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【アジアで会う】イカプトラさん 建築家 第299回 被災者に寄り添う支援(インドネシア)

Ikaputra 1962年生まれ。ジョクジャカルタ特別州ジョクジャカルタ市出身。工学博士(大阪大学)。建築家。ガジャマダ大建築計画学部准教授。被災者向けの拡張住宅「コアハウス」など復興支援や防災活動も広く知られる。

イカプトラさんは18年のロンボク島地震でも復興を支援した(本人提供)

イカプトラさんは18年のロンボク島地震でも復興を支援した(本人提供)

午前2時に起きて研究などの業務に取りかかる。頭がさえているうちに脳をフル回転させる。そんなイカプトラさんを学生時代から知る大学教員は「とてもクリエーティブでエネルギッシュな先輩だった。国際的会議で会う日本人には彼を知っている人が多い。被災地の住環境整備を支援する活動は、日本でも導入できる取り組みとして有名だ」と話した。

イカプトラさんの座右の銘は「大きく考え、小さく始め、今動き、継続する(think big, start small, act now, and keep sustain)」。被災者のために考案した住宅「コアハウス」も、この考えに通ずるところがある。

コアハウスは、核となる最小限の住宅を建てて、住みながら徐々に増築する。インドネシアの住宅は無秩序に増築が繰り返されることが多いが、コアハウスは将来の拡張を見越してつくられる。被災者は早期に仮設住宅を出て元の土地に住むことができるため、地域コミュニティーを維持しやすい。耐震性を備えつつ、住民や地元の大工の手で拡張できるようマニュアルも制作する。

この概念は日本でも採用され、宮城県石巻市の牡鹿半島でコアハウスが建てられた。

■阪神大震災で被災

イカプトラさんは1990年代に約6年間、大阪大で過ごした。当時30歳前後。バブル経済の終息、インターネットの普及、地下鉄サリン事件などを目の当たりにし、転換期の日本を肌で感じた。中でも阪神大震災は、その後の人生を方向付ける出来事の一つとなった。大阪の箕面市に住んでいたため自らも被災者となったが、震災翌日には友人らと支援活動に当たった。

この時の経験が生かされて2004年12月のスマトラ沖地震でもすぐに活動を開始できた。「建築家として何かしなければ」。翌年1月初旬、地震と津波で甚大な被害を受けたアチェ州に飛び、2月に家を失った村人たちのために住居を建設した。これが初めてのコアハウスとなった。

アチェでの取り組みが地元紙などで伝えられ、反響が広まった。ジャワ島中部地震(06年)とムラピ山噴火(10年)のときも、自ら被災しながらコアハウスや仮設住宅の建設を支援した。ロンボク島地震(18年)でもコアハウスを建てた。

復興支援や防災分野の共同研究などで日本の大学との交流は今でも多く、年に2~3度は訪日する。

■TODの重要性

現在イカプトラさんが最も力を入れているのは公共交通指向型都市開発(TOD)の研究。研究者としてだけではなく、生活者としても日本のTOD事例から学ぶことが多いと実感している。

「日本はTODや鉄道システムにおいて世界で最も優れた国の一つ。TODは住宅開発や建築、土木、金融など裾野が広く、インドネシアのTODを日本の企業が支援する余地は十分にあると考えている」

鉄道インフラはオランダ植民地時代から開発されてきたが、通勤電車など日常の足としてはまだ発展途上。国内初の地下鉄となったジャカルタの都市高速鉄道(MRT)の開通などを契機に、TODを巡る議論もようやく盛り上がってきた。イカプトラさんは、小さな都市でかまわないので、まずは成功事例をつくることが大事だと指摘。「1カ所で成功すれば、他の都市はおのずとそれを模倣するようになる。全国各地で鉄道の駅を中心とした街づくりができている日本を見習うべきだ」と述べた。

■大衆のために

イカプトラさんは、母校でもあるガジャマダ大の「大衆のために尽くす」という建学の精神を自身に育んできた。コアハウスの構想はこうした考えから想到した。TODの研究に尽力するのも「人々の生活を豊かにするためには、快適な住環境や交通手段が必要」という信念が背景にある。

建築学科に進んだ兄の影響で建築を学ぶことを決めた。教職に就いたのは生物学の教授だった父親の存在がある。早朝に仕事をするのも父に倣った。父親は最も影響を受けた人で、「家庭は生涯の学びの場」と教わった。

イカプトラさんの長女も日本に留学し、建築家になった。新型コロナウイルスと闘う医療従事者を支援するための慈善事業を立ち上げた。人のために尽くすというイカプトラさんの精神は親から子にしっかりと継承されているようだ。

(インドネシア版編集部・多田正幸)


関連国・地域: インドネシア
関連業種: 建設・不動産社会・事件

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