【アジアで会う】畑秀司さん プロミュージシャン 第199回 韓国から日本デビューを果たしたギタリスト(韓国)

はた・しゅうじ 北海道出身。大学在学中に東京で音楽活動を展開。プロデビューを目前にするも、芸能界の雰囲気が合わず、一切の活動を休止。新しい環境を求めて韓国に渡る。ブランクを経て16年ぶりに音楽活動を再開。韓国の大学の実用音楽科(コンテンポラリー音楽を教える専門学科)で博士号を取得した。これまで5枚のリードアルバムを発表。日本でも待望のアルバムデビューを果たした。

畑さんが初めてギターを手にしたのは小学3年生の時だ。3つ上の兄と近所の友人たちの影響を受けて、ビートルズなどのポップソングを聞き始めたのが、音楽に関心を持ったきっかけ。とりわけ、ギターの音に引きつけられた。

中学では、友人とバンドを作って毎年学園祭で演奏。ジェフ・ベックの大ファンだったこともあり、「帯広市の『3大ギタリストの1人』と呼ばれていた」と笑う。

高校生になると、当時流行していたカシオペアやT-SQUARE(ティー・スクェア)などの影響で、ジャズ・フュージョン系に目覚める。ギターの腕も上がり、大人たちと一緒に演奏を始めた。

将来の目標はプロのギタリストだ。「そのためにはとりあえず都会に出なければ」と東京の大学に進学。ジャズ研究会に所属して演奏に明け暮れる日々を送った。音楽の専門学校にも通い、ジャズギターの基礎を習得。3年生の時には、美空ひばりさんのバックバンドに呼ばれ、夢だったミュージシャンとしてのプロデビューは目前に迫っていた。

しかし、畑さんは突然、一切の音楽活動を中断してしまう。「芸能界のドロドロとした人間関係が肌に合わないと直感した」からだ。

畑さんはその後、新たな環境を求め、以前から関心があったという韓国に渡る。現地の女性と結婚し、日本語講師などを経て、韓国の企業にも勤めた。ギターは、友人の結婚式や身近な人同士の集まりなどで、頼まれれば弾くという程度だったという。

そして活動中止から16年後、畑さんは「音楽活動を再開せよ」との声を聞いた感覚に陥った。天啓とも言うべき瞬間だったという。

■プロデビューへ

「無謀だ」という家族の反対を押し切って、さっそくギターを購入。しかし、昔の感覚はなかなか取り戻せない。そこで、仕事が終わった後にソウル市内のジャズバーに通い、出演者にお願いしてノーギャラで演奏させてもらうという生活を始めた。

そして1年後に転機が訪れる。演奏でたびたび訪韓していた大阪のフュージョン系バンド「BLACK CANDY」のメンバーから声がかかった。脱退したギタリストの代わり「プロでやりませんか」と誘われたのだ。

すぐに仕事を辞めて、音楽活動に専念。韓国のテレビの音楽番組にも何度か出演し、少しずつ知名度を高めていった。ライブ演奏と並行して、韓国の大学で実用音楽を学び、博士号も取得した。

畑さんはこれまで、5枚のリードアルバムを発表。昨年は、最新作「Masquerade Suite」で待望の日本デビューも果たした。同アルバムの7曲目「See You Again」は、AIRDO(札幌市)が運航する便の機内エンターテインメントでも視聴できる。畑さんの曲は、韓国のテレビドラマのサウンドトラックとしても使われ、ファン層も広がっていった。

■米国進出が目標

畑さんは現在、月15~20本のライブをこなす。規模も、大きめのコンサートホールから、米系のレストランチェーン「ハードロックカフェ」、ジャズ喫茶などさまざまだ。演奏形態は完全ソロが8割を占める。残りの2割は、日韓のミュージシャンとの共演や声楽家や韓国の伝統的な打楽器とのコラボレーション。「ジャズギタリスト」としての枠を超えた活動ぶりだ。

母国での演奏も増えた。日本人と韓国人は音楽の楽しみ方の違いについて、「韓国人は感性が熱く、音楽を体全体で聞いているという感じ。演奏して思わず楽しくなる」。一方、日本人は心の深いところで音楽を聴いてくれるそうだ。「ある時、涙を流しながら演奏を聴いてくれている姿を見て、感動を覚えた」。

畑さんは今後、日本での活動を増やしていく計画だ。その先には、米国進出を見据える。韓国で活動する数少ない日本人ミュージシャンとして、世界の人々に日本と韓国の感性が融合した個性的な音楽を届けたいと話す。

16年間のブランクについては「全く後悔していない」という畑さん。遅咲きのギタリストの歩みは、まだ始まったばかりだ。(韓国編集部=坂部哲生)


関連国・地域: 韓国
関連業種: 経済一般・統計社会・事件

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