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《インドネシア・ビジネス・セミナー》2019年大統領選とビジネス環境

株式会社エヌ・エヌ・エーは12日、インドネシアのカルティニ・ムルヤディ法律事務所の柳田茂紀マーケティングアドバイザーによるセミナー「インドネシア・ビジネス・セミナー」を東京本社で開いた。柳田氏は、2019年4月に史上初めて同時実施される大統領選と総選挙の動向のほか、インドネシアのビジネス環境を取り巻くリスクと法務について総合的に解説した。

講演したカルティニ・ムルヤディ法律事務所の柳田茂紀マーケティングアドバイザー=12日、東京(NNA撮影)

講演したカルティニ・ムルヤディ法律事務所の柳田茂紀マーケティングアドバイザー=12日、東京(NNA撮影)

インドネシアで2019年4月17日、大統領選と総選挙が史上初めて同時開催される。これに先立ち、今年8月4日~10日、大統領選と副大統領選の立候補登録が行われる。

大統領選には現大統領のジョコ・ウィドド氏(56)と、野党第一党のグリンドラ党重鎮のプラボウォ氏(66)の2人の出馬が見込まれている。副大統領候補者に、前国軍司令官のガトット氏(57)、ユドヨノ前大統領長男で軍出身のアグス氏(39)、頭脳明晰で税務方針を次々と打ち出してきた財務相のスリ・ムルヤニ氏(55)、リドワン・バンドン市長(46)、イスラム政党の開発統一党(PPP)党首であるムハマッド・ロハルムジ氏(43)らの名前が挙がっている。国民が軍人、経済学者、宗教家のいずれを選ぶかが注目される点である。

現地の有力新聞Kompasが行った今年3月21日~4月1日の世論調査で、ジョコ大統領の支持率は56%に対し、ライバルのプラボウォ氏は14%にとどまった。他調査機関が出した数字上でもジョコ大統領が圧倒的に優勢だが、それでも下馬評をひっくり返されたジャカルタ州知事選の前例もあり、最後まで予断を許さない状況だ。

副大統領選の候補者ではアグス氏が優勢。次いで現ジャカルタ特別州知事のアニス氏、ガトット氏、スリ氏の順番になっているが、アグス氏は軍の抑えになる一方で、イスラム団体や経済には弱い。反対に経済に強いスリ氏は、軍に顔が利かない。そういった中でどういう選択をするのか悩ましく、ジョコ大統領にとって非常に重要な課題となる。

6月27日には有権者の48%を占めるジャワ島の複数の州で地方選挙がある。どこの党が勝つのか、特にジョコ大統領が属する闘争民主党(PDI―P)候補が勝てるのかが注目される。来年に控えた大統領選・総選挙を占う意味を持つ。

■ジョコ政権の評価

ジョコ政権発足当時は、少数与党207(全議席の37%)議席であったが、ゴルカル党や国民信託党(PAN)が政権に加わった結果、15年末には386(69%)議席に拡大し、与党の絶対安定政権を達成した。ただし、スマトラ島出身でキリスト教徒のバスキ(通称アホック)元ジャカルタ州知事は、イスラム教の聖典「コーラン」を冒涜(とく)したとして非難されたほか、昨年4月のジャカルタ州知事選では世論がイスラム教とキリスト教に分裂し、今後のかく乱要因となった。これからも宗教対立の部分が表面化してくると安定政権は難しくなる。

ジョコ政権下では経済政策が一番進んだと評価されている。石油燃料補助金を廃止し、浮いた資金をインフラ予算に向けた結果、インフラ予算は14年に177兆ルピア(約1兆3,900億円)だったのが、17年には401兆ルピアとほぼ倍増している。

経済政策が評価される一方で、所得格差が改善されないことへの批判は根強い。現在の5%台の経済成長では、貧困や失業人口の対策には功を奏することはできず、不満を持った層が将来的な社会かく乱の要因となる可能性は大いにある。ジョコ氏の大統領再選に向けた実績アピールに使うため、ジャカルタ初の大量高速交通システム(MRT)の来年3月開業はマストであり、形に見えにくく地味な貧困対策は遅れ気味となっている。

貧富の差が埋まらず不満が蓄積し、今年5月には「兎にも角にもジョコ以外の他の人に大統領を代わって欲しい」という政権交代キャンペーンが首都のあちこちで行われた。ジョコ大統領再選には、いかに宗教・民族間の対立と、社会の中下層対エリート層の対立を上手くまとめるかが重要ポイントだ。

ジャワ島とそれ以外の地域間の格差、貧富の格差、それぞれの格差解消に向けた施策自体は立派だが、実行には多額の資金が必要だ。インドネシアは無尽蔵に外国から借金をすることができないため、財源の不足分は税収を増強して補うしかない。歳入の85%を税収が占めているが、17年の税収目標達成率は91%。18年第1四半期(1~3月)の税収の伸びは16.2%と前年同期の11.82%を上回り、今年は順調に走っていると言えても、今まで一度として100%を達成したことはない。

■基本的なビジネスリスク

今回のセミナーは今回で11回目となり、繰り返して警鐘を鳴らしていることは、「インドネシアは法制度が機能していない国」という認識の不可欠さだ。汚職にまみれた警察や裁判所はあてにならないため、予防策を万全にすることで自分の身は自分で守らなくてはならない。

民事・刑事ともに司法権が腐敗しているため、ビジネスに関わる法改正や運用で問題が起きがちだ。法律と運用が乖離しており、アドバイスは経験豊かな法律事務所から受けるなど、専門分野別に依頼を使い分け、法務、会計・税務系、労務系の依頼先を一括にまとめないことが大切である。

インドネシアは他の東南アジア諸国連合(ASEAN)各国と比べることが難しいほどの特殊性を持ち、1967年に資本主義体制に移行してからまだ半世紀しか経過していない国だ。華僑の存在も特殊で、土着系のプリブミ(マレー系インドネシア人)とは水と油の存在であり、共栄時代はまだまだ遠いと感じられる。

■投資手続きの改正と外国人雇用に関する大統領令

ジョコ政権は17年、投資手続きを簡素化し、もう一度インドネシアに製造業を呼び込みたいという政策を打ち出した。従来の「投資原則許可」から「投資登録」に名称変更し、「投資実行管理指針と手続きに関するBKMP令」が17年12月11日に公布された。

不正防止のため、申請は全てオンラインで、許認可は電子署名付きで会社フォルダに送付される。

投資登録時や操業許可の審査期間は従来の45営業日から5営業日以内と大幅に短縮され、策定中の財務相令では法人税が課税されない5年間の免税期間を設けるなど、外国人に厳しいインドネシアというイメージから、外国人が働きやすいインドネシアへと受け入れ体制を整えている途上だ。今年3月には「新外国人労働者雇用規則(大統領令2018年20号)」が公布されている。

しかし一方で、労働組合側は、スキルがない外国人には来て欲しくないというのが本音で、外国人労働者の資格を問題視している。また多数の中国人非熟練者を国内に受け入れたことで、ジョコ大統領が親中国で共産党員とのデマも流れたほどだ。

ユドヨノ前大統領や、プラボウォ氏とグリンドラ党も、新外国人労働者雇用規則がインドネシア人の就労機会を狭めるとして反対の声を強くしている。何かとジョコ大統領を来年の大統領選挙で追い落とそうとして、政治問題化している背景もある。

■国家規格SNIシール

日本の「日本工業規格U(JIS)や「日本農林規格(JAS)」に相当する「インドネシア国家規格(SNI)」を今年1月に施行した。自社製品が義務化対象品目にあてはまるかを確認し、規格を満たしていれば届出をしてSNIシールを貼付しなくてはならない。産業相令では、最低年1回、SNI義務化製品製造工場や市場で書類及びサンプルを検査し、特定品目は税関検査を強化するよう定めている。今年から来年にかけて64品目を義務化対象予定品目に追加すると発表しており、規格を通らない場合は、製造、輸入、販売ができない。義務化品目が急激に増加したことが外資参入の障壁となっている。

<講師紹介>

柳田茂紀氏

カルティニ・ムルヤディ法律事務所 マーケティングアドバイザー

1953年茨城県下館市生まれ。東京外国語大学インドネシア語学科を卒業後、76年旧東京銀行入行。銀行時代はインドネシアで9年半勤務。2004~07年の武蔵精密工業現地法人勤務を経て07年5月から現職。


関連国・地域: インドネシア日本
関連業種: マクロ・統計・その他経済政治

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