• 印刷する

【アジアで会う】土屋のり子さん トマト・プロジェクト代表 第303回 農家と消費者をおいしい野菜でつなぐ(インド)

つちや・のりこ 東京都出身。1984年に初めてインドを訪れ、東部コルカタで旅芝居一座の家庭に居候する。東日本大震災をきっかけにインドへの移住を決意。当時10歳の娘とともに首都ニューデリーに移り住み、有機・無農薬野菜を日本人家庭に届ける「トマト・プロジェクト」を2013年に立ち上げた。新型コロナウイルス対策の全土封鎖の間も、デリーと北部グルガオンの日本人に食材を届け続けた。

デリーとグルガオンに住む日本人なら、「封鎖中はトマト・プロジェクトに救われた」という人も多いのではないか。買い物もままならなかった封鎖初期のころ、団地のエントランスまで安心な野菜や新鮮な卵、焼きたてのパンなどを届けてもらえるのは、本当にありがたいことだった。

■女性の「いきいき」心に残る

インドとの出会いは1980年代にさかのぼる。大衆演劇をして暮らすインド人家庭に1カ月ホームステイ。「当時、巡業先の村の女性は男性の付き添いがなければ買い物にも出なかった。結婚は、もちろん親の決めた相手と。だけど家の中でみんないきいきとして、笑顔が絶えなくて。それが不思議だった」と振り返る。

当時、女性の幸せには自由が不可欠と考えていたからだ。「彼女たちは自分らしく生きるとか、考えたことがなさそうなのに幸せそうで。その幸せは、どこから来るんだろう」。そんな疑問が生まれたという。

90年代には、北部バラナシに留学。経済開放政策でインド人社会が大きく変わるのを目の当たりにした。

「開放前のインドは(階級や貧富の差がある中で)一人ひとりに役割があって、それぞれが役割を果たすことで物事がうまく循環していた」。土屋さんが居候していた大家の奥さんはバラモン階級で、近所の人に過酷な体力仕事をさせていた。だが彼女は彼らの相談役でもあり、困ったときには健康のアドバイスから金銭的援助までを買って出る。「冬が近づくと女性たちが大家の家の屋上で、前の冬に着ていたセーターをほぐしてその毛糸でセーターを編み直すんです。みんなで編み方を教え合って」

経済開放にはいい側面も多くあったが、人々の関心は外(支え合い)から内(自分や自分の家族の暮らしをどう良くするか)に移行。「一人ひとりがジグソーパズルのピースみたいなもので、自分の役割を果たすことで自然と満たされる。互いに支え合って、カーストの上下に関係なく女性たちが楽しく編み物をしていた(開放前の)時代。それが、わたしの好きなインドなんです」

■村の農業が続くように

娘の同意を得て、2012年にインドに舞い戻る。起業を模索しているときに始めたことの一つがトマト・プロジェクトだった。

日本人学校の母親たちにとって当時、一番の悩みは「安心して買える野菜がない」こと。そんなとき、国際協力機構(JICA)を通じて北部ヒマチャルプラデシュ州で農業支援をする日本人に出会い、「無農薬野菜を作っても売り先がない」という話を聞く。「じゃあやってみようか」と、話がまとまった。

日本人が経営する南デリーの家具店の軒先を借り、13年に野菜の販売を始めた。「当時は送ってもらえるだけ仕入れて売り切るやり方。すぐに口コミが広まり、週1回の販売が週2回に。翌14年には週1回の配達も始めた」

一度始めると、仕入れ先も知人の紹介で広がった。提携業者を介さず直接取引する「直送野菜」の仕入れ先は、北部ウッタラカンド州とヒマチャルプラデシュ州の3組合。いずれも無農薬か有機農業で野菜を育てる農家の集まりだ。

永続可能な農業のもとで永続可能な文化を築く「パーマカルチャー」を、仕入れ先の村の農家と実現させたいと考えている。交通手段のない村では、農家は何時間もかけて街の市場に野菜を運ぶ。傷まないように運んでも、市場では中身を確認せずに、「2割はロス(きずもの)だからその分のお金は払わない」と言われるのが彼らにとって常だった。「本当に真面目に仕事をしているから、届いた野菜を実際に確認するとロスはほとんどない。質が良い、おいしい、山の野菜は違うね!と、お客さんの声を届けると、農家はすごく喜んでくれるんです」

ウッタラカンドの村では冬の間は気候的に野菜が育たず、夏の間に何度も収穫することで土壌が徐々に痩せてきているのが気にかかる。ほとんどの若者が村を出てしまうなど、ほかにも課題は多い。そこで、村の土壌の分析を日本の専門家に依頼し、土壌に適した新たな作物の栽培を提案したり、村人が遠方の農業訓練に参加するのを支援したり。「食べることに意味がある。農家と消費者は支え合っているのだということを、説教がましくなく伝えてお客さんをもっと開拓しなければ。立ち止まって感慨にふける暇はないんです」

安心でおいしい野菜を届け続ける、食べ続けるために、農家が安定した収入を得て安心して農業を続けられるようにと、これからも走り続ける。(インド版編集・天野友紀子)


関連国・地域: インド
関連業種: 社会・事件

その他記事

すべての文頭を開く

日用品需要、農村部で回復 コロナ影響少ない地域ほど上向き(08/07)

マルチスズキ、昨年度に整備拠点250カ所追加(08/07)

日本電気硝子、医薬用管ガラスの生産増強(08/07)

車の購買意欲はコロナ前と同水準=グーグル(08/07)

配車ウーバー、エンジニア140人の雇用計画(08/07)

香港企業、南部の物流用地33億ルピーで取得(08/07)

政策金利4.0%に据え置き、3会合ぶり(08/07)

自動車5社コロナで赤字、トヨタ・スズキは黒字(08/07)

すべての文頭を開く

※本コメント機能はFacebook Ireland Limitedによって提供されており、この機能によって生じた損害に対して株式会社NNAは一切の責任を負いません。

の記事は有料サービスご契約者様限定記事です。契約すると続きをお読みいただけます。契約されている方は、画面右側にある各種ログインからログインください。
無料トライアルはこちら
購読申し込みはこちら

NNAからのご案内

出版物

SNSアカウント

各種ログイン