■『和僑 農民、やくざ、風俗嬢。中国の夕闇に住む日本人』
安田峰俊 著 KADOKAWA2016年4月発行 760円+税
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「中国の田舎に住んでるけど質問ある?」─。大手インターネット掲示板サイト「2ちゃんねる」に、雲南省の農村に住んでいるという男性が投稿したスレッド(トピック)が立った。うそ八百の情報も多い2ちゃんねるだが、著者はこの書き込みから現実味と魅力を感じ取り、この日本人男性を探しに雲南省を訪れる。
本書では、この日本人「2ちゃんねらー」に続き、マカオの風俗店に出稼ぎへ行った女性、日系企業の要望を受けて上海に暴力団を組織した男性、日中友好に半生を捧げた後に「嫌中派」となった女性など、中国で暮らしたり仕事をしたりする日本人を追い、彼らが異国で何を考え、何を見ているかを探った。
登場する人たちは、住んでいる場所も年齢、性別、学歴、年収、職業もバラバラで、何らかの形で中国にかかわっているということ以外に、共通点はほとんど何もないように見える。しかし、著者は取材を通じ、彼らの表情を一皮めくった下から、濃厚な「日本」の残り香をかぎ取る。それは、中国社会と接触せずに現地の日本人社会にこもるタイプの人たちはもちろん、普段の生活で完全に日本を捨てているように見える人でさえ同様という。中国を通じて日本が見えてくる一冊だ。
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「日本より中国の方が自由で暮らしやすいんですよ」(本書より)
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<目次 のぞき見>
2ちゃんねらーは日本ではなく中国の農村を選んだ 雲南
「私は『ニッポン定食』だった」と風俗嬢は笑った 新宿歌舞伎町
駐在員たちは「かつての日本」をつくっていた 上海
「組を作ってくれとお願いされたんや」とやくざは語った 上海
「さらば日中友好」と、友好に身を捧げた老女は訴えた 北京
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<プロフィール>
安田峰俊(やすだ・みねとし)
1982年、滋賀県生まれ。ルポライター。立命館大学文学部卒業後、広島大学大学院文学研究科修士課程修了。在学中、中国・深セン大学に交換留学。一般企業勤務を経た後、運営していたブログを見いだされて著述業に。中華圏の社会・政治・文化事情に通じ、著書に『知中論 理不尽な国の7つの論理』『野心 郭台銘伝』など。
※特集「アジアに行くならこれを読め!」は、アジアを横断的かつ深く掘り下げる、NNA倶楽部の会員向け月刊会報「アジア通」2017年3月号<http://www.nna.jp/lite/>から転載しています。毎月2回掲載。
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