らせたかったのです。

ただ、どうやってマンガにしたらいいか思い浮かんでいませんでしたが、月さんから為替相場の変動で目減りした分のお金はどこに消えたのかを問われたことが、マンガの構成につながりました。

──月さんは経済の本質を突く疑問、経済の専門家でも即答できないような質問ばかり。その鋭さに驚きます。

中国人は政府を信じていない。基本的に、政治は自分たち人民に不利益なことしかしないと決めてかかっている。そのため、「だます」「だまされる」ということに対して敏感です。

逆に日本人は政府を頭から信じすぎていて、僕がこれだけ「日本はおかしい」と発言しても、「日本政府にはそうする真っ当な理由があるはずだ」と言ってきますが、理路整然とした反論を聞いたことがない。

月さんが信じるのは手元にあるお金だけ。そうすると、為替で減った分は誰が取ったのかという疑問につながるのです。だが、その素朴な疑問に答えるにはお金とは何か、なぜ変動相場制が導入されているのかという根本的なところを答えていかないと、その結論が出てきませんでした。

■デフレの怖さ

──『キミ金』では、銀行からお金を借りれば借りるほど世の中にお金が増える金融の基本的な仕組みを解説していて、目からうろこでした。

実は僕も勉強するまでは、お金が何かなんていうのはよく分かっていませんでした。原価二十数円の紙幣が1万円の価値を持つという事実だけで面白いでしょ。日本銀行だけがなぜお金を刷ることができるのかも興味深いですよね。

ところが、日銀がお金を刷らなくても、銀行からお金を借りると、それが負債となり、世の中にお金が増えていく。数値上のマジックに見えるけれど、実際に増えているんです。だから銀行から誰かがお金を借りてくれないと経済は回らない。

──日本はバブル崩壊後、「失われた20年」のデフレに陥っています。『キミ金』ではデフレの恐ろしさを指摘しています。

デフレというのは、モノの価値が下がり続け、お金の価値が上がり続けるということです。そうすると消費するのは損になる。お金を使うこと=悪になる。

一方で月さんのように中国人は極端で、土地の価値は上がり続けるものだと思っているから、下がるという状況が想像できない。だからまとまったお金があると、不動産を買おうとします。

中国人がお金をすぐモノに交換しようとするワケは、お金の価値がだんだん下がってくるインフレの状態にあるため、お金のまま持っていると価値が減っていってしまうから。訪日観光客の「爆買い」が注目されていますが、インフレ世界の彼らにとっては当たり前の行動です。

インフレ状態にある中国の経済の方が正しいとも言えます。経済成長してインフレの状態にあるのが正常な社会で、デフレの状態は非常に危ない。

ただデフレは本来、そんなに長続きしないんです。普通は国民が耐えられないから。ところが日本人は賃金も上がらないのに耐えてしまっている。そうすると結果的にはモノの値段をどんどん下げないと売れなくなっています。

■増税に警鐘

──日本政府が今年秋に行う消費税増税に対して警鐘を鳴らしているような箇所もあります。

今のデフレに近い低インフレ状態の日本で増税をすると、景気はおかしくなります。作品でも描いていますが、消費税率を引き上げた年は税収が増えても、その後は景気悪化によって必ず税収が下がっていきます。

日本国債の長期金利は今、歴史的な低さで、これは国際的に日本が信用されている証拠です。にもかかわらず、膨大な債務による財政破綻で日本円が紙くずになるというあり得ない恐怖に押されて増税するというのは本末転倒。日本の借金を返すには増税ではなく、経済成長しかありません。

──すでに『キミ金』の2巻目を描かれているそうで、ファンも楽しみにしていると思います。

第1巻はお金とは何か、という話でしたが、第2巻のテーマは「幸福に生きること」について描いています。お金を使って幸福になるにはどうすればいいかという問いです。

そこで直面するのが不確実性。金融というのは不確実性の上に成り立っています。株価も突然値上がりし、下がる。あなたはあす交通事故に遭って、働けなくなるかもしれない。経済的な不幸は周囲に連鎖します。こうした不確実性にどう対抗するかが、私たちが経済を生み出した根本。あなたが幸福になるためのお金の使い方を語っていきたいと考えています。

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井上純一(いのうえ じゅんいち)

TRPGデザイナー。漫画家。玩具会社「銀十字社」代表取締役。

代表作:スタンダードRPGシリーズ『アルシャードセイヴァーRPG』『エンゼルギア天使TRPG The 2nd Edition』『天羅WAR』他。著作に『中国嫁日記』『中国工場の琴音ちゃん』などがある。

※特集「アジアインタビュー」は、アジア経済を観るNNAのフリー媒体「NNAカンパサール」2019年4月号<http://www.nna.jp/nnakanpasar/>から転載しています。


関連国・地域: 中国日本
関連業種: マクロ・統計・その他経済社会・事件

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