• 印刷する

【ASEAN】ベトナム医療は魅力的な投資機会か?(16)

3月16日付のNNA記事「高い生活費も住みやすさ抜群 2つの世界都市ランキング」(https://www.nna.jp/news/result/1738459)によると、シンガポールの生活費は世界で最も高いものの、アジアの駐在員にとっての住みやすさは随一であるという。世界の都市を対象とした調査によると、生活費の高さでシンガポールは5年連続で首位となる一方、アジアの駐在員にとっての住みやすさでも19年続けてトップに立った。とりわけ治安の良さや医療・教育サービスなどが評価されている。

英経済誌エコノミストの調査部門エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)は2018年版「世界主要都市の生活費ランキング」、人材調査会社ECAインターナショナルは「アジアの駐在員が最も住みやすい都市ランキング」を15日までにそれぞれ発表。シンガポールは前年に引き続き、いずれのランキングでも1位となった。

EIUは世界133都市について、160種類の製品・サービスを対象に計400品目の価格を調査。結果を総合してランキングを作成した。調査対象には◇食品◇飲料◇衣料品◇家庭用品◇パーソナルケア用品◇家賃◇交通費◇公共料金◇私立学校◇メイド◇娯楽費――などが含まれる。その結果、シンガポールは「世界主要都市の生活費ランキング」世界で最も高い都市となっている。

一方で、ECAによる「アジアの駐在員が最も住みやすい都市ランキング」においても、シンガポールが1位になったという。同調査では、世界480都市余りを対象に◇気候◇医療サービスの受けやすさ◇住宅・公共サービス◇社会的ネットワークへのアクセス◇娯楽施設◇インフラ◇個人にとっての安全◇政情◇大気の質――などを評価。アジアの駐在員にとっての住みやすさの視点からランク付けした。

ランキングの作成に携わったECAのアジア地域責任者、リー・クウェイン氏は「シンガポールは犯罪率の低さ、水準の高い学校や医療施設の存在に加え、域内の多くの都市と比べて大気汚染が少ない点が、19年連続での首位確保につながった」と説明している。

別のNNA記事である3月22付の「世界生活環境ランク、マニラは137位」(https://www.nna.jp/news/result/1740797)によると、米コンサルティング大手マーサーがこのほど発表した「2018年世界生活環境調査」の都市ランキングで、マニラは世界231都市中137位だったという。

マーサーは毎年、都市の暮らしやすさを評価する世界生活環境調査を実施しており、20回目となる今回は主に2017年9~11月に集めたデータに基づき、都市を順位付けした。結果は、多国籍企業などが駐在員の海外勤務手当を設定する際の指標となる。

東南アジアでは、昨年に続きシンガポールが25位で首位。クアラルンプールが85位、バンコクが132位で続いた。ジャカルタは142位だった。東アジアでは上位5カ国を日本の都市が占め、東京と神戸が50位。そのほか、香港は71位、ソウルは79位、台北は84位だった。

このように、東南アジアにおいて、駐在員の生活環境は世界トップクラスから下位まで幅広く、一言に東南アジアでの駐在といっても、そこでの生活環境は大きな違いがある。

■「日本から安定して医師を派遣できる環境か」について

駐在員の住環境の整備度合いは、医療サービスを海外で展開する際にも、当然重要な事項だ。日本水準の医療サービスを提供するに際して、日本のサポートで病院を作ることは重要だが、単に日本からの資金で病院ができたからといって、それだけで日本水準のサービスが担保されるわけではない。むしろ建設後のオペレーションをどれだけ高水準にこなせるかが重要であり、そのためには一定程度の人員を日本から派遣することがどうしても不可欠になる。

ただ、それを実現するために、日本の安定した環境を捨てて、東南アジアで一定期間滞在する要員を確保することは容易ではない。国内の医療環境においても医療人材は貴重な中で、住み慣れた日本を離れて海外でしばらく滞在することを選ぶ医療人材は限定的だろう。

そうなると、その医療機関の存在する場所の「魅力度」が重要になる。駐在するにおいても、安心してそこに行きたいと思う場所であることが重要だからだ。

さて、このシリーズのまとめとして、下記の10の医療サービスの進出の際に考慮すべき主要な点について、前回に引き続いて確認していきたい。

(1)現地で十分な患者数、また今後の患者数の拡大は見込めるか

(2)日本医療が現地での医療ニーズに対して十分効果的か

(3)(日本から医師を派遣する場合)現地で日系の医師が市民に対して医療行為を行うことが法規上可能か

(4)現地で日系の病院が提供するサービスに対して支払える「購買力」があるか(現地の所得水準が、日系医療サービスに対して支払えるレベルにあるか)

(5)日本企業に準じる、または上回る医療技術やサービスを提供している現地の医療機関はどの程度あるか(日系病院の強みが競合と比較してどの程度発揮できるか)

(6)現地で医療人材の確保が可能か

(7)集客面で好ましい立地の確保が経済的見合う形で可能か

(8)医薬品や医療機器など、現地において経済的に見合う水準での調達は可能か

(9)(日本から医師を派遣する場合)日本から安定して医師を派遣できる環境か

(10)現地で医療機関の設立が可能か(資本比率や許認可関連)

今回は「(9)(日本から医師を派遣する場合)日本から安定して医師を派遣できる環境か」について、ベトナムの駐在員の滞在先環境について見ていきたい。

■人道的な意識での海外進出は、モティベーションの大きな要因にはなりうるが…

そもそも、医療に関わる人材が海外に行くことを希望するのはどのような要因があるのだろうか。医療人材にも幅広いが、今回はその中でも事業の根幹となる医師にとっての海外進出として、以下の3つの魅力の観点から考えてみる。

(1)人道的支援

(2)生活環境

(3)医療技術の向上

医療関係での海外展開というと、国際協力機構(JICA)での医療支援や、国境なき医師団、赤十字などの非政府組織(NGO)団体の海外外支援活動を思い浮かべる人も多いのではないだろうか。実際、テレビのドキュメンタリーなどでは、発展途上国のへき地での医療に活躍する方の話も時々伝わってくる。日本での安定した生活をなげうって、生活環境が劣悪で、医療機器や設備も十分に備わっていない中で医療に携わる人々の活動には頭が下がる思いだ

このような人道的支援の観点からは、現地の医療水準が低い、いわば発展途上国であるほどその価値は大きいだろう。従って東南アジア諸国連合(ASEAN)であれば、ミャンマーやラオスといった、より一人当たり国内総生産(GDP)が低い国のほうが、より人道的支援の観点では駐在先としての魅力度が高いといえる。

ただ、このように海外で医療に携わる方は、どちらかというと個人での意識から実行に移している人が多いのではないだろうか。従って、組織として安定して海外に医師を派遣しようとした際に、こうした個人の意志だけを頼りに、海外に行く医師を安定して確保するのは実際のところ難しいのではと思われる。

■日本人にとってはやはり生活環境として高く評価されるタイ

安定して医師を海外に派遣する際には、その家族を含めて生活しやすい環境であることが、現実的には必要になってくる。テレビのドキュメンタリー受けするようなあまりに発展していない国だと、さすがに生活環境としては厳しいのが実際だ。

冒頭の記事にあったように、シンガポールやマレーシア、タイなどは生活環境としては好ましい。なおこうしたランキングも、今回のNNAの記事で紹介した調査が欧米の調査機関の結果だったこともあり、英語圏のシンガポールやマレーシアの評価が高く出ている。例えば、マーサーの「2018年世界生活環境調査」の都市ランキングでは、シンガポールが25位で、ASEAN主要都市で首位。次いでクアラルンプールが85位、バンコクが132位となっている。

一方で、日本貿易振興機構(JETRO)による「ASEAN・南西アジアのビジネス環境をどうみるか?~ビジネス上の課題を中心に」(2014年)によると、ASEAN主要各国での調査において、「駐在員の生活環境が優れている」と答えた割合はタイが56.3%と最も高く、ついでシンガポールの42.6%、マレーシア36.3%となっており、ベトナムの19.9%が続いている。日本人の観点からは、タイの評価が相対的に大きく高まるのが特徴的だ。

■医療の観点からはどれだけ手術などが行われるかの観点も重要

上記の一般の駐在員環境に加えて、医師にとっての駐在先としての尺度で特徴的なのが、そこ行くことで、どれだけ「医師としての技量を高めることができるか」の観点だ。特に若手の医師の場合、これからどんどん医師としての技量を挙げることにより、自らのプロフェッショナルとしての価値を伸ばそうと考えるので、こうした点にどこまで対応できるかは、優秀な若手の医師が喜んで現地で勤務してもらうために避けて通れない論点だ。

医師として医療技術を磨くことができる環境なのかの観点で重要なのは、現地でどれだけ難易度の高い手術等を経験することができるかだ。そうなると、それなりの難しい手術を、それなりの件数こなすことができる環境であることが求められる。

これは、何も日本からの医師に限った話ではない。ベトナムにおいて、現地のベトナム人若手医師が、私立病院と比較して給与水準が必ずしも高くない公立病院での勤務を選ぶ理由のひとつは、難しい手術に関わることができる件数が、公立病院のほうが総じて私立病院と比較して圧倒的に高いからだ。

一方で、そうした難易度の高い治療は、総じて高額な医療機器が必要になったり、大人数の医療チームがいて可能だったりするため、どうしてもコスト構造的には難しい話になりがちだ。医療人材確保と、また病院としての評判の観点からは、難易度の高い医療に取り組むことはプラスだろう。ただ、はたして日系医療機関が進出する際に、そうした大掛かりな難易度の高い医療をどこまで行うかは、投資効率の観点からは悩ましい点だ。

■ベトナムの日本人医師の滞在先環境としての評価は?

ベトナムの日本人医師の滞在先環境として評価すると、(1)の人道的支援の観点からは、特に山間部や中部等の所得水準が低い地域において、依然として日本の支援が重要な意味を持ってくる。そうした意味では、ベトナムは、まだ人道的支援の観点から魅力度が高い。加えて、(2)の生活環境としてみても、ハノイやホーチミンなどの大都市に加えて、風光明媚な観光地のダナンなど、比較的生活拠点としての整備も進んできている。

最後に、(3)の医療技術の向上の観点では、これは国としての評価よりもその国でどれだけ高度医療を行うかの個々の医療機関の戦略的な判断がより重要な論点となってくるだろう。現地で仮により高度医療に取り組むのであれば、日本人医師としての技量を高める場としても、駐在先としての魅力度は高まってくるだろう。

<筆者紹介>

杉田浩一

株式会社アジア戦略アドバイザリー 代表取締役。カリフォルニア大学サンタバーバラ校物理学および生物学部卒。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)経済学修士課程卒。15年間にわたり複数の外資系投資銀行にて、海外進出戦略立案サポートや、M&Aアドバイザリーをはじめとするコーポレートファイナンス業務に携わる。2000年から09年まで、UBS証券会社投資銀行本部M&Aアドバイザリーチームに在籍し、数多くのM&A案件においてアドバイザーを務める。また09年から12年まで、米系投資銀行のフーリハン・ローキーにて、在日副代表を務める傍ら東南アジアにおけるM&Aアドバイザリー業務に従事。

12年に、東南アジアでのM&Aアドバイザリーおよび業界調査を主要業務とする株式会社アジア戦略アドバイザリーを創業。よりリスク度の高い東南アジア案件において、質の高いアドバイザリーサービスの提供を目指してASEAN各国での案件を遂行中。特に、現地の主要財閥との直接の関係を生かし、日系企業と現地企業間の資本・業務提携をサポートしている。


関連国・地域: ベトナム日本
関連業種: 医療・医薬品マクロ・統計・その他経済

その他記事

すべての文頭を開く

【書籍ランキング】10月4日~10月10日(10/22)

台鉄特急が脱線、18人死亡 負傷者171人、事故原因は調査中(10/22)

タイを日本人起業家の拠点に 日本政府が本腰、財閥と提携支援(10/22)

グローバル人材育成の拠点に ビズメイツ、英語で「起業」体験(10/22)

健康、教育分野の新興企業に投資=TVP(10/22)

巨大IT企業の規制議論、総務省(10/22)

FAの協立電機、印で弾み 製造業振興の波に乗り事業拡大へ(10/22)

ホンダ二輪販売12%増、4~9月(10/22)

日本からの投資3分野に期待 行政長官、イノベ・建設など(10/22)

LINE、クラウドソーシング企業に出資(10/22)

すべての文頭を開く

※本コメント機能はFacebook Ireland Limitedによって提供されており、この機能によって生じた損害に対して株式会社エヌ・エヌ・エーは一切の責任を負いません。

NNAからのご案内

出版物

各種ログイン