• 印刷する

乗り合いバンを首都圏で拡大 新興クンプール、物価高で商機

新型コロナウイルスが収束に向かい経済活動が再開するマレーシアで、オンライン配車サービスの乗車料金が高騰し、社会問題となっている。そうした中、ジョホール州発の乗り合いバンサービス「クンプール」は、配車サービスの半額程度の料金を武器に首都圏でサービス拡大を目指す。公共交通機関と住宅地を結ぶ「ラストマイル」の移動手段として、物価上昇に悩む庶民の目を集めそうだ。【降旗愛子、Chong Charlotte】

クンプールのバン。運転手と車両は旅行代理店から派遣されており、代理店のロゴが見える=5月、スランゴール州(NNA撮影)

クンプールのバン。運転手と車両は旅行代理店から派遣されており、代理店のロゴが見える=5月、スランゴール州(NNA撮影)

クンプールは、ジョホール州最大のバス事業者コーズウエーリンクの完全子会社。2020年1月に地元ジョホールバルで乗り合いバンサービスを開始した。新型コロナの流行で人流に制限がかけられる時期があったものの順調に利用者を増やしており、アプリのダウンロード数は1万件を超えた。

クンプールの事業責任者、ゴー・チュンヘン氏は、感染症の流行で人々が公共交通機関の利用を回避する中でも利用者を増やした背景について、「パンデミック(世界的大流行)で失業や収入減に見舞われた人々は、安くて便利な移動手段を必要としている」と指摘する。

クンプールは、ちょうど路線バスと配車サービスの中間のような仕組みだ。1台当たりの営業エリアは最大10キロメートル圏内に設定し、200カ所程度の停車ポイントを設けている。利用者はアプリ上で乗降地点を指定し、バンを呼び出す。停車ポイントは約500メートル間隔で設定されており、高齢者でも利用がしやすい。料金は距離に応じて加算されるが、複数人で利用するほど安くなり、おおむね配車サービスの半額程度で利用できるという。

停車ポイントは主に公共交通機関の駅や商業施設、病院、住宅地などで、利用者からのフィードバックや独自調査に基づき、随時追加している。

■「ラストマイル」をつなぐ手段に

ジョホール州での反響を得て、同社は21年末に首都圏でサービスを開始した。スランゴール州スバンジャヤを皮切りに、今年4月にはプタリンジャヤにも拡大。現在、首都圏では合計10台のバンを運行している。営業時間は午前8時~午後8時で、1日当たり最大500人を輸送できる。

マレーシアの首都圏では近年、鉄道網の拡充が進む。一方で、熱帯かつクルマ社会のマレーシアでは徒歩での移動は難しいため、課題となるのが駅と住宅地の間の「ラストマイル」を埋めるサービスだ。路線バスは運行状況が一定せず、配車サービスやタクシーは経済再開後の人手不足から朝晩のピーク時を中心に運賃が高騰している。

こうした中で、物価上昇に悩む庶民の足としてのクンプールは、ラストマイルをつなぐ手段として当局や地元政治家の注目も集めている。マレーシア政府は近年、オンライン配車サービスの運転手にタクシーと同様の免許を義務付けたり、バイクタクシーの営業や電動キックスケーターなど小型モビリティーの公道走行を禁じるなど、公共交通分野への新規参入には厳しい姿勢で臨むことが多かった。ゴー氏は「政府は慎重なだけ」とし、当局も人々の暮らしを便利にする新規事業には好意的だと話す。現在、スバンジャヤとプタリンジャヤを地盤とする地元議員からの支援を得て、特別料金での乗車キャンペーンを実施中だ。

ゴー氏によると、現在首都圏で運行するバンや運転手は、旅行代理店から派遣されている。コロナ禍で旅行ツアーが激減したことを受け、運転手の雇用維持につながればとの考えからで、実際代理店からも好評を得ているという。

クンプールは、首都圏のほか全国の主要都市でのサービスを拡大し、2年以内の収益化を目指す。今後の事業拡大に向けて、旅行代理店だけでなくホテルの送迎バス、スクールバス、工場の従業員送迎バスなどからの運転手派遣も検討中だ。彼らは商用車の運転免許を所持し、身元は確か。旅客の扱いにも慣れているという強みがある。ただ、クンプールのようなアプリを使っての業務には慣れていないため、技術面での研修が今後の課題だ。「こうしたバスの運転手はたいてい本業の合間に空き時間がある。そうした隙間時間を活用することで、彼らの収入を増やす手助けをしたい」(ゴー氏)。

マレーシアでは、マハティール元首相の指導の下、1980年代に国民車メーカーのプロトン・ホールディングスが誕生。庶民でもマイカーを所有できるようになり急速にモータリゼーションが進んだため、他の東南アジア諸国のような乗り合いサービスが発達しなかったという背景がある。

しかし、近年、地球温暖化などが懸念される中、ゴー氏はマイカー主義に異議を唱える。スマートフォンの普及や新型コロナの流行で、見知らぬ人とちょっとした会話を交わすことも難しい世の中となったが、「クンプールによってコミュニティー間の交流を促進し、人々に“カンポン・スピリット”(共同体のつながり)を取り戻してもらいたい」と願っている。

クンプールによってコミュニティー間の交流を促進したいと語るゴー氏=5月、クアラルンプール(NNA撮影)

クンプールによってコミュニティー間の交流を促進したいと語るゴー氏=5月、クアラルンプール(NNA撮影)

※筆者による実際の乗車体験記はこちら

「首都圏バンサービス、使用には難も」<https://www.nna.jp/news/show/2342406


関連国・地域: マレーシア
関連業種: 自動車・二輪車運輸サービス観光マクロ・統計・その他経済社会・事件

その他記事

すべての文頭を開く

タイはミャンマーに関与を、ジャーナリスト(08/12)

ペナンLRT事業、入札書類の提出期限延長(10:40)

ハラル産業で日本の投資要請=貿易公社(10:39)

ハーゲンダッツのバニラアイスに回収命令(10:38)

GDP成長率、4~6月は8.9%(08:59)

【プロの眼】滞在先で紛争発生 命と安全どう守る(08/13)

喫煙規制法案が市場に困惑 急激な厳格化、密輸拡大に懸念も(08/12)

新規感染4896人、4日ぶり4千人超え(08/12)

すべての文頭を開く

※本コメント機能はFacebook Ireland Limitedによって提供されており、この機能によって生じた損害に対して株式会社NNAは一切の責任を負いません。

の記事は有料サービスご契約者様限定記事です。契約すると続きをお読みいただけます。契約されている方は、画面右側にある各種ログインからログインください。
無料トライアルはこちら
購読申し込みはこちら

NNAからのご案内

出版物

SNSアカウント

各種ログイン