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【有為転変】第111回 就労ビザ厳格化の波紋

オーストラリアとニュージーランド(NZ)が、外国企業にとって死活問題となる制度変更を発表して大騒ぎとなっている。外国人労働者を対象とした就労ビザの厳格化だ。一連の過程を見ていて、いくつか腑に落ちないことがある。

■24時間以内に3カ国が発表

オーストラリアのターンブル首相が、なぜか自身のフェイスブックで、長期就労者ビザ(457ビザ)を廃止すると明らかにしたのは4月18日だった。奇妙なことに、その翌19日に今度はNZのイングリッシュ政権が、同じく就労ビザを厳格化すると発表した。そしてさらに、米トランプ大統領も米国時間の18日、専門技能を持つ外国人向けビザ審査を厳格化することを明らかにし、直後に大統領令に署名した。まるで示し合わせたかのように、わずか24時間以内に、この米・豪・NZ3カ国が移民政策を厳格化することを発表したというのは、いったいどういうわけだろう。

オーストラリア政府は釈明していないが、NZの一部メディアは不可解だと思ったようで、イングリッシュ首相に問いただしたところ、「単なる偶然だ」と片付けられている。

だがここで、選挙を見据えて、トランプ米大統領のポピュリズムに右ならえをした――という“邪推”も可能だろう。移民のおかげで発展した3つの国家としては、外国人嫌い(xenophobia)の政策はアイデンティティーを揺るがし、海外からの批判も招くため、発表を同時期にすることで、世界的すう勢であることを示し、自国だけが批判の的になるのを防ぎたかったのかと勘ぐってしまう。

■混乱する外国企業

ターンブル首相が発表した政策は、国内の雇用を守るため457ビザを廃止し、代わりに職歴や英語能力を重視したより厳格な2年間有効なビザと、人材不足の職種に対象を絞った4年間有効なビザを導入するなどとするものだ。

さらに、市民権取得の審査も厳格化し、資格を得るまでの期間延長や、「オーストラリアの価値観」を受け入れる証明、英語能力試験などが加わることになる。

NZも同様で、ウッドハウス移民相は、近年移民が急増したことにより、NZ人の失業者が増加し、オークランドを中心とする主要都市での不動産価格が高騰していることが背景だとしており、外国人労働者数の絞り込みを行うことで、NZ人の雇用を優先させる狙いだと説明した。

この政策に保守系議員は快哉を叫び、労働党は元は我々の政策だったと主張し、国民からもおおむね歓迎されている。だがその一方、産業界には大混乱をもたらしているのも事実だ。

オーストラリアに上場する上位100社のうち、最高経営責任者(CEO)が外国籍である企業は36社に上る。国有企業のNBNでさえ、CEOは外国籍だ。ソフトウエア大手のアトラシアンや、製薬大手CSLといった大手企業が「有能人材の採用がさらに難しくなる」と声を揃えて批判。またある日系企業も「更新期間を含めても、合弁相手からどうせ4年で帰るのだろうと軽く扱われる可能性がある」と話した。

■移民数は19万人維持?

ところでひとつ不可解なのは、発表から3週間後、ダットン移民相が新年度予算案発表の日に、新年度のオーストラリアへの移民数は約19万人を維持すると明言したことである。

確かにオーストラリアの移民数はここ数年、約19万人に維持されてきた。マイニングブームで多くの外国人労働者を受け入れた12年(約24万人)と比べれば落ち込んでいるものの、長期平均からすれば2倍の水準だ。

また統計局によると、オーストラリアの過去15年間の人口成長率は年平均1.8%と、先進国の中では上位の水準である。移民が人口増加を支えている形だ。

オーストラリア経済にとって、移民は不可欠である。

人口増と経済成長は、基本的には、かなりシンプルな関係にある(ちなみに日本の場合は、移民を含め人口を増やす重要性をなぜか長年無視してきているので個人的には本当に不可解だが)。

毎年の新年度予算案もそうだが、オーストラリアの経済成長率は、毎年約40万人の人口増加を基準に算出されている。要するに、40万人都市が毎年1都市ずつ増えて、それがGDP(国内総生産)の拡大に寄与するのと同じことが、オーストラリアの経済成長モデルとなっている。

そして年間の人口増加分のうち、55%は外国人の技能労働者による移民が占める。なのに今回、オーストラリア政府はその外国人の就労ビザをかなり厳格化すると言っている。その一方で、新年度の移民数は減らさないとも言っている。そんなことができるだろうか。457ビザが廃止された場合、年間の移民数は最大15%、約3万人減少するとの試算もあるというのに、だ。

オーストラリア人のある移民専門家は「ポピュリズムが念頭にあり、政府は深く考えていないのでしょう」とため息をつく。

このままでは、年度末にかけて、ビザ厳格化は修正を迫られるのは必至と思われる。

こう見てくると、先に書いた邪推も、まんざら邪推ではないのかもしれない。(NNA豪州編集長・西原哲也)


関連国・地域: オーストラリア
関連業種: マクロ・統計・その他経済

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