オーストラリア連邦準備銀(RBA)が現在、市場への史上最大規模の資金注入を続けている。中小企業向けの融資枠組みの設置や国債買い入れなどによる約1,100億豪ドル(約7兆円)という前代未聞の強力カンフル剤となる。だがそれでも、約30年ぶりのリセッションは避けられない見通しだ。しかも懸念されるのは、新型コロナウイルス感染症そのものよりも、より実体経済に近い社債が危うくなっていることだ。
なりふり構わぬ資金注入にもかかわらず、株式市場は悲観的だ。主要指標S&P/ASX200指数は、連日の刺激策で反発を混ぜながらも、暴落基調を続けている。26日までのわずか1カ月間で実に約30%以上も落ち込んでおり、底が見えていない。だが何よりも、株式市場以上に実体経済に近い社債、それもハイリスク社債が危ういと思っている。
■高リスクのレバレッジローンが急増
これは米国市場についてだが、投資銀クーラバー・キャピタルのアナリスト、クリストファー・ジョーイ氏が、オーストラリアン・ファイナンシャル・レビュー(AFR)で警鐘を鳴らしていた。
氏は「米国ではこれまで、投資適格に属さないジャンク債の信用スプレッドがバカげた水準にまで落ち込んだ。以前に金融危機をもたらしたサブプライムローンの時のような銀行ではなく、そうした企業がデフォルトに陥るリスクが急拡大している」という。歩調を合わせるかのように、高レベルのレバレッジをかけたハイリスクの企業向けローンも急増している。
サブプライムローンが、信用力の低い個人に供与されたのと同じように、レバレッジローンは信用格付けの悪い企業向けに供与される。かつてジャンク扱いだった企業の社債が、実態が変わらないまま投資適格扱いで発行されているという。
■豪のゾンビ企業の割合は…
調査機関ファクトセットによると、世界の上場企業約4万7,000社のうち、ゾンビ企業の割合は約17%にも上る。ゾンビ企業というのは、利益を全てつぎ込んでも金利支払いさえ賄えないほど、多額の債務を抱えた企業のことである。よって、事業存続は銀行などの債権者に依存することになる。
国際決済銀行(BIS)のリポートによると、その割合は1990年代の8%から、現在は12%にまで上昇した。
では、オーストラリアにはどのくらいあるのかというと、豪財務省の調べでは、2010年当時に上場企業全体の10%だったが、現在は実に15%にまで上昇しているという。
興味深いことに、生産性の高い企業が成長する速度と、生産性の低い企業が縮小していく速度が、いずれも遅くなっていることも明らかになっている。これは09年以降が特に顕著だという。
つまり、ゾンビ企業のような、ただ人工呼吸器を付けられて延命するだけの企業が、ひん死の状態のまま生きながらえる時間が長くなっていることを意味する。近年、オーストラリアでは生産性の伸びの鈍化が顕著だが、そのことが背景にあるとみられる。
怖いのは、世界的経済危機の入り口にありながら、オーストラリアではまだジャンク債市場がトラブルとして顕在化していないことだ。
■危ない綱渡り
米国では、今月に変わった現象があった。米国債は安全資産とみなされるので、株式市場の暴落などの際には通常、国債が買われて価格が上がる。そのため利回りも史上最低水準まで低下した。だが3月末に、株式市場が落ちたのと並行して国債価格も下がる現象があった。投資家が、国債よりもさらに安全な金や現金に乗り換える動きが広がったためとみられている。
これは企業にとってはもろ刃の剣だ。この世界的恐慌の最中に、長期債の利回りが上昇すると、資金調達コストも跳ね上がってしまうからだ。
しかしながら、米連邦準備制度理事会(FRB)が実施する「無制限の」国債買い入れで、今度は10年物米国債の利回りが、年内にマイナス0.5%にまで低下するとの見方が出ている。これもまた、極めて危ない綱渡りとなる。最大1兆米ドル(約110兆円)相当の高格付け社債が、ジャンク債に向かうとみられるためだ。
オーストラリアもまた、巨額の国債を買い入れるという意味では、同じ橋を渡ろうとしているように見える。
オーストラリアでは最近、上場企業が一般の投資家からの資金調達を容易にできるよう、社債発行規制を緩和する計画が進行中だ。株式市場の低迷で、一般投資家の資金がジャンク債市場に流れる可能性がある。
FRBによる無制限の量的金融緩和で、FRBの総資産が天文学的に膨れ上がり、市場の資金供給がコントロール不能になる懸念もささやかれ始めている。くしくも米大手通信会社フロンティア・コミュニケーションズがこのほど社債をデフォルトし、破産申請することが分かったばかりだ。
個人的には、世界が震えている新型コロナウイルスそのものよりも、それに伴う世界的な資金逃避で、社債市場が崩壊し、企業がドミノ倒しになることを恐れている。【NNA豪州・西原哲也】
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