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【アジアSNS・リスクウオッチ】千年に一度の豪雨も 水害多発どう備える

第2回

アジアにおいて水害が多発しています。中国では気象局が「1,000年に一度」とする大雨が中部の河南省を中心に降り、洪水によって膨大な被害が出ています。その他にも、インドやパキスタンの特に北部ヒマラヤに近い地域、ミャンマー、フィリピン、タイ、インドネシア、ラオス、スリランカなどでも水害が起き、バングラデシュではロヒンギャ族の難民キャンプも水につかってしまいました。

洪水の被害を受けた地域で救助活動が実施された=7月24日、インド西部マハラシュトラ州(PTI)

洪水の被害を受けた地域で救助活動が実施された=7月24日、インド西部マハラシュトラ州(PTI)

日本では災害の多発化・激甚化を指摘する声が大きくなっていますが、アジアでも同様の傾向が見られます。これは昨今、グローバル社会で大きな課題となっている「地球温暖化による気候変動」の影響が大きいとされています。二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの排出量が増えたことで、地球の表面から宇宙に放出されるはずだった熱がとどめられてしまい、気温が上昇しているのです。

温暖化については人間の活動が原因なのか、それとも自然の周期によるものなのかという議論が以前はありましたが、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は今年8月9日に発表した最新の報告書(第6次報告書)で、人間の活動が温暖化の原因になっていることに「Unequivocal(疑う余地がない)」と結論づけています。

中国・河南省、鄭州市の洪水をドローンから撮影したもの(スペクティ提供)

中国・河南省、鄭州市の洪水をドローンから撮影したもの(スペクティ提供)

https://twitter.com/i/status/1418405539340595203

中国・河南省、衛輝市の水害で、水が引いた後の街の状況(スペクティ提供)

中国・河南省、衛輝市の水害で、水が引いた後の街の状況(スペクティ提供)

https://twitter.com/i/status/1421687485239742464

■気候の経済的な影響、アジアで特に大きい

世界的なコンサルティング会社である米マッキンゼー・アンド・カンパニーのシンクタンク部門「マッキンゼー・グローバル・インスティテュート」が、昨年11月に発表した『Climate risk and response in Asia (アジアにおける気候リスクと対応)』というレポートでは、このまま対策をなさずにいた場合、2050年時点でどのような影響が出るかをシミュレーションしています。これによると、世界的に見てアジアにおける影響が圧倒的に大きいとされます。

同レポートのデータを基に作成した下のグラフでも、気候変動は世界のその他の地域よりもアジアに対してより大きなインパクトをもたらすことが分かります。50年までに「致命的な熱波」にさらされる人は、アジアにおいて6億人から10億人と見積もられています。世界全体では7 億人から12億人としているので、その大部分をアジアが占めるといえます。

また、熱波と高湿度のため屋外での労働ができなくなることによる経済損失は、50年までに年間2兆8,000億~4兆7,000億米ドル(約306兆~と514兆円)と試算。アジアが世界全体の損失の3分の2を占めます。さらに、アジアでの河川の氾濫によって50年までに損なわれる資産は1兆2,000億米ドルと、これは世界全体の75%を占めます。

なぜ、アジアへの影響が大きいのでしょうか。その理由としては、そもそも抱える人口が非常に大きいことに加えて過酷な自然環境のエリアが多いことが挙げられます。また、基礎的なインフラがまだまだ整っていない途上国が多くあることなどが考えられます。

水害について言えば、影響を受けやすい河口付近のデルタ地帯に大都市が形成されていることも大きな要因でしょう(タイのバンコク、インドのコルカタ、バングラデシュのダッカなど)。また、長江や黄河をはじめとして多くの川が流れる中国でも、ダムや堤防という治水対策を施すも追いついておらず、洪水が頻発しています。中国のSNSは統制されて日本からのアクセスはできませんが、大きな災害の場合はツイッターやTikTok(ティックトック)といったSNSを通じていくらかの情報が流れてきます。

インドネシア・西ジャワ州のバンドンで川のようになった道をバイクが走っている(スペクティ提供)

インドネシア・西ジャワ州のバンドンで川のようになった道をバイクが走っている(スペクティ提供)

https://twitter.com/i/status/1406966874236096519

■経営が講じるべき、5つの災害対応策

(1)リスクを分析する

最初に、どこにどのようなリスクがあるのかを評価し、理解しなければ適切な策を講じることはできません。これまでの延長線上で考えることはできません。マインドセット(思考パターン)を新たにし、組織としての能力を冷静に見極めた上で、最新の気候リスク評価モデルを使ってリスクを分析する必要があります。

(2)人々と資産を守る

分析したリスクに応じて、人々や物理的な資産を気候変動から守るため、インフラを補強したり、防護のために新たなハードウエアを設置したりすることが求められます。

(3)レジリエンスを高める

一極集中しているものを分散させたり、リソースを多様化させることでコミュニティーのレジリエンス(弾力、復元力、しなやかな強さ)を高めることも大切です。中国の雲南省や広西チワン族自治区では、発展とともに頻繁に干ばつに襲われるようになったことを受け、新たに干ばつに強い種の農作物を導入することでレジリエンスを高めました。

(4)リスクにさらされることを減らす

「リスクにさらされることを減らす」ことも大切です。例を挙げると、インドネシア政府は19年に、湿地で海抜ゼロメートルの地域も多いジャカルタからカリマンタン島に首都を移す決断をしました。このように、リスクへの露出自体を避けることも有効な方策です。

(5)財務的手当てと保険

気候変動リスクに対応するためには、アジア開発銀行(ADB)の試算によると30年までにアジアで毎年400億米ドルの投資が必要です。国や地方自治体による投資だけなく、行政と民間企業が協調することや、民間企業による投資を促すような政策の導入が求められます。また、保険による手当も重要です。アジアにおける経済協力開発機構(OECD)の加盟4カ国中、3カ国および全ての未加盟国は、OECD諸国の平均的な保険準備レベルに達していません。

アジアは先進国から途上国まで幅広い国々を擁し、今後も世界経済の成長エンジンとして期待される地域です。日本としても人口減による内需の縮小が起こるのは間違いない中で、急速に人口が増加し、発展を遂げるであろうアジア諸国の経済を取り込んでいくことが重要です。気候変動による社会へのインパクトは非常に大きいという課題意識を共有し、国際協調の下でドラスティックな対策を取っていくことが必要ではないでしょうか。

また一方で、個人個人が日常生活の中で災害に遭わないことも非常に大切です。テレビや新聞といったオールドメディアは、速報性という面では劣ります。現場の状況がリアルタイムにわかるSNSは、使いこなせれば大きな武器になると思われます。

以下に、世界およびアジアのリスク情報を配信しているツイッターのアカウントを3つご紹介しますが、各国には現地の言葉で災害について情報提供を行っているアカウントもあると思いますので、探してフォローしておくことをお勧めします。

フィリピン・ミンダナオ島で避難する住民(スペクティ提供)

フィリピン・ミンダナオ島で避難する住民(スペクティ提供)

https://twitter.com/i/status/1399710940786880516

■アジアの洪水リスクを発信しているツイッターなど(※リンクあり)

GardaWorld Crisis24

□カナダ拠点のセキュリティ企業GardaWorldが運営。グローバルなリスク情報を発信している

https://twitter.com/GardaWorldC24

□Emergency and Disaster Information Service (EDIS)

ハンガリー政府が運営する緊急情報サービスEDISのアカウント。災害や大規模な事件に関するアラートを発信している

https://twitter.com/RSOE_EDIS

□Terror Alarm

民間のジャーナリストや活動家のグループが運営。テロ情報に特化した緊急情報を配信

https://twitter.com/terror_alarm

□『Climate risk and response in Asia』(マッキンゼー・グローバル・インスティテュート)

https://www.mckinsey.com/business-functions/sustainability/our-insights/climate-risk-and-response-in-asia

□IPCC 第6次報告書

https://www.ipcc.ch/report/ar6/wg1/downloads/report/IPCC_AR6_WGI_SPM.pdf

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根来諭(ねごろ・さとし)

株式会社Spectee(スペクティ)取締役COO兼海外事業責任者。ソニーで日本、フランス、シンガポール、アラブ首長国連邦での事業管理とセールス&マーケティングに従事。中近東アフリカ75カ国におけるレコーディングメディア&エナジービジネスの事業責任者を経て2019年、スペクティ参画。福島県郡山市での東日本大震災の被災、パリ駐在時の同時多発テロ、危険度の高い国への多くの出張などの実体験を生かし、防災・危機管理の世界をテクノロジーで進化させることにまい進している。

<Spectee>

リアルタイム防災・危機管理情報ソリューション「Spectee Pro(スペクティプロ)」を提供。人工知能(AI)などの最先端技術を活用してSNS・気象データ・交通情報などのビッグデータを解析し、災害・事件・事故など危機管理に関する情報を数多くの自治体や民間企業に配信している。「危機」を可視化することで、全ての人が安全で豊かな生活を送れる社会の創造を目指している。

※特集「アジアSNS・リスクウオッチ」は、アジア経済を観るNNAのフリー媒体「NNAカンパサール」2021年9月号<https://www.nna.jp/nnakanpasar/>から転載しています。


関連国・地域: タイインド日本バングラデシュ
関連業種: メディア・娯楽マクロ・統計・その他経済社会・事件

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