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【有為転変】第153回 コロナ禍とホームレス

弁護士の仕事以外にボランティア活動をしているオージーの友人から、「炊き出しボランティアに一緒に行かないか」と誘われた。街にいるホームレスの人々がどんな生活をしているのか興味津々だったので、こちらは開口一番に「行く!」と回答していた。ちょうど最近、コロナ禍を受けて連邦政府がホームレス生活者を施設に収容している、というニュースが流れていたばかりだ。

彼が所属するのは、キリスト教系慈善団体の「セントビンセント・デポール・ソサエティー」。オーストラリアの街でよく見かける「ビニーズ(Vinnies)」という中古品販売ショップの運営組織だ。売り上げはさまざまな慈善活動に充てられるが、炊き出しのような活動はその主なものだ。

シドニー郊外の公園で集まった人々にサンドイッチなどを配る(NNA豪州)

シドニー郊外の公園で集まった人々にサンドイッチなどを配る(NNA豪州)

オーストラリアでの貧困層向け炊き出しは、大量に作ったサンドイッチなどの食料品や日用品などを、公園などに出向いて配るというもの。この活動は毎日行われるが、同組織が曜日ごとに担当するボランティアを募り、キッチンなどを開放している。筆者が参加した団体は毎月第3土曜日の夜だけと決まっていたので、毎日実施しているということはかなりの団体が登録していることになる。

その当日夜、まず組織の支部に行き、さまざまなサンドイッチを約100個作ったり、クッキーやコーヒーなどを仕込んだ。サンドイッチの種類や作り方もマニュアルが用意されているので、初心者でも参加できる(余談だが、ベジマイトはジャムのようにべったり塗るべきではない(!)というのを初めて知った。どうもベジマイトは薄く塗るものらしい)。

最初に行ったパラマタ公園では、到着すると既に10人以上が待っていた。それでも平日と比べて少ないという。テーブルにサンドイッチを並べて人々に配るのだが、日本の貧困層向け炊き出しと大いに違う(と想像させられる)のは、集まってくる人たちにそれほど悲壮感がないことだ。

集まった人たちは大体陽気で、会話が弾む。「エッグサンドがないか?」とか「コーヒーは砂糖を多めにしてくれ」とか、「シャンプーや毛布もくれ」など、我々に臆せず要求してくる。

ニュージーランド出身だと話してくれた40代と思しき女性は車いすに乗っており、病的なほど太り、異臭を放っていた。サンドイッチやクッキーなどを平らげた後、カップヌードルまで食べた。

また、痩せて目が座った若い黒人男性が、よろよろと今にも倒れそうに歩いてくるので、思わず隠れようかと思ってしまったが、実際に話してみると、語り口がソフトで、笑顔が優しい青年だった。スーダンから来た難民だそうだが、コロナ禍の影響で、エンジニアの仕事がなくて困っているという。時々ろれつが回らなくなっていたので、おそらくドラッグを摂取したのだろうと思われる。ボランティア仲間によると、やってくるメンツはいつも大体同じだという。

■全国で約8,200人

コロナの影響で、オーストラリアも世界の御多分に漏れず、景気低迷が今後も続きそうだ。経済的下層にいる人々は最も打撃を受けているだろう。そのためオーストラリアでは、ホームレスの人々が増えているはず――と、想像しがちだが、実際はやや異なる。

豪ホームレス削減連盟(AAEH)のデビッド・ピアソン代表によると、ホームレスの人は全国で約8,200人いたが、連邦政府はそのうち約7,000人を政府施設に収容したのだという。

ニューサウスウェールズ州やクイーンズランド州では既に約1,000人が路上生活から脱しており、継続的な生活支援が計画されている。確かにシドニーでも、コロナ禍以降になって、都市部の路上生活者は非常に少なくなった気もする。

■フタを開けてみると……

別の慈善団体「ホームレス・オーストラリア」のジェニー・スミス代表は「コロナ禍の影響で、ホームレスの人たちの居住先が確保されるという僥倖(ぎょうこう)があるとは思いもしなかった」と話す。

大学のある調査では、ホームレスの人々は健康問題を抱えている割合や犯罪を起こす割合が少ないことから、公的収容施設を提供する方が、ホームレスの人々を路上に放置して発生する社会コストと比べると、政府にとっては明らかに安く済むとの試算が出ている。

豪政府は当初、新型コロナウイルスにかかった路上生活者がウイルスをまき散らすことを懸念してのやむを得ぬ収容措置だったのかもしれないが、結果的には怪我の功名で、ホームレス問題を解決する糸口が見えたと言えるのかもしれない。【NNA豪州・西原哲也】


関連国・地域: オーストラリア
関連業種: 社会・事件

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