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【有為転変】第161回 繁栄する豪州、衰退する日本(下)

まず、オーストラリアと日本の国内総生産(GDP)総額の近年の推移を見てみよう。世界銀行の統計によると、昨年のオーストラリアの名目GDPは1兆9,680億豪ドル(約166兆円)。これは23年前の1997年時から約3.5倍に拡大している。一方、日本のGDPは約539兆円と、同じ97年の約543兆円から、逆に減っている。23年もたっているのに、全く経済が成長していないことが分かる。これが、世界から「日本の失われた20年」と言われるゆえんだ。日本はいったい何が問題だったのだろうか。

興味深いことに、両国の個人消費の対GDP割合は、オーストラリアが昨年第4四半期時点で約53%で、日本も53%と全く同じだ。日本は、輸出が大黒柱の国だと思われがちだが、オーストラリアと同じく、GDPを支えているのは最終的な個人消費である。

だからこそ、パンデミック(世界的大流行)のような経済危機に見舞われた際には、都市をロックダウン(封鎖)しても、個人消費だけは落ち込ませない政策が必須になる。オーストラリア政府がGDPの13%という巨額を投じて、給与補助制度「ジョブキーパー」などで国民に軍資金を直接配布したのはそのためだ。

ところが日本は対照的に、国民に対して、「効果的な」コロナ対策を打ち出さなかった。260億円(当初計画は466億円)も費やしたアベノマスクなどは、まるで非文明国の政策のようだった。

振り返るとこの二十数年間、日本政府はなぜか、国民の消費力を衰弱させるようなことをしてきた。近年ではその最たるものが、19年10月の消費税率引き上げだろう。

そもそも消費税が89年に導入されてから、消費税収は約5倍に増えたが、法人税収は半分に減っている。要するに、法人税の減収分を一般消費者が埋め合わせてきた形だ。

19年7月に、筆者は当欄で、消費税率引き上げは理解しがたいという記事を書いた(第133回「世界の減税、日本の増税」)。世界各国が減税して景気を底上げしようとしているのに、日本だけは、国民の消費減退を気にもせずに税率引き上げを断行した。軽減税率を適用された大新聞も賛同していた。しかしこれは明らかに、弱くなったたき火に水を浴びせるようなものだった。

当時の自民党の岸田文雄政調会長は「リーマンショック級の出来事が起こらない限り実施する」と明言していた。そして実際に税率を引き上げてから、わずか2カ月後に新型コロナが発生し、世界は大混乱に陥った。

リーマンショック級どころか、その数倍のインパクトがある大惨事だというのに、日本政府は方向転換もせず傍観したままだ。一部の与野党議員が税率を8%に戻すよう主張していたが、それもしぼんでしまった。

■日本の消費力を下げ続けた政府

実際の賃金から物価変動を差し引いた「実質賃金指数」の国際比較を見ると分かりやすい。

97年を100とした場合、オーストラリアは2020年に140.7と、他国と同様に大幅上昇しているのに、日本は88.7と逆に10%以上も下がっている。

実質賃金は、国民の消費力そのものである。物価が上昇しても、実質賃金さえ伸びていれば、生活水準が落ち込むことはない。しかし、これが下がるということは、当然ながら物やサービスの消費が減り、メーカーの生産高や小売企業の売り上げが落ち込み、輸入も減少し、さまざまな分野が弱体化し続けることになる。日本政府はこれを、20年以上も放置してきたのだ。

こうした状況の先に懸念されるのは、資産デフレが進行し、不動産などが海外に買われやすくなることがある。さらに、日本の優秀な若い技術者が、日本よりはるかに賃金水準が高い諸外国に流出する傾向も現実に起きつつある。

社会的に弱い立場というと、日本ではひとり親世帯が挙げられる。だがオーストラリアではコロナ下で、毎月のひとり親に対する生活保護補助金に「加えて」、追加支援金として隔週で150豪ドルを給付していた。筆者のシングルマザーの知人は、申請もしていないのに自動的に口座に振り込まれたと感心していたほどだ。

日本では先日、生活困窮者のための一時支援金の追加が発表されたが、それも生活保護受給者は「除外する」など、さまざまな条件が課せられる。生活保護の申請さえ、役所の窓口で「まだ自分で働けるだろう」「頼れる親類はいないのか」などと詰問されて、できる限り振り落とされるらしい。

■両国の違いの背後には

日豪両国で、この違いの背後に何があるのだろうか。

少なくとも言えるのは、日本の与党政治家や霞ケ関が、大企業ばかりに目を向け、羊のように従順な国民には寄り添わないからだろう。その姿勢が、明らかに日本の予算や政策に表れている。

オーストラリアでは毎年、新年度予算の中身は国民にじっくり吟味される。

予算案に対する国民の評価が厳しい場合は、首相のクビが飛ぶほどだ(アボット元首相のつまずきはそれに起因する)。だが日本ではなぜか、毎年の予算が国民に審査されることはない。霞ケ関が決めたことは正しいと言わんばかりで、大手メディアも盲目的に追従している。

零細企業や小売店など、日本の地方経済が政治や行政の犠牲となって年々疲弊していく様子は見るに堪えないものだ。オーストラリアとの違いを目の当たりにすると、日本の消費力、つまりGDPが伸びないのは必然だという気がしている。【NNA豪州・西原哲也】


関連国・地域: オーストラリア日本
関連業種: マクロ・統計・その他経済社会・事件

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