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【有為転変】第125回 なぜ遅れる?豪NZの建設事業

2011年に大規模な地震に見舞われたクライストチャーチの中心部を最近訪れた際に、市内の建設事業が遅々として進んでいないことに、いささかため息が漏れた。2年前に訪れた街の光景とほとんど変わっていない。地震からもう7年以上もたっているというのに、だ。実はニュージーランド(NZ)に限らず、オーストラリアでも、インフラ建設がなかなか進まない状況は枚挙にいとまがない。一体なぜだろうといぶかっている。

NZではそのほか、オークランドのウオーターフロントで進めている10億NZドル(約734億5,000万円)のコマーシャルベイ・プロジェクトや、国際コンベンションセンター、グレイマウス病院など、鳴り物入りで進められていた大規模プロジェクトの数々が、軒並み当初の完工予定から大幅に遅れている。これら多くを担っているのが、NZの建設業最大手フレッチャーだ。

特にこの国際コンベンションセンターでは、事業発注者であるスカイシティー側も当初は鷹揚(おうよう)な構えを見せていたが、来年7月の完工予定からさらに5カ月遅れ、年末休暇のかき入れ時にオープンが間に合わないことになって損害賠償を求める方針に切り替えている。

クライストチャーチの中心部。未開発で駐車場のままの土地が目立つ(NNA豪州)

クライストチャーチの中心部。未開発で駐車場のままの土地が目立つ(NNA豪州)

フレッチャーは、建設ブームを受け、これら2都市の大型プロジェクトの建材や労働コストが膨張したとして、18年度通期決算で約2億NZドルの赤字を計上したばかりだ。事業が遅れれば遅れるほど、金利を含めた事業債務は拡大する悪循環のスパイラルにはまっているのだろう。

実はそんな状況の中で最近、オークランドで建設業界250社が集まった討論会があった。ここで、NZの建設業界にまん延する深刻なエンジニア不足が話し合われた。NZの新卒学生のうち、エンジニア関連の学位を取得する学生の割合は7%と、経済協力開発機構(OECD)加盟国平均の12%を下回るという。近年のインフラ建設ブームで、急速に膨れ上がった事業規模に、企業側も対応できなくなっているのだとか。しかし、工事運営の不備が横に置かれ、人材不足だけがやり玉に挙がっているのが気になるのだが。

■豪ではライトレールが2年遅れ

一方、ご多分に漏れず、オーストラリアでもインフラ建設の遅れは定番だ。ニューサウスウェールズ(NSW)州政府がシドニーで進める軽鉄道(ライトレール)プロジェクトはその典型だろう。当初の予定よりさらに2年も遅れ、完成が2020年3月末にずれ込むことが分かり、さすがのオージー市民も呆れているようだ。

シドニー市の幹部は「この事業は全く終わらないホラーストーリー。完工予定日はもはや信じられない」と、建設を請け負うコンソーシアムのアルトラックに対して憤っている。

この計画をめぐっては、アルトラックを構成するスペイン系アクシオナ(Acciona)が11億豪ドル(約887億円)もの巨額追加資金を求めて州政府を相手に今年4月に提訴しているが、両者の対立は深まったままだ。

筆者は当初、このアクシオナが元凶だったのだな、と勝手に想像していた。だが、実はそうとも言い切れないようだ。

というのも、送電会社のオースグリッドがなぜか事業開始後に、新しい事業ガイドラインを制定しており、そのためにアクシオナが事業に着手できなかったり、追加作業が増えることになり、これが工事の遅れをもたらす原因の一つになったとされる。

オースグリッドは、NSW州の半官半民企業である。個人的にも、弊社オフィスや自宅などの電気設備関連で、その度し難いほど遅々としたサービスにいら立ったことが何度もあるので、アクシオナに同情する気にもなったものだ。

NSW州のずさんさが明らかになったのはそれだけではない。NSW州政府は、このライトレール事業に関する広報ビデオを作ったのだが、これになんと32万豪ドルも費やしていることが判明している。ユーチューブで見られるたった1分程度の宣伝ビデオに、だ。

同州の会計検査院は、ライトレール建設の費用が膨大になったのは、州政府が適切な投資効果を分析しなかったことに原因があるなどと指摘している。

さらに言えば、アクシオナと州政府が争っている民事裁判自体が不可解な印象を与える。州やアクシオナの両者が、最高裁にせっせと出廷しているのだが、現時点で大幅に遅れて市民に悪影響を及ぼしているのだから、裁判なんかしている暇があるならとっとと事業に集中すればいいのに、と思ってしまう。

先日は、セントラル駅付近の工事現場で開拓民時代のものと思しき人骨が見つかって騒ぎになっていた。これで、またさらに遅れる見通しなのだとか。いずれにしてもオーストラリアやNZの建設業の遅れは、社会構造や文化的なところに起因するように見えて仕方がない。【NNA豪州・西原哲也】


関連国・地域: オーストラリア
関連業種: 社会・事件

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