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【アジアで会う】遠藤亜矢子さん 「ビノン・カカオパーク」CEO 第341回 ベトナム産カカオの未来に賭ける(ベトナム)

えんどう・あやこ 大阪府出身。大阪外国語大学ベトナム語学科卒。旅行代理店、商社、人材コンサルティング企業勤務を経て、2016年に独立。ベトナム関連コンサルティング企業、カカオ豆など農産物貿易商社を起業した後、19年にビノンカカオパークを共同創業し、20年から最高経営責任者(CEO)を務める。ビノンは、日本語の「美(BI)」とベトナム語の「農(NÔNG)」から命名した。

ベトナム・ホーチミン市内から自動車で2時間弱、バリアブンタウ省の内陸に広がるゴム農園の細い道を抜けると、ふっと「BINON CACAO PARK(ビノン・カカオパーク)」が現れる。湖のほとりに白壁の建物群と、背面に広がるカカオ農園。来場者は、有機栽培したカカオの実の収穫から、チョコレートやカカオワイン、カカオビネガーなどの製造過程を体感できる。

割ったカカオの実から豆を指でつまみ、「このまま味わってもらうと驚くと思います」と笑顔を見せたのが、同パークを運営するビノン・カカオの創業者であり最高経営責任者(CEO)を務める遠藤亜矢子さんだ。

■ベトナムと起業の縁

大学でベトナム語を専攻し、ホーチミン市に1年間留学した。ドイモイ(刷新)政策による市場開放は始まっていたが、高層ビルが並ぶ今の姿は想像できない頃だ。急成長直前のエネルギーに満ちたベトナムで濃密な時間を過ごす。

卒業後は旅行会社で欧州を担当したが、ベトナムとの縁は再び巡ってきた。転職を経たのち、人材コンサルティング企業の駐在員として2011年からホーチミン市に移住。新規事業立ち上げを担当し、「ゼロから成長させる苦労と喜びを知った」(遠藤さん)。事業が軌道に乗った16年、ベトナムにこだわろうと独立・起業を決める。ベトナム進出・営業、人材育成などを支援するコンサルティング企業を設立した。

■カカオと偶然の出会い

起業直後、カカオとの縁が生まれる。知人からの声掛けもありホーチミン市内にジェラート店をオープンさせたのだ。上質な素材にこだわる中で、遠藤さんはベトナム産カカオに出会う。カカオ豆を覆う果肉(カカオパルプ)の酸味のある爽やかな味わい。「ベトナムとの縁も十数年以上になるのに、こんな素晴らしい食材を知らなかった」ことに衝撃を受け、中南部のカカオ産地をめぐり始めた。

カカオは、知れば知るほど面白い食材だった。同じ品種でも土壌、枝切りや接ぎ木の方法で味は変わる。そして、カカオ豆の発酵、焙煎、コンチング(練り上げ)で、チョコレートの味わいも無数に違いが出る。

栽培農家の苦難も知った。価格は不安定で害虫や台風被害にも弱い。高品質でも買たたかれる事例も多く、手軽に稼げる作物へと転作する農家が増えていた。「良質なカカオをつくる農家に、見合う収入を確保させたい」と考えた遠藤さんは、コンサル企業に続き、カカオの貿易商社を設立する。ジェラート店は閉店したが、「大きなきっかけをもらった」と振り返る。

■価値の創造へ

ベトナム産カカオとの関わりが深まるにつれ、自らの手でその可能性を広げ、ブランド力を高めることはできないかと考えるようになった。そして「カカオの感動を伝える場所」をつくることを決意。設立認可に予想以上の時間がかかったものの、19年5月にカカオパークのオープンにこぎつける。カカオ豆選びからチョコレートバー製造までを一貫する「ビーン・トゥ・バー」のブランドは国内にも増えつつあるが、ビノンが目指すのは、栽培から製造までの「ファーム・トゥ・バー」だ。

■想定外を超える

意気揚々とオープンしたものの、ゼロから始めたカカオ農園づくりは試行錯誤が続く。品質を追求し、カカオの木の植え替えも辞さない。

想定外の困難にも直面した。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)だ。当初は、海外観光客をパークに誘致し、海外向けにベトナム産カカオとビノン・ブランドを売り込む方針だった。

オープンから1年にも満たずに方向転換を余儀なくされたが、逆に栽培と商品づくりに集中する機会となる。製造部門はISO(国際標準化機構)の衛生規格を取得。良品計画が展開する「無印良品(MUJI)」のベトナム1号店での商品販売の開始につながった。

新型コロナ収束はまだ見えないが、遠藤さんは「10年後のベトナム産カカオの未来を見たい」とほほ笑む。従業員を抱え、経営の重圧は当然あるが、その重さを感じさせないのは、ベトナムとカカオに賭ける思いがあるからだ。カカオは、発酵させることで香りや深みが生まれ、人を魅了する奥行きある味わいが生まれる。遠藤さんが育てるビノンはいま、そんな発酵段階にある。焙煎やコンチングを経て、ベトナムから世界のビノンへと成長していくに違いない。(ベトナム編集部・北原知也)


関連国・地域: ベトナム
関連業種: 社会・事件

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