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【有為転変】第163回 オーストラリアの危機感(上)

オーストラリア連邦政府が6月末に、今後40年間に国内人口がどう推移するかを見通した「世代間報告書(IGR)」を発表した。これは、人口動静による国内経済や財政への長期的影響を予測したもので、5年ごとに行っている。政府は毎年これを基に新年度財政予算の支出項目を決めており、非常に重要な報告書とされる。報告書で特筆されているのは、オーストラリアの人口増加ペースが今後緩むことに対する危機感である。そのことは、日本政府が長年軽視し、自分の首を真綿で絞め続けていることでもあるので詳しく紹介したい。

この報告書を読むと、オーストラリアが今後40年間に、少子・高齢化に向かっていく様子が浮き彫りになる。いくつかを挙げてみよう。

◆2060年にオーストラリアで生まれた男性の平均寿命は86.8歳で、21年現在の81.4歳から5.4歳も延びる見通し。女性は同89.3歳と、同85.4歳から3.9歳延びる。女性の平均寿命は90歳目前となり、ますます高齢化社会に向かう。

◆30年前は、65歳以上の高齢者1人当たりに労働年齢人口は6.6人いたが、現在はそれが4人に減っている。より少ない労働人口で高齢者を支えなければならなくなる。

◆1人当たりに費やす保健医療費は、インフレ率を勘案すると今後40年間に2倍以上に膨れ上がる見込み。

◆オーストラリア人女性が生涯に産む子供の数を示した出生率は、2015年までは平均約1.9を維持してきたが、現在は1.58まで低下した。2031年までにやや盛り返すとされるものの、1.62程度にとどまるとみられている。人口を維持するための出生率は2.1である。

◆2060年までにオーストラリアの人口は3,880万人になる見込み。前回の報告書(2015年)では、54年までに4,000万人に達すると予測していたので、人口増加ペースをかなり下方修正したことになる。

■フライデンバーグ財相の警鐘

IGRが人口増加割合を下方修正したのは初めてで、これは女性の出生率が低下している上に、大幅な経済成長が見込めない状況にあるためだ。さらに、新型コロナウイルス対策で、海外からの移民数を削減せざるを得ないことも考慮したという。

また、2015年当時の報告書では、連邦政府の財政黒字は2030年より前に達成できると見込んでいたが、今回新たに修正を迫られ、昨年からのコロナ対策としての膨大な支出で、2024年には対国内総生産(GDP)比の債務割合が40.9%まで拡大するとしている。少なくとも今後40年間は財政赤字は続くことになる。

その結果、オーストラリアの経済成長率は年平均2.6%に縮小する見込みだ。

この報告書を受けて、フライデンバーグ財務相がオーストラリアン紙(6月28日付)に見解を寄せている。それが警鐘的なので、一部を紹介しておこう。

「報告書が指摘していることは明確です。我々の社会は人口が伸び悩み、高齢化し、債務が増えていくということです。連邦政府の債務水準はまだ支えられる水準にあるのは確かですが、依然として規律ある財政支出が求められます」

「我々が長寿になるのは喜ばしいことではありますが、経済や財政の観点からすると、それは甚大な影響をもたらします。保健医療や、高齢者介護への支出が飛躍的に増え、さらに労働人口が減少していくことは、歳入と歳出の両方に多大な圧力をかけるからです」

■3つ目の選択

人口が伸び悩む中で財政を立て直す場合、増税するか、緊縮財政とするか、景気が拡大して経済規模を大きくするか、しかない。

前者の2つはもろ刃の剣で逆効果になるリスクがあり、現実的に困難な選択だ。そのため事実上、3つ目の経済規模を大きくし、生産性を高める選択しかない。

そのためにオーストラリアが取ってきたのは移民政策で、毎年約20万人を受け入れてきた。

フライデンバーグ財相は今回「現在よりもさらにターゲットを絞り、専門職にフォーカスした」移民政策を導入していく方針を示している。もしも2030年に人口が100万人減少した場合、1,170億豪ドル(約9兆5,000億円)の経済損失につながるとの試算もあるほどだ。

オーストラリア政府は否が応でも、人口が予想以上に増えないということが、国家の存亡に関わると認識しているということである。

さて、ここで疑問が浮かぶのは、オーストラリアが危機感を抱いている一方で、オーストラリアよりもはるかに少子・高齢化が進行している日本は、なぜ何も手を打たないのだろうということだ。(来週に続く)【NNA豪州・西原哲也】


関連国・地域: オーストラリア日本
関連業種: 社会・事件

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