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【有為転変】第164回 オーストラリアの危機感(中)

ある国は、毎年35万人都市が一つずつできる。一方で別のある国は、毎年35万人都市が一つずつ消えていく――。オーストラリアと日本のことである。オーストラリアに進出する企業が挙げる主な理由の一つは「先進国でこれだけ安定的に人口が増え続ける国はない」というものだ。逆に言えば、35万人都市が毎年一つずつ消えて行く国に、その市場を狙って新たに投資したいと思う外資企業はあるだろうか。

■危機感を抱かない日本

先週(第163回「オーストラリアの危機感(上)」)、オーストラリアの少子・高齢化の見通しを説明したが、今度は2060年時点での“日本のケース”を、内閣府が先に発表した「高齢社会白書(令和3年版)」や総務省の調査を基に掘り下げてみたい。

◆2060年時点の日本人男性の平均寿命は84.7歳で、20年時点の81.3歳から3.4歳延びる見通し。女性は同91.1歳と、ついに90歳の大台を超え、20年の87.6歳から3.5歳延びる見通しだ(日本人男性の寿命はオーストラリア人男性と今年時点でほぼ同じだったが、60年時点では完全に抜かれることになる)。

◆60年には日本の人口は9,284万人と、20年時点の1億2,400万人から約26%(!)も減少する見込み(オーストラリアは20年の2,569万人から、逆に60年には51%も増加する見込み)。日本の人口は2009年をピークに12年連続で減少中だ。

◆日本の現在の生産年齢人口(15~64歳)は7,449万人と、ついに7,500万人を割り込んだ。一方で、65歳以上の高齢者人口は3,619万人。つまり、高齢者1人を養う生産年齢人口はたった2人しかいない(オーストラリアは4人)。これが60年には、さらに1.4人にまで減ることになる。

◆日本人女性が生涯に産む子供の数を示した「合計特殊出生率」は、2020年時点で1.34まで下がっており、下落傾向は止まらない(オーストラリアは1.58)。20年の日本人の出生者は、調査を開始した79年以降で最少の約84万3,000人だった。

以上を見ても、日本はオーストラリアと比べ、はるかに危機的状況であることが分かる。

しかし、オーストラリアは「人口増加ペースの鈍化」が国家存亡に関わるという危機感を抱いているというのに、日本は「人口激減ペースの継続」でも、何も手を打っていないどころか、国会で危機感を叫ぶ声は聞こえてこないのはどういうわけだろう。

さらにオーストラリアは何年も前から「海外移民の受け入れ」という策を持つ。日本はそれさえ、二の足を踏んでいる。

■移民受け入れの4つの視点

オーストラリアの今後の移民策については、前回紹介した世代間報告書(IGR)で対策が詳述されている。

過去10年間で、オーストラリアの人口増加のうち、海外移民が占める割合は60%だったが、今後40年間で74%まで上昇すると見込まれる。移民を受け入れることが、オーストラリア社会にとって今後ますます重要な下支え要因になるためだ。

IGRはそこで、移民を無作為に受け入れるのではなく、戦略的に受け入れる重要性を訴えている。

まず、最大に考慮しなければならないのが、移民を受け入れることが、経済成長にいかに恩恵をもたらすかという点である。そのために4つの視点があるという。それは、

◆移民の受け入れ数

◆移民のタイプ(職業・年齢・出身国)

◆移民が当初居住する国内地域

◆移民を受け入れるプロセス(一時居住権から永住権、永住権から国籍取得)――の4つである。

これらを戦略的に組み込むことで、少子・高齢化に向かう傾向を和らげる効果が期待できる。

例えばIGRによると、オーストラリアの生産年齢人口の割合は65%だが、移民に限ると83%に跳ね上がる。そのうち35歳未満の割合は現在は46%だが、移民に限ると82%とほぼ倍になる。国家が老化するのを移民によって人為的にくいとどめている形だ。

また移民を当初過疎地域に配分することで、地方の過疎化を食い止めることができる。さらにオーストラリア政府は、人種問題で国が分断危機に直面してきた米国を教訓に、これまで特に黒人の移民を制限してきたとの見方もある。

要するに移民を「戦略的に」受け入れるということは、経済成長や国民の年齢水準だけでなく、人種構成までも、コントロールできるということだ。

オーストラリアがこれだけ戦略的に動いているのに、オーストラリアよりはるかに深刻な事態にある日本がどこ吹く風に見えるのは、霞が関や政府によるある考えのためだろうと筆者は勘ぐっている。(来週13日付に続く)【NNA豪州・西原哲也】


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関連業種: 社会・事件

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