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【アジアの風、日本のゆくえ】(第1回)

RCEPは輸出回復の起爆剤になるか?

日本は戦後、輸出をてこに急速な経済発展を実現した。アジアでもっとも早く工業化し、先進国入りした日本は、アジア諸国の羨望(せんぼう)の的であった。日本に追いつくためのアジア各国の発展戦略は「キャッチアップ型工業化」ともよばれた。たしかに、世界人口の3%でしかない日本が世界の輸出市場の10%近くを占めた時代があったのだ。そのなかで、「メード・イン・ジャパン」は安価な製品の代名詞から高品質製品を保証する代名詞に変化した。世界の経営者は、日本の「カイゼン(改善)活動」、「QCサークル」にその秘密を学ぼうとした。当然、あまりに急速な台頭は、輸出大国の米国の怒りを買った。今の中国と同様である。しかし、「日米貿易摩擦」が騒がれた頃の破壊力の面影はすでにない。でも、そんな過去の栄光から抜け出せていない経営者は案外多いのだ。
21世紀に入って、アジアの繁栄の構図は明らかに変わった。
日本経済がアジアの先頭を走っているという思い込みは捨てたほうがいい。アジアのなかで最も所得が高いのはシンガポールであり、次いで香港であって、日本ではない。コロナ禍でいずれの国でもデジタル化が加速しているのに、日本はマイナンバーカードの普及にさえ苦戦している。
ただし、焦りは禁物だ。大切なのは、現実を直視することだ。その上で、自ら問題設定し、自前のステップを踏み出すことである。そうしないと、日本らしさという、とっておきの魅力さえ失ってしまうことになる。
本連載「アジアの風、日本のゆくえ」では、アジアで起こっているさまざまな変化を取り上げながら、日本の将来像を、読者のみなさまとともに考えていきたい。【亜細亜大学教授・大泉啓一郎】