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【特別インタビュー】「目に見えぬ侵略」に目覚めよ クライブ・ハミルトン氏インタビュー

今から2年前、オーストラリアに関する本が世界でベストセラーになった。「Silent Invasion(日本語版「目に見えぬ侵略 中国のオーストラリア支配計画」、飛鳥新社)」だ。この本は、世界で覇権的行為を繰り返す中国との付き合い方で、欧米の政権に多大な影響を与えたといわれる。最近、オーストラリアに対して中国は貿易面で報復を繰り返しており、この本で詳述された懸念は現在も進行中だ。著者で、キャンベラのチャールズ・スタート大学教授のクライブ・ハミルトン氏に話を聞いた。【NNA豪州編集部】

――中国の大使館関係者が11月半ばに、オーストラリアに対する14項目にわたる不満を挙げたリストを公表しました。

モリソン政権に対して、あからさまに不満を表明していましたね。例えば、ファーウェイ(華為)やZTE(中興通訊)を第5世代(5G)移動通信事業から排除したことや、中国と仲良くしたいなら国内報道をコントロールしろとか、中国をターゲットにした対外関係法を提起したこととか、新型コロナウイルスの発生源を調べる独立調査機関の設立を求めたこととか。主権を持つ民主的国家に対してぶつけるような不満ではありません。全く異常なことです。

いかに中国の共産党が、自分たちより小さい国に対して、それらをする権利があると強く信じているかということを示しています。

――相手国から反発されるのは明らかなのに、中国はなぜ世界各地でそんな態度を取るのでしょうか。

いくつか理由があります。ひとつに、中国は「力は正義だ(Might is right)」、そして「中国の経済がパワフルだから他国は従うべきだ」と信じていることです。いじめたり脅迫したら、相手は黙る(従う)と信じているのです。

2つ目は、共産党は一般民衆がどう思おうが気にしていません。どこに権力があるかということに関心があります。つまり、政治や経済のエリート層、知識層とメディアです。

チャールズ・スタート大学の公共倫理学部教授を務めるクライブ・ハミルトン氏

チャールズ・スタート大学の公共倫理学部教授を務めるクライブ・ハミルトン氏

しかし共産党が分かっていないのは、民主主義国家で選挙で選ばれた政権は、メディアや民衆が考えることに気を配らなければならないということです。中国が挙げた不満リストを見ると、私のような大学の研究者やシンクタンクがオーストラリア政府に、こうしろと命令できると思っている。民主主義国家はそんな風には機能していないのに。

――最近、あなたは中国への入国を拒否されたそうですね。

そうです。中国はかねてから私を何年間も公的に中傷し、共産党外交部からの敵意が段々と高まってきていたので、驚きではなかったとも言えます。しかし、目を覚まさせられる警告ではありました。共産党を批判する者は罰せられるという、すべての学識者に対する明確なメッセージです。

反中国を標榜(ひょうぼう)する知人の中国系オーストラリア人は上海の空港で、別室に連れていかれて尋問を受け、強制送還されました。その際に係官から「お前はラッキーだ。本当ならもっと困らせてあげるところだがな」と言われたそうです。

――何か嫌がらせを経験したことはありますか?

たくさんありますよ。監視カメラとか盗聴とかもありますし、私のPCへのハッキングとか。何回かは実際に被害を受けたので、セキュリティーには非常に気を付けています。

――オーストラリアは現在、中国から貿易でさまざまな報復的行為を受けています。いつまで続くと思いますか?

今後かなり続くと思います。オーストラリアが何かして共産党が怒る。そして報復する。この時、オーストラリアが共産党の怒りを静めるなら問題ないのですが、それはないでしょう。習近平政権は、長期的にオーストラリアを懲らしめると決めたフシがあります。この問題は、オーストラリアが屈服するか、中国がオーストラリアは妥協してこないと分かるまで続くと思います。

――中国の影響力がはびこっていると批判されたオーストラリアの大学は、中国の影響を排除する法律を作る必要はない、と表明しています。

オーストラリアの大学の理事たちは、かなり知識人のはずですが、共産党に支配されてきました。特に主要8大学はキャンパス内での中国の影響力にわざと目をつぶってきました。彼らに資金的利益があるからです。シドニーと比べ、メルボルンにある大学はこうした事態に、ちゃんと対処しようとしているように見えますが。

――しかし現実として、オーストラリアの大学は財政的に中国人留学生に依存しています。共産党による影響力の浸透に直面して、どうするべきなのでしょうか。

まず絶対的に優先すべきは、学問の自由を持つ大学は、キャンパスで起きてきたことを真正面から直視することでしょう。それをせず、共産党の影響を拒否する対策を取ってこなかったのです。実際に大学の理事会は、中国大使館などの公館と頻繁に連絡を取り、中国大使館や領事館を通して世界を見ているのです。

資金のことばかりにこだわっているため、国家のセキュリティーや主権を理解できていない。今のオーストラリアの大学は最も大きな問題を抱えていると思います。

――2018年に出版されたあなたの著書「Silent Invasion」は、西側国家の政府の目を開かせたところがあります。オーストラリア政府がこの本の出版以降、対中政策を変えたと感じますか?

オーストラリア政府はこの本が出版された際に、既に変わりつつありました。この本は、オーストラリア政府がなぜ中国に行動を起こさねばならなかったのかを国民に説明する役割を果たしたと言えるでしょう。

ファーウェイを禁止したり、豪中関係のトラブルは実際に起きていましたが、一般の国民は何が起きているか分からなかった。この本がベストセラーになったのは、国民が説明してほしかったからでしょう。この本で、国民の意識が政府の政策を支持する方向にシフトしていったと思っています。

ハミルトン氏の著書「目に見えぬ侵略 中国のオーストラリア支配計画」(左)は世界中でベストセラーに。「Hidden Hand」(右)は近く日本語版が出る予定だ

ハミルトン氏の著書「目に見えぬ侵略 中国のオーストラリア支配計画」(左)は世界中でベストセラーに。「Hidden Hand」(右)は近く日本語版が出る予定だ

しかし驚きだったのは、2年以上たってからやっとではありますが、日本語版が出たことです。オーストラリアに関する本なのにすぐにベストセラーになったと聞き、驚きました。オーストラリアで起きている問題が、日本でも起きていると認識されたのでしょう。

2冊目の著書「Hidden Hand: Exposing How The Chinese Communist Party Is Reshaping The World(直訳「隠された手:世界を操作する中国共産党)」の日本語訳も近く出る予定です。

――ところで、日本語版のまえがきであなたは「共産党はトランプ大統領の再選を望んでいる」と書いておられて驚きました。逆ではないのですか?

トランプの中国に対するアプローチは矛盾をはらんでいました。もちろん、トランプ大統領は中国に対して初めて厳しく対処した大統領で、対中政策を別のステージに引き上げた功績はあります。しかし2つの弱点がありました。ひとつは、衝動的(impulsive)で一貫性がない(inconsistent)、ということです。予測できない形でバカげたことをすることです。

2つ目は、オーストラリアや欧州、東南アジアなどの同盟国を軽視することです。だから世界では反米勢力が増える傾向にあり、そのために中国が引き起こす問題が、世界、特に欧州で真剣に捉えられなくなる傾向がありました。同盟関係を弱体化させ、米国を孤立化させるのは中国に対抗する意味では逆効果です。

――では、バイデン氏が大統領になっても対中政策は軟化しないということですか。

バイデン政権で、さらに中国にとっては厳しい時代となるでしょう。なぜなら議会の民主党は中国に厳しくする各法案に総じて賛成しています。経済、人権、科学技術、外交など、バイデン政権なら同盟国を重視し、もっと戦略的にやるでしょう。だから中国にとってはバイデン氏の方が脅威だと思います。

――中国政府はバイデン氏の息子などのスキャンダル(※)を利用するのではという懸念があります。

確証はないですが、共産党はハンター氏を通じてバイデン氏に影響力を行使することはできないでしょう。スキャンダルがあまりに大っぴらになりすぎて、バイデン政権が非常に警戒するからです。共産党は、トランプの資金面でも疑惑を握っています。中国に弱いとさかんに言われたので、バイデン政権が中国政策で息子の影響を受けることもなければ、まして習近平との関係でなびくということもないでしょう。

(※筆者注=バイデン氏の息子ハンター氏がウクライナ企業の役員を務めていたり、中国の大手投資企業から巨額報酬を得るなど深いつながりがあることからバイデン氏も関与したのではないかとの疑惑が報じられている)

――対中政策面ではモリソン政権は強い態度を示していますが、どう評価しますか。また最近可決した対外関係法は有効でしょうか。

私は個人的にはグリーン(緑の党)で政権とは反対側なのですが、ターンブル政権からモリソン政権に至るまで、対中政策ではよくやっていると思います。

外国の影響を排除することができ対外関係法は極めて重要で、法案可決までに2年もかかりました。オーストラリア内の中国共産党による極秘活動はグレーゾーンだったので、何が違法かを明確にし、厳しい罰則も科したので、今後はさらに中国による活動には目を光らせることになるでしょう。他国はオーストラリアでこの法律がどうなるのか固唾(かたず)を飲んで見守っています。これは世界のランドマーク的な法律になるでしょう。

――ビクトリア(VIC)州と中国が結んだ「一帯一路」の覚書が見直されるようですが、中国企業によるダーウィン港の運営については見直されると思いますか。

VIC州の覚書は明らかに対外関係法の適用範囲となりますが、ダーウィンの場合は事情が違い、連邦政府が承認しており、賠償問題も関わってくるので、簡単ではないでしょう。おそらく連邦政府は、ダーウィン港の競売を考えているのではないでしょうか。いずれにしてもダーウィン港を中国企業に委託したのは大失態だったのは間違いありません。

――あなたは現政権や与野党議員などと政策面で意見交換はしますか?

連邦政府の議員や官僚との意見交換は何回かあった程度です。それ以外はほとんどないですね。ただし、著作は議会内では広く読まれたと聞いてはいます。そのほか、欧州や北米などの外国からも情報交換の要請はあります。

――ところで日本の対中政策はオーストラリアや他の欧米先進国と比べ非常にソフトですが、どう思いますか?

複雑ですよね。中国は日本に対しては常にケンカ腰です。日本は洗練されて豊かな国なので、嫉妬的な感情があるのかもしれません。でも日本はオーストラリアと比べても遥かに多くの共産党からの影響を受けていて、民主主義と主権に多大な影響を及ぼしているのに、日本の政権幹部は実態を知りたがっていないようです。

モリソン首相と日本の菅首相が軍事協力協定を結んだのは、中国が世界各地で覇権的に動いていることに対抗することで、有効でしょう。

――豪中関係は今後どうなると思いますか?

オーストラリアは中国に対して、攻撃的ではなく、防衛的な対応を取ってきました。共産党は相変わらず、オーストラリアの労働党内で影響力を行使しようとしていますが、連邦政府は後退はしないでしょう。

貿易面では一部の国民は中国による報復で痛みを伴っていますが、連邦政府の政策を支持しているようです。現在の混とんとした関係が落ち着くまでに、5年はかかるのではと危惧しています。今後さらに多くの困難が待ち受けているでしょう。(聞き手=西原哲也)


関連国・地域: オーストラリア
関連業種: 政治

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