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【ASEAN】タイ・ユニオン、業界最大手ならではの高付加価値化策

タイのツナ缶業界の曲がり角(6)

3月21日付NNA記事「製糖ブリラム、エタノール工場建設を延期」(https://www.nna.jp/news/show/1740521)によると、タイの製糖大手ブリラム・シュガーは、東北部ブリラム県で計画していたエタノール工場の建設を延期する。副産物を使った新たな収入源の確保に向けた動きで、計画延期が向こう数年間の財務状況に影響を及ぼすことはないと説明している。

同記事によると、製糖の過程で出るモラセス(糖蜜)を原料とするエタノールの生産工場をブリラム県の製糖工場に建設する計画で、事業化調査や環境影響評価(EIA)を既に実施していた。モラセスは今後、国内の飲料メーカーに売り込む方針という。

一方、サトウキビの絞りかす(バガス)を原料とする容器製造事業は継続して進めるという。子会社のシュガーケーン・エコウエアを通じ、日産能力が80万~100万個の生分解性の容器工場を建設、運営する計画だ。

ブリラム・シュガーは、バイオマス(生物資源)発電など砂糖以外の収入源の確保を進める考え。昨年の売上高のうち、砂糖事業が7割強を占め、バイオマス発電と肥料事業は合計で1割程度だった。今後は生分解性容器も含め、副産物を利用する事業で収入源の多角化を目指す。

製糖においても、そのプロセスから出てくる副産物を活かした収入源の多角化は、非常に重要なテーマだ。同じ作業プロセスの中で、収入の増加が可能であることに加えて、今までとは違うルートの顧客層や市場へのアクセスが可能になる。

さらに、市場での販売価格が不安定な農産物の場合、そうした市況とは別の動きをする副産品を持っていることは、天候リスクなどへの対応の観点からも重要になる。

■タイ・ユニオンが進める副産品化

さて、このシリーズでは、タイのツナ缶業界について、長期的な原料コストの上昇や人件費の上昇にあえぐ現状を見てきた。特に中小の事業者は、海外の大手食品会社からのOEM(相手先ブランドによる生産)でツナ缶を製造しているため、仮に原料価格が上がり、人件費が増加したとしても、それを製品価格に上乗せすることは難しい。その結果、結果として利益率がどんどん圧縮され、ひいては利益が上げられない状況に陥ってしまう。

前回(https://www.nna.jp/news/show/1797877)は、業界最大手のタイ・ユニオン・グループにおける事業多角化、特にツナ缶会社から総合食品会社への転換を紹介した。併せてツナ缶製造プロセスにおけるツナの煮汁や心臓を使った副産品について説明した。

今回は、そうした副産品の中でも、現在同社が戦略的に進めているツナオイル製造プロセスについて紹介したい。

■今年副産品を統括する部署を新設したタイ・ユニオン・グループ

タイ・ユニオン・グループでは、事業多角化に加えて、取扱商品の高付加価値化が主要なテーマとなっている。例えばツナ缶事業も今までのOEM生産から、顧客のブランドを積極的に買収してブランド権を持つ形での事業戦略を行っている。

商品高付加価値化戦略のもう一つの大きな柱が、副産品の生産だ。そのための推進機関として、社内に海洋副次産品部門が今年の初めに新たに設けられた。この新部門の役割は、生産工程から出る副次生産品を包括的に管理し、高付加価値化したうえで販売する一連のプロセスにおいて、商品企画、製造管理、販路拡大までバリューチェーンを通貫して管理することだ。

■オランダ乳業大手から副産品の専門家を部門ヘッドで招聘

その部門の統括として、新たに外部からレオナルダス・コーレン氏を、海洋副次産品部門のトップとして今年の1月に招き入れた。同氏は、それまで18年間オランダの乳製品大手会社であるフリースラントカンピーナ社に勤務しており、副次生産品の生産や販売関連の業務を管轄していた、いわばこの分野のエキスパートだ。

今回、コーレン氏にタイ・ユニオン・グループにおける、副産品事業の方向性について話を聞いた。

――今回タイ・ユニオン・グループで、新たに副産品を統括する海洋副次産品部門が設立された背景を教えてほしい

今回このようなポジションを新しく設けて本格的にバイプロダクトの生産拡大を行うことになったのは、ツナ缶における収益性の悪化が大きく影響している。当社の収益は、原料である魚の価格が年々上昇していく中で、なかなか利益が上げられないような状況になってきている。

そもそも、ツナ缶の生産プロセスによって、現在はその原材料である魚の50%しか使っておらず、廃棄にしている部分が多くあった。特に、今までは内臓などは基本的に魚の餌としての用途しかなく、売買価格も限られていた。ただ、我々は「新鮮な副次産品材料」軸で事業を再構成した。

――今までは、タイ・ユニオンとしてのツナ缶製造時の副産品の取り扱いはどのように行ってきたのか?それを今回どのように変えようとしているのか?

今までは各製造工場において、製造工程で今までやってきた方法を単に踏襲する形でツナ缶の製造を行っていた。ただ、現在行おうとしているのは、その一連の流れを副次産品の生産の観点から見直しを行うことだ。

例えば、今までツナ缶を製造する観点から、最も効率的な製造プロセスで生産していた。ただ、それだと本来、他に流用できる部位を捨て去っていたり、使えない形で処理していた。それを、副産品を取り出しやすいように、ツナ缶の製造プロセス自体を変更しようとしている。

――そうなると、今までの生産ラインの組み換えを行ったり、働いている従業員に新しいプロセスを教え込まないといけなかったり、かなりのハードルがあるよう思うが。

現場は新しい方法に慣れていないため、移行期にはいささか戸惑いがあるのは理解している。ただ、それは誰もが通る道で、私自身前職時代にチーズの製造工程で、その他製品を生産すべく製造ラインの変更を行ったときも、こうしたあつれきがあったが、結局時間の問題で新しいプロセスに慣れていった。今回この会社が超えていかなければいけないのは今までのやり方の変更の先にある、新たな収益源の開拓だ。

■タイ・ユニオン・グループの副産品戦略1:フィッシュオイル

現在、副産品の中でも特に力を入れて取り組んでいるのがフィッシュオイルだ。既に2年ほど前からプロジェクトが進んでおり、現在建設中の精製工場は既に商品製造のための最終段階に入っている。

フィッシュオイルはドコサヘキサエン酸(DHA)が多く含まれており、市場での需要が強い一方で供給量が限定的だった。フィッシュオイルは、ツナ全体からとれる量が限られているため、安定的に生産しようとすると、大量のツナが必要となる。従って、業界の大手であるほど優位に製造できることを意味し、タイ・ユニオン・グループにとっては、自社の市場における高い市場占有率を活かしやすい分野なのだ。

――タイ・ユニオン・グループとして、今までフィッシュオイルの製造には前向きに取り組んでいなかったのか?

うちは生産量から鑑みて、この分野での可能性が昔から高かったにもかかわらず、今までは積極的に手を付けていなかった。ただ、現在の生産プロセスの高付加価値化の流れの中で、こうした分野に積極的に取り組むことになった。

フィッシュオイルの原材料は基本的に自社のツナ缶製造拠点のうち、ツナの解体工程があるタイ、セイシェルから持ってきている。それ以外の工場は、タイやセイシェルで製造されたマグロの腰肉であるロインを缶に詰めるだけなので、この工程からはフィッシュオイルの原材料は発生しない。

――現在のフィッシュオイル製造に向けての準備状況を教えてほしい

現在、製油精製工場はドイツに建設しており、うちのツナ缶製造プロセスで出てきた原材料を一か所に集めて、最終的には消費地に近い精製工場で最終製品化を行う。すでに工場は完成しており、これから生産プロセスの最終確認に入る。

年内には確実に市場に供給できるようにする予定だ。もうすでにこの事業の主要なメンバーは、ドイツで工場につきっきりの状況にある。

――フィッシュオイル製造には、大量のツナの頭や骨などが必要になるが、どのように対応しているのか

これには自社工場もそうだが、それに加えて周辺の他社からも、このコンセプトに賛同した会社から買い付けるようにしている。そもそも、ドイツの最終精製工場の受け入れ能力は、現在の自社グループのすべての工場からの原料以上にも対応できるように建設されている。

■タイ・ユニオン・グループの副産品戦略2:プロテイン

――フィッシュオイル以外に注力してる副産品はあるか

フィッシュオイル以外に注力している副次生産品としては、プロテイン関連だ。ゼラチン、コラーゲン、ペプチド、アミノ酸など食品関連をはじめ、それ以外の用途への活用も含めて幅広く販売が可能だ。

現在、弊社としてはこのプロセスを軸に、現在研究活動を進めており、弊社のリサーチ機関であるGlobal Innovative Incubate (GII)を中心に研究活動を進めている。このGIIでは2015年の創設以来、新規事業の創設をテーマに積極的に研究を行っている。GIIのトップも他の主要部門のトップと同様に、海外からの人材が務めている。

――こうした分野の研究開発は自前での対応を考えているのか

このプロテイン関連については、社外のリソースも積極的に取り込んで対応していくことを考えており、現在すでに多くの企業から協業の申し出が届いている。日本企業も当然期待しており、特に魚由来のプロテインの生産製造関連に知見を持つ会社も多いのではと思っている。

特に医療や化粧品、その他の今まで一般的考えられていなかった分野での活用は非常に興味深い分野だ。

■業界最大手ならではの高付加価値化策

タイは今まで安価の労働力を生かして日系をはじめとした生産拠点として、経済成長を遂げてきた。その一方で、今ではそうした安さは周辺国と比較して、強みではなくなっている。加えて、今まで中進国まで順調に発展してきた経済も、このところ「中進国の罠」にはまって今までのような高度成長の絵が描けなくなっている。

そうした中で、タイでは、今までの安い労働力を生かした生産拠点から、より独創性や研究開発を軸にした高付加価値型の製造拠点へ国を挙げて段階的な高度化を図っている。

タイツナ缶大手で行われている研究開発や高付加価値化への取り組みは、まさに中進国の罠の次のステージの成長を模索しているタイを象徴するような取り組みだ。今でこそ、構造的な要因で業界として停滞しているタイのツナ缶業界だが、こうした動きが実を結び、またタイツナ缶業界にとっての春が訪れる日は来るのだろうか。

<筆者紹介>

杉田浩一

株式会社アジア戦略アドバイザリー 代表取締役。カリフォルニア大学サンタバーバラ校物理学および生物学部卒。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)経済学修士課程卒。15年間にわたり複数の外資系投資銀行にて、海外進出戦略立案サポートや、M&Aアドバイザリーをはじめとするコーポレートファイナンス業務に携わる。2000年から09年まで、UBS証券会社投資銀行本部M&Aアドバイザリーチームに在籍し、数多くのM&A案件においてアドバイザーを務める。また09年から12年まで、米系投資銀行のフーリハン・ローキーにて、在日副代表を務める傍ら東南アジアにおけるM&Aアドバイザリー業務に従事。

12年に、東南アジアでのM&Aアドバイザリーおよび業界調査を主要業務とする株式会社アジア戦略アドバイザリーを創業。よりリスク度の高い東南アジア案件において、質の高いアドバイザリーサービスの提供を目指してASEAN各国での案件を遂行中。特に、現地の主要財閥との直接の関係を生かし、日系企業と現地企業間の資本・業務提携をサポートしている。


関連国・地域: タイ日本
関連業種: 食品・飲料農林・水産

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