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【アジアで会う】那須田哲司さん 全日本空輸マニラ支店空港所所長 第345回 宮古島で交わした酒(フィリピン)

なすだ・てつじ 1968年生まれ、静岡県出身。大学卒業後の92年、全日本空輸に入社。旅客サービス業務や空港ハンドリング業務など、25年以上にわたり日本国内で空港地上業務の畑を歩いてきた。2020年7月、マニラ支店空港所を統括する立場に。アジアの緩い雰囲気の中で、日本人としての堅さが抜けない。

新型コロナウイルスは業務に変革を迫った。世界各国が入国規制を実施したことで旅客が急減し、暇になるかと思いきや、めまぐるしく変わる規制変更への対応に日夜追われている。貨物需要も増え、むしろコロナ前より忙しい。

フィリピンの入国規制の変更は他国に比べて多く、規制が変わる直前に知らせが届くことが大半で、現場は混乱する。米国からの経由便で入国する人は、新たな規制が不明のまま飛行機に乗らざるを得ないこともある。

日本のゴールデンウィークに規制が変更された際は、東京側の窓口がつかまらなかった。仕方なく、関係部署に根回しして情報を共有し、対応をお願いした。夜中に規制変更が発表されれば、即座にチャットアプリで従業員に「緊急連絡網」を回して指示を出す。

コロナ下の実践の積み重ねで、チームの結束力は高まった。これまでのトップダウンから「気付いた人がやる」方式が定着。従業員はより能動的に動くようになり、業務の処理能力は日本と比べて6割程度だったのが、8割にまで高まった。フィリピン人スタッフは「コロナで有事の対応に強くなった」と頼もしい。

■「ハラルカレー」失敗

学生のころから海外志向があったわけではない。国鉄(現JR東海)職員だった父の背中を見て育ったせいか、運輸関係の仕事に就きたいと思うようになる。就職活動をしていた1991年はバブルが崩壊した年だったが、影響はまだ少なく内定を勝ち取った。

入社前に描いていた航空業界の華々しいイメージはすぐに打ち砕かれた。最初に担当した業務は、パイロットのスケジュール管理。その後は旅客サービス業務や空港総務全般、空港ハンドリング契約業務などを担当した。「どの業務も泥臭い仕事が多かった」

新しいことへの挑戦には胸が躍る。ANAホールディングスの事業推進部に出向していた13年、「ハラルカレー」を機内食として提供する事業を仕掛けた。

女子高生にも人気だったハラル(イスラム教の戒律で許されたもの)商品に「いける」と判断し企画を進めたが、流行はすぐに過ぎ去り、乗客には定着しなかった。アイデアは社内でも評価を得ていたが、文化の違いを深く理解せずに進めたのが失敗の要因だった。

■50歳過ぎて海外転勤希望

日本の空港内で社会人人生を送ってきたが、転機が訪れたのは2年前。沖縄県の宮古島で地元の契約先とのトラブルを調整するため、6カ月ほど現地に駐在することになった。問題解決に奔走するが、宮古島は沖縄県の中でも独特の文化があり「部外者」は相手にされにくい雰囲気がある。

町内の会合や地元住民の集まりに顔を出しては、酒席に参加できないか頼み込んだ。初めは拒まれていたが、熱意が伝わると一部の人たちが受け入れてくれた。

車座になって泡盛を飲む。酒席の親役が口上を述べた後、杯に酒を注いで参加者に渡していく。宮古島の酒席の風習である「御通り」の洗礼を浴びた。記憶が飛びそうになるほど酒を飲んだ時期だったが、負けてはいられない。「よくやってくれとるのう」。ぽろっと出た住民の言葉に、「信頼」の暖かみを感じた。

海外に長期で住んだ経験はない。方言が強く言葉の壁がある宮古島の文化は「異国」体験となり、50歳を過ぎて初めて海外転勤の希望を出した。

フィリピンに赴任してからは文化を味わう時間も少ないが、目を疑うような光景に出会うことはある。路上で信号待ちの自動車に雑貨を売ったり、窓ガラスを勝手に清掃して小銭を催促したりする少年たち。子どものころテレビで見ていた映像が、それから数十年経ったいまも現実に残っていることに言葉が出ないことがある。

航空会社に働いている身として、この現実に何ができるだろうか。かつて羽田空港の国有地を借りて、空港を活性化させる競争入札にプロジェクトリーダーとして参加したことがある。インバウンド旅客の文化交流の結節点を作る案で挑んだが、結果は惨敗だった。

長年にわたり国内畑を歩いてきたが、宮古島の文化に触れ人生は180度変わった。いまはコロナの影響で海外旅行は厳しいが、フィリピンを含むアジアからの訪日者を増やすことに少しでも貢献できたら、残りの会社員人生に悔いはない。(フィリピン版編集・竹内悠)


関連国・地域: フィリピン日本
関連業種: 医療・医薬品運輸社会・事件

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