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大型買収、今後も続く アサヒグループHD、CEOインタビュー

オーストラリアで2019年に160億豪ドル(約1兆2,096億円、当時)に上る巨額買収を成功させたアサヒグループホールディングス(HD)。これによりオーストラリアのビール市場で同社は、約50%のトップシェアを握ることになった。欧州でも企業買収を進め、国内外で持続的な成長基盤を整えた同社。「M&A(合併・買収)を成功させる経験値を高めた」と語る勝木敦志代表取締役社長兼CEOに、企業買収の極意とオセアニア市場の今後の戦略を聞いた。【オセアニア農業食品専門誌ウェルス編集部】

――2021年第3四半期決算(2021年1~9月)で、オセアニア事業の事業利益は前年比285%増と好調でした。グループにとってオセアニア市場の位置づけは?

非常に重要な市場だと考えています。2019年7月にアンハイザー・ブッシュ・インベブ(ABI)がオーストラリアで保有する全事業(カールトン&ユナイテッド・ブリュワリーズ=CUB)の買収に合意し、20年6月に買収を完了しました。21年のオセアニア事業の売上収益は4,948億円で、事業利益は825億円を見込んでいますが、買収前の売り上げ規模は2,000億円、事業利益が150億円の水準でしたので、飛躍的な成長を遂げたと言えます。また、グループの今期の売り上げ予想が2兆2,460億円の中、オセアニアの占める割合はほぼ2割強。さらに全体の利益が2,140億円で、オセアニアがほぼ4割近い利益を上げるまでに拡大しました。これを見てもオセアニアは今後も当然、注力する市場ですね。

また、地域本部制を採用し、日本、欧州、オセアニアと東南アジアの4カ所を核として成長を目指しています。その一つとしての重要な位置づけです。

――CUB買収の効果は想定通りでしたか?

いや、ある意味想定を超えましたね。2016/17年に欧州で買収したビール事業も成長を遂げ、成功したと思いますが、今までの買収の成功は、09年のシュウェップス・オーストラリアの買収経験によって培われたと考えています。というのも、この買収でわれわれのM&Aに対する経験値が高まったからです。英国の名門に連なる企業を東洋人が買収した訳ですが、当初のPMI(M&A後の統合)プロセスでは相手にされず、「日本人にマネジメントできるのか」などと言われたこともありました。先方には意地も少なからずあったと思いますし、確かに先方には経験や能力があり、実際にわれわれも、英国流の内部統制や管理方法、マーケティングなどに学ぶべき部分は数多くあると認識していました。

しかし一方で、こちらの技術面での優位性や、確固とした経営思想を先方に理解してもらうことが重要でした。相互の理解を進めることは、強い信頼関係の構築につながります。また、当時欧米のM&A市場では買収された側のマネジメント層や従業員に、「またいつオーナーチェンジが起きるか分からない」という不安が広がり、モチベーションが下がるという現象が発生していました。この点についてわれわれは「他社とは違い、長期的な視野で経営する」と表明し、信頼を得ていきました。実際、当初業績が苦しかったこともあったのですが設備投資を推し進めましたし、異文化を理解しようという双方の努力も大きかったですね。

異文化を理解する、長期的な視野で経営する、必要な投資を行う、という姿勢を見せたことで現地のモチベーションが上がりました。現地のモチベーションの上昇は、企業買収を成功に導く1丁目1番地というべき、非常に重要なことだと考えています。

CUBに関しては、買収手続きは豪自由競争・消費者委員会(ACCC)の承認がなかなか下りませんでした。合意から完了まで約11カ月かかりましたが、かえってその間に準備ができ、スムーズにPMIに突入できたという側面があります。買収完了100日目となる10月には組織の統合やシナジー計画も完成し、実際に年内にシナジーも出始めるという、想定以上のスピード感のある結果が出ました。マーケットでも、シェアが上昇しブランドがさらに強化されました。

CUBの買収に関するビジネスはうまく回り始めています。オーストラリア政府や社会が新型コロナウイルスの流行にうまく対応したこともあるかと思いますが、コロナ下でも市場は成長しており、オセアニア市場には非常に勇気づけられています。年間計画でもビールの販売数量は増加する見込みですし、オンプレミス(業務用)も戻りつつあるという状況です。

――CUBの買収に当たり、複数の飲料ブランドを手放しました。

豪当局(ACCC)との会話の中で、われわれとしてもいくつかのブランドを手放すことで、買収の承認が得られるだろうという感触を得ていました。実際にビール市場では、われわれのシェアは4%ほどで、CUBが45%程度です。買収による増加分は少なく、市場占有度を示すハーフィンダール・ハーシュマン指数(HHI)を考慮しても、問題視される可能性は低いだろうという予想でした。しかしインターナショナルプレミアムビールのカテゴリーでは、「コロナ」と「スーパードライ」「ペローニ」という、オーストラリア市場の1位から3位のブランドがそろいます。また、そのほかに問題となっていたのはサイダー(リンゴ酒)でした。買収後のマーケットシェアが7割に上るので、さすがに難しいかなと思っていました。そのため、「ストロングボウ」など、その後も注力する可能性の低いブランドを切り離すという判断をし、当局の了解が得られたといういきさつです。

――かつて、ニュージーランド(NZ)の飲料メーカーの買収に際し、事前の情報が誤っていたとして売り主のオーストラリアの投資会社PEPとユニタス・キャピタルに対し賠償金を求める訴訟を起こしました。

最初に不審に思ったのは2011年9月30日の買収のクロージングの直後でした。メルボルン、ラバトンの工場に積まれた商品に「売り上げ済み。手を触れるな」という表示があるのを見た時です。売り上げ済みなら相手先に渡っているはず。これはおかしい、と危険信号が頭の中で鳴りました。その後、財務諸表の付け合わせ作業の段階で、事前の情報と整合性のない点が見つかりました。バランスシート上で本来は営業費用として計上すべき内容を繰り延べ資産として処理し、少しずつ償却するなど、当面の利益はかさ上げされる形を作ったり、先ほどのような架空の売り上げを立てたりしていました。そもそも投資会社はファンディングの部分を一切開示しません。これは業界では一般的ですが、開示しない部分に多くのコストが計上されていました。投資会社の関係者が刑務所に行く可能性もあるほど悪質だ、という話もありましたね。

裁判の準備の段階で、不正確な情報によるこちらの払いすぎと思われる額が膨らみました。訴訟を起こしてから1年9カ月、和解金額は損害賠償請求額を下回りましたが、最終的に2億2,000万NZドル(現在のレートで約170億円)という、企業訴訟では当時のオーストラリアの最高額で決着に至りました。ちょうど施行された直後のオーストラリア消費者保護法の企業への適用第1号でしたね。

――今後のオーストラリア市場での展開計画を教えてください。

オーストラリアのビール市場については、1980年頃をピークにボリュームはゆるやかに減っている状況です。国民1人当たりの消費量でみると大きく減少しています。

われわれは、ボリュームを追求することには意義を感じていません。日本でもそうですが、われわれが行いたいのは、プレミアム化を中心とした収益向上です。「レベニュー・グロース・マネジメント(収益成長管理)」と呼んでいますが、例えばメインストリームで売っているブランド「カールトン」を、プレミアム帯に持ち上げる、あるいはメインストリームでも高い価格帯の「グレートノーザン」にシフトしていく、といったような、プレミアム化と商品ミックスによるマージン向上を目指したいと思います。

さらに、パックフォーマットの改善も重要です。オフプレミス(小売り)からオンプレミスへの移行で利益率は上昇します。またプロモーションの最適化や、流通業界との信頼関係によりますが、流通のマージンを改善し、両者でウィンウィンの関係を構築したいですね。これらはこれまでも実行し、そして今後も継続します。また、その中で期待しているのは、グローバルブランドと呼ぶ「スーパードライ」や「ペローニ」です。オーストラリアで最も高価格帯のビールで、ここを伸ばしていきたいと考えています。

また、クラフトビールですね。オーストラリアではクーパーズのシェアが約28%で、ライオンが24%、私どもが16%です。大手が出している商品をクラフトビールと呼ぶのかという声もありますが、ブランドの個性を楽しむお客様は一定数いらっしゃいます。そういう顧客に対するオファーは強化していきたいと考えています。クラフトビールは単価が高く、収益の向上に資するという考え方がもう一つです。

完全にボリュームを追いかけないという訳ではないですが、ボリュームの成長に頼らずに収益の向上を図っていきたいと考えています。

――オーストラリア市場で日系のビールブランドの参入が相次いでいます。

「スーパードライ」は市場のインターナショナルビールのカテゴリーで第2位につけ、昨年も2割近い成長をしています。この位置づけは、われわれがこれまで10年にわたり払った努力と投資によるものです。オーストラリアで各日系ブランドが展開を行っていますが、われわれとしては受けて立ちますし、「スーパードライ」がこれまで築いてきたハイエンドでプレミアム、クールで高品質、そしてスタイリッシュなイメージというのは、そう簡単には崩されないと自信を持っています。また、「ペローニ」も同様の評価を得ていますので、「コロナ」と合わせて、お店のハイエンドなカテゴリーを確実につかんでいると考えています。

――ビール以外の新たな飲料の展開は?

新たな飲料カテゴリーについては、現状はまだら模様と言えるかと思いますが、世界的に伸長するというのは間違いないと思います。RTD(すぐに飲める飲料、Ready To Drink)は、オーストラリアでは歴史的にも大きな部分を占めていて、新型コロナにより外でカクテルなどを飲めない消費者が家庭で飲むという背景もあり、大きく拡大しました。私どものライトRTD「ウオッカ・クルーザー」が市場シェア1位を争っています。コロナの規制緩和が進むにつれ、その需要がオンプレミスに移行すると想定されますので、力を入れたいと考えています。

ハードセルツァーについては、キリンさんが扱う「ホワイトクロー」など、オーストラリアでもさまざま商品が出ています。われわれも多種類の商品を出していますが、まだまだボリュームが小さく、そうこうしている内に米国のブームが終わりつつあるという状況です。そのため今度どのような展開を図るか市場の動きを見ているところです。

また、実際のところ、ハードセルツァーは米国でも最初は健康的なイメージで伸びてきたという部分はありますが、今や一般的なRTDと製法や中身が変わらなくなっているので、その側面からも新たな何かを付加しない限り、オーストラリアで伸びていく状況にはならないのではと考えています。

一方でノンアルコールビール。これは世界的にもチェコ、スペイン、ドイツではビールのトータルシェアの10%を超えるまでに成長しました。健康志向の日本でもビール全体の4%程度のシェアを占めています。健康志向の高まりやウェルビーイングに対する消費者の需要が強まり、今後伸びていくと思います。

実際にオーストラリアでは現状、1%の構成比しか占めておらず、「アルコールの入っていないビールなんて飲めるか」と言う人も多いという事実はあります。ただし、市場は確実に伸びており、われわれは「カールトン・ゼロ」をはじめ、ラインアップを整えています。「ペローニ・リベラ・0.0%」が自動車レースF1のアストンマーチンのスポンサーシップをしており、モータースポーツの盛んなオーストラリアですから、期待しています。

このカテゴリーは今後、消費者の認知も上がり、1%程度にとどまっているようなカテゴリーではないと考えています。

――新型コロナウイルスの影響は?

コロナについては工場で感染者が出て、非常にわずかですが市場への供給不足が発生したことはあります。それよりも大きいのは物流の混乱です。コンテナやパレットが足りない、海上運賃も上がる、世界的な物流の片寄りが発生する、といったさまざまな問題が発生し、実際に大きな影響を受けています。ただし、事業の根幹を揺るがしたり、操業への影響が出たりはしていません。今後緩和していく状況とは思っていますが、一つのリスクであって、ダメージは出ているけれども深刻ではない、といった状況です。

それより世界的な原材料の高騰は影響が大きいですね。現時点でこれは収束するのか、するならいつなのかが見えません。影響は全産業にかかわっているとは思いますが、農産物やアルミなどが値上がりし、この状況をどうマネージしていくのか経営手腕が問われるところだと考えます。

オーストラリア国内では原料の麦芽の90%を農家から直接調達しています。輸送のコストを下げ、価格も国際相場に引きずられることもなく、さらに品質管理、トレーサビリティ(追跡可能性)を保つことができる良い仕組みだと考えています。イタリアやチェコの一部でも原料の直接調達を行っていますが、90%もの割合ではありません。各地域の産業との関係や歴史的な経緯があるので世界的な導入には難しい面がありますが、われわれがグローバル化している目的の一つは、各市場のベストプラクティスを共有し、収益や品質の向上を目指すことですから、今後展開できるものは展開するという流れになると思います。

――オーストラリア駐在のご経験がありますが、グループ全体の経営に役立っていますか?

それはもちろんです。一つは、合理的な判断をするという習慣が身に付きました。日本の丁寧に時間をかけた意思決定も悪くはないですが、非効率であることは否めないですし、低成長の一つの原因であるのは、多くの方が言っている通りだと思います。オーストラリアは意思決定時に物差しを明確にして素早く決定し、すぐに行動に移ります。アサヒグループとしても合理的な意思決定の仕組みを持ち込んでいきたいと思っています。

また、現在日本でもエンタプライズ・リスクマネジメント(全社的リスク管理)という手法を導入していますが、これはオーストラリアで私が社外役員などの助言を得て入れたシステムを、日本に持ち込んだものです。全社のリスク総量を管理・低減し自信をもって事業運営に当たることができる仕組みです。経営の透明性、適切性、迅速性を高めることに関しオーストラリア法人の経営が役に立っています。また、履歴書に年齢も性別も記載せず、写真も貼らないオーストラリアで、ダイバーシティーをはじめとする多様性、人権尊重の仕組みを学ぶことができたと思います。

私がオーストラリアのCEOとして赴任した時には経営経験もありませんでしたし、アサヒとしても初の本格的海外企業の経営でした。現地の法律事務所や監査法人などにアドバイスを求めたところ、規模のある消費財企業は透明性が重要だと強調されました。オーストラリアでは上場していませんが、上場企業並みのガバナンスを整え、外部の目による監督や助言が経営に及ぶ仕組みを作りました。日本人が役員を占めることはせず、現地企業や現地の人が経営に参画する仕組みが、先ほどお話しした信頼関係の構築や、現地のモチベーション向上につながったのだと思います。

――CUB買収でM&Aは一段落でしょうか。

オセアニア市場に関しては競争法の関係で、今後ビール関係の大規模な買収は難しいでしょう。しかし昨年、われわれのマルチビバレッジ戦略で欠けていたコーヒー企業オールプレスを買収したような形の買収は続けます。

またグループ全体としては、CUBの買収によって負債が1兆円を超える規模になりましたので、まずはこれを適切な状態に戻すことを優先します。2024年頃にバランスシートを最適な姿に戻す計画をしていますので、それ以降は大型の買収を含め、積極的に仕掛けていきたいと考えています。ユニリーバの紅茶事業ですか? それは兵たんを伸ばし過ぎるような気がしますね(笑)。

――今後アルコールに代わるもの、飲料に代わるものの展開は検討されていますか?

「アダルトソフトドリンク」と呼んでいる、酒類と飲料のはざまにあるカテゴリーは、今後の強化領域だと考えています。例としてはコンブチャのような、アダルトが飲むプレミアムな価格帯で、健康にも良く、場合によってはお酒のような飲み方もできる、というものです。

また、人々にウェルビーイングを与えるものはお酒や飲料でなくても構わないという発想もありますね。そういった商品やサービスは、当然われわれが手掛けてしかるべきだと考えており、その研究開発は続けています。(聞き手=湖城修一)

2024年以降に大規模買収を仕掛けると勝木CEO

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関連国・地域: オーストラリア日本
関連業種: 食品・飲料農林・水産運輸

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