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【アジアで会う】千住洋さん Sansanグローバル 地域統括CEO 第401回 入社した頃のような気持ちで(シンガポール)

せんじゅ・ひろし 1980年メキシコ生まれ。4歳から米国で育ち、12歳で神奈川県小田原市に移る。中央大学卒業後、大手システム開発企業に入社。2009年、三三株式会社(現Sansan)に入社し20番目の社員となる。19年からシンガポール現地法人であるSansanグローバルの地域統括CEO(最高経営責任者)兼Sansan執行役員。妻と6歳の息子の3人家族。休日は息子のラグビー教室のコーチを務める傍ら、自身もニュージーランド人やオーストラリア人の父親たちと一緒に汗を流す。

まだ母親のおなかの中にいる間に、家族がメキシコに移住した。太平洋を渡り、無事生まれた息子を思って両親が付けた名前が「洋」。メキシコでは、出生時にキリスト教の風習でミドルネームが与えられる。そのミドルネームを取って、今でも英語名はEdward Senjuと名乗っている。

12歳の時に日本に戻った千住さんは、「イノベーション(革新)とトラディション(伝統)のバランスが重要だと考えるようになった」と語る。米国の教育では、新しいことに挑戦することが重要視され、大きな夢を持てと教わる。一方、日本では祭りなど地域に根付いた古くからの風習が今でも生きている。地元の祭りやみこし担ぎに参加することが楽しみになり、文化や風習を守ることの大切さに気付いた。「革新と伝統のバランス」という言葉は、米国と日本で多感な時期を過ごした自身の実体験から生まれた。

■まず何かできるようになろう

地元小田原や日本の伝統に対する思いが深まるにつれ、地方自治に関心を持つようになった。大学では総合政策学部で学んだ。地方自治の道に進むことも考えたが、まず何か身に付けなければならないと考え、大手外資系システム開発企業に就職して営業畑を歩んだ。

営業のスキルを身に付け、最先端のIT技術にも触れることができたが、自身の中では事業の運営面をもっと知りたいという思いが高まっていく。そんな時に、Sansan共同創業者の一人である富岡氏から声がかかった。氏もかつて同じシステム開発企業で働いていたことがあり、顔見知りではあった。千住さんが考えを打ち明けると、「じゃあ、ウチの社長に会うか」と誘われた。創業者で社長の寺田氏や富岡氏と会って話す中で、「人事をやらないか」と言われた。「成長著しい会社にもかかわらず、未経験者の私に人事を任せるというのは、私自身を深いところまで見てくれている」と感じ、二つ返事で転職を決めた。

■新サービス立ち上げとインド挑戦

Sansanといえば、日本では「それ、早く言ってよ~」という決めぜりふのテレビCMでおなじみだ。これは寺田氏が商社に勤めていた時の体験を基にしている。その経験により生まれたのがSansanという会社だ。クラウドベースの法人向け名刺情報管理システムで一躍業界の最大手に躍り出た。

このシステムを個人の名刺管理に使いたいという声は、上市して間もないころから聞こえていた。千住さんが入社した翌年の2010年に個人向けシステムのプロジェクトが立ち上がり、役員、開発担当、千住さんの3人で開発に取りかかった。このプロジェクトで生まれたのが、名刺アプリのEight(エイト)だ。現在では300万人以上が使うビジネスアプリに成長した。ゼロから新たなサービスを開発し、機能を充実させていく経験は後のキャリアにとって大きな糧となった。

17~19年にはEightのインドでの拡販を試みる。同国での経験は刺激的かつ衝撃的だった。常識などという観念は通用しない社会の多様性とそこから生まれるエネルギーが、千住さんに大きなパワーを与えた。「毎日、何らかの『事件』が起きるんです。おかげでビジネスの反射神経が鍛えられました」

■入社時に戻ったような感覚

日本では、出会いの約9割は名刺を通じて行われるという。欧米でも7割ほど。名刺という情報媒体のネットワーキングが強みのSansanにとって転換点となったのが、19年末から始まった新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)だ。コロナ禍でテレワークが増え、名刺交換の場は激減した。だが、名刺情報管理システムに蓄積されたデータはこうした状況でも力を発揮した。さらに請求書業務を請け負う新サービスのBill One(ビル・ワン)も軌道に乗り始めた。

パンデミックを前にした同年9月に、千住さんはシンガポールに赴任した。Bill Oneはコロナ禍に対応した良いサービスだと顧客からは褒められるが、実は日本ではそれ以前から始めていたという。経理スタッフが既存技術を基に生み出したアイデアで、そこから新しいサービスが生まれた。「信じた価値を掘り続けるのがSansanの信念」と千住さん。シンガポール、マレーシア、タイなど、域内の企業でこのサービスを利用しているのはまだ数十社だが、納入先を拡大していくのが目下の最大の目標だ。

千住さんは、現地オフィスで約20人のスタッフを従えている。域内各国の現地語を話すことができる国際色豊かなメンバーだ。「今の社員数は、私が入社した時の人数と同じ。なんだか、そのころに戻ったような感覚ですね」と語る。

自身の夢も忘れていない。いつか何らかの形で地元に貢献できるように、日々研鑽(けんさん)中だ。「イノベーションで破壊するのではなく伝統も残す。これは、私の人生のテーマなんです」という千住さんの熱いまなざしが印象的だった。

(シンガポール&ASEAN版編集・大友賢)


関連国・地域: タイマレーシアシンガポールインド日本米国中南米
関連業種: IT・通信社会・事件

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