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《インドネシア・ビジネス・リスク・セミナー》3年目に入ったジョコ政権 

講演したカルティニ・ムルヤディ法律事務所の柳田茂紀氏=20日、東京(NNA撮影)

講演したカルティニ・ムルヤディ法律事務所の柳田茂紀氏=20日、東京(NNA撮影)

インドネシアはジョコ政権が3年目に入った。市場としての魅力も高まる同国だが、現地のビジネスリスクにはどのようなものがあるのか。株式会社エヌ・エヌ・エー(共同通信グループ)は12月20日、東京で「インドネシア・ビジネス・リスク・セミナー」を開催。インドネシアのカルティニ・ムルヤディ法律事務所で長年にわたりマーケティングアドバイザーを務める柳田茂紀氏が押さえておきたいポイントを解説した。

■法制度が機能しない「放置」国家

何事も自分の身は自分で守る姿勢が必要となる。司法や警察は日本とは別物と考えた方がよい。例えば、一度告訴すると刑事事件は取り下げができず、警察などから賄賂を請求されるだけということがある。

これを踏まえ、初期費用がかかるとしても、インドネシアでの経験豊かな信頼できる人物からアドバイスを受けることが重要だ。ただ、低料金のアドバイザーには質の問題があることを忘れてはならない。

20カ国・地域(G20)に東南アジア諸国連合(ASEAN)から唯一参加し、大国意識が高まった途端、中国が急接近し、日本に対する親しい目線に変化が表れた。また、時間と金に対する感性の違いや、先のことは考えないという、計画好きな日本人とは対照的なところがある。学歴においても、全人口の3分の2が中卒以下であり、他のASEAN諸国とは比較できない特殊な国ということが分かる。華僑は人口の約3%だが、プリブミ(先住のマレー系インドネシア人)とは水と油の関係で、両者の共存共栄時代はまだまだ遠い。

日本人にとってはインドネシア語が分からないリスクもある。日本語を話す社員を重宝すると、数年毎に異動になる日本人社長に代わり、将来的には実質的社長がこの日本語を話せるインドネシア人になってしまい、誰が社長だか分からなくなってしまうリスクだ。

インドネシアは日本の常識は通じないため、常に「軒先を借りて」商売していることを忘れてはならない。

■ジョコ政権のリスク

ジョコ大統領は市民基盤の全く新しいタイプの政治家だ。中央政権で活躍する期間が短かったため頼れる部下が非常に少ない。閣僚間の調和が取れるか懸念され、孤軍奮闘の状態である。

歳入不足解消に躍起ではあるがやはり税収ベースは貧弱。国産品・国内資本を優先、資源の国内加工推進、外資による漁獲禁止、ルピア使用義務付けなどからナショナリストであることがうかがい知れる。

分配(弱者保護)政策を重視するため財政の負担が増し、ますます徴収しやすい日系企業の徴税が強化される。投資手続きの迅速化を推進する一方、外国人に対する就労許可基準を厳しくするなど、外資から見ると施策がちぐはぐで先行きは不安であるが、野党が弱体化し対抗する政治家もなく、ジョコ政権は当面は安定するとみられる。

■市場参入の障壁と低迷する経済

生産年齢人口は2030年にピークを迎える。平均寿命は71歳

生産年齢人口は2030年にピークを迎える。平均寿命は71歳

「日本にとって中期的に有望な事業展開先」として2015年は2位だったが、16年は3位に後退した。人口ピラミッドは日本と逆の形で、中間層は約3割の7,500万人いるとされる。30年には国内総生産(GDP)が日本と肩を並べ、50年には日本を抜くと予想され、消費市場は拡大している。

外資の参入障壁となっているのが、華僑の牙城である流通業への参入規制やビザ発給条件の急速な厳格化などである。中小企業進出のハードルも高く、第3次産業にとっては大きな障壁となっている。

15年1月には中央銀行対外借入新規制(ヘッジ規制)が行われ、同年7月には国内取引についてルピアの使用を義務化した。

その他、インドネシア語ラベル表示やインフラ案件の現地調達率規制、用地の取得が困難などもある。外資企業への資本金規制も強化している。

経済成長は減速傾向で、中国の景気減速による需要低下を受けた資源価格下落、出荷量減少と未加工鉱石禁輸措置の影響は大きい。不良債権比率は上昇し、今後も急激な景気回復は望めない。インフラ支出の遅れや、企業業績低迷による税収停滞もあり、ジニ係数(所得分配の不平等さを測る係数)は悪化している。

■ビジネスを取り巻く諸問題

司法が民事・刑事ともに腐敗しており、法律と実際の運用が乖離(かいり)しているため、経験豊かな法律事務所のアドバイスを受けるべきである。15年の腐敗認識指数は世界的に見て良くも悪くもないが、ジョコ政権下では汚職問題が悪化した。

正社員だと退職金が多額になるため、契約社員が多いことが特徴的である。

また、事業許可と事業内容の食い違いや「外資15年ルール」などリスクもある。

定款就業規則への理解不足や年次株主総会決議事項の欠落は会社運営上のリスクだ。取締役について任期切れとならないように注意すべき。また、公正証書の承認を無視して作成することがあるのでこれにも注意が必要だ。

1968年に内国投資法ができ資本主義体制が整ったため、社歴は長くても50年弱で、日本との社歴は大きく違う。

ルピア金利が高く、支払い期日に支払う地場企業はほんの一部であり、ここでも日本の会社と同等に考えるのは大きな間違いであることが、ビジネスパートナーとしてのリスクと言える。

撤退・買収による主要株主変更に伴う退職金要求では通常の5倍以上になる例もあるため、慎重な事前見当が必要とされる。

交通は慢性的に渋滞し、空港のキャパオーバーにより輸送コストは上昇、ほか監査法人スタッフ、英語の通じる弁護士事務所の不足もリスクとなる。

警察は役に立たず、日本的解決法は無理であり、定期的な人事異動や抜き打ち検査などでけん制することが社内不正リスクに対する予防策となる。

契約書締結時、金額によって相手から定款を要求し確認するが、日本と違い登記所などからの入手は困難だ。

地場企業との取引に際しては費用対効果を考えると法的手段に訴えるのは現実的でなく、むしろ不良債権発生を最小限とする債権残高管理システムが重要である。

■最近の法務トピック

2016年5月18日施行の大統領令2016年44号で外資ネガティブ・リスト改正が規定され、新たに外資100%は32分野、条件付き分野は664から515に減少した。リスト改定は遡及されず、既存企業の出資比率には影響しないとみられる。

投資手続きに関する投資調整庁(BKPM)長官令およびその改正の後、以前多かったノミニー(名義借り)は禁止された。また、支店開設が許可から報告へ変更された。

イミグレの査察の際、カラワンでは帰国者の出国許可取得に税務署からの税金完納証明書の添付を義務付けられた。代表者は日本に帰国の証明も必要である。

査察でチェックされるポイントは、外国人雇用許可(IMTA)上の肩書と名刺の肩書の一致、就労場所の一致(一言一句合っている必要がある)。また出張者は応接室にしか入室できないとされている。

観光に加え、家族訪問、現法・駐在員事務所との会議出席がビザ免除となったが、万一揉めた場合は35ドルなので取得すべきである。

出張者はパスポート原本提示義務があり、常時携帯しておくこと。

現在国会審議中の禁酒法の草案では、濃度1%以上のアルコール消費者には懲役3カ月から2年または1,000万ルピア(約8万8,000円)~5,000万ルピアの罰金が科されることになっている。

ハラル法施行に関する政令が定められており、ハラル法制定5年以内(19年10月17日まで)にハラル認証を取得する必要がある。日系では味の素、小川香料、丸亀製麺などが取得。リンガーハットは鶏スープでハラル対応している。

租税特赦法があり、15年度までの税務申告額に不足があった場合、追加申告を行うと軽減税率が適用される。16年12月20日時点で申告は4,037兆ルピア、税収96兆5,000億ルピアで、達成率は58.2%となっている。

■輸入業者への規制緩和

消費材販売は外資大規模小売業経由の販売を除き、内覧販売店・代理店経由で販売しなければならない。輸入した補完品との組み合わせ販売が可能である。しかし全く取り締まられていないのが現状だ。

補完品、市場テスト品、アフターサービス品の輸入が許可されるには(1)新品であること(2)当地で生産できないこと(3)操業許可書などの事業許可に沿っていること――などの条件を満たさなければならない。

国家就労資格基準システムは外国人にも適用され、今後順次義務化対象分野が拡大する見込みである。

外資建設業に対する規制が強化され、純資産5億ルピア以上、過去10年間に累積2,500億ルピア以上の実績が必要。これをクリアするために外資建設会社は対策を練っている。

資本1:負債4の負債資本比率規定があり、税務署に債務額の報告漏れがあった場合、借入費用が前記比率内でも損金算入されない制度がある。

ほかインドネシア社会保障機関(BPJS)の労働保険未加入事業者に対する行政罰があり、三段階で罰則が科せられる。

新著作権法では、保護期間や対象の拡大、著作権協会が新設され、ロイヤルティーの徴収、保管および配給を行うこととなった。

憲法裁判所判決による新労働法の内容変更があり、複数の労働組合がある場合に経営者と協議が行えるのは労働者総数の50%を超える労働組合と規定された。

国民住宅法や、CSR(企業の社会的責任)法草案では実施金額の設定があり、会社に大きな負担となることがうかがい知れる。

セミナーは約70人が聴講=20日、東京(NNA撮影)

セミナーは約70人が聴講=20日、東京(NNA撮影)


関連国・地域: インドネシア日本
関連業種: 食品・飲料マクロ・統計・その他経済

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