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日本は積極的なインフラ提案を 豪日経済委副会長インタビュー

オーストラリア連邦政府が、エネルギーや交通、水道などの大型プロジェクトに対し、外国企業からの投資を積極的に誘致する目的で、課税率を15%に優遇する税制措置を導入すると発表した。オーストラリアが資金とともに高い技術を持つ有望な投資国として期待しているのが日本だ。では、オーストラリアへのインフラ投資で留意すべき点は何だろうか。豪日経済委員会のボブ・セイドラー副会長に話を聞いた【NNA豪州編集部】

――先に大阪で開催された日豪・豪日経済委員会合同会合では、日本とオーストラリアの協力による、アジアでのインフラ開発について話し合われました

アジア全域では数多くのインフラが必要です。オーストラリアでは、官民連携(PPP)方式の開発が洗練されており、大規模プロジェクトで専門的な経験を積んできました。一方、日本はアジアをよく知っており、強力な政府開発援助(ODA)プログラムを持っています。オーストラリアと日本が協力すれば、インフラを提供する上でとても大きな力となるでしょう。

大きな問題は、アジア諸国の政府は、インフラプロジェクト実現の方法がよく分かっていないことです。

それについて私は、2つのことが実現可能だと考えています。一つ目は、日本とオーストラリアがともに、プロジェクトの実現を目的にアジア地域の政府を教育することです。国際協力機構(JICA)などが既に、キャパシティー・ビルディング(能力構築)をアジア地域で実施しています。この点で、両国が協力して行うことができるでしょう。

もう一つは、オーストラリア政府が採用している「アンソリシテイテッド・プロポーザル(非公募提案)」を、両国が共同で、アジア諸国の政府に行うことです。

――非公募提案とはどのようなものでしょうか

オーストラリアでは、連邦政府や州政府が行うインフラ入札とは別に、民間が独自にインフラ開発を政府に提案できます。

例えば、インドネシア政府が持つインフラ開発優先リストを利用し、日本とオーストラリアが共同でリストからインフラ開発を提案するのです。それをケーススタディーとすれば、インドネシア政府はインフラプロジェクトを実現する手法を取得できます。

ニューサウスウェールズ(NSW)州政府産業省の日本特使を務める、豪日経済委員会のボブ・セイドラー副会長(NNA豪州)

ニューサウスウェールズ(NSW)州政府産業省の日本特使を務める、豪日経済委員会のボブ・セイドラー副会長(NNA豪州)

――オーストラリアの具体例はありますか

オーストラリアで非公募提案を行う場合、企業は法的な条件を満たさないといけません。また、新しい点を含むユニークな提案でなくてはいけません。

例えば有料自動車道路が2本あれば、「連結道路を作れば、皆が恩恵を受けます。われわれだけが実現できます」と提案する訳です。政府は提案を受け、コストなどの厳格な評価手続きを行い、問題がなければ企業に実施を認めます。

非公募提案は、連邦政府のほか、ビクトリア州やニューサウスウェールズ州、クイーンズランド州が認めています。

――インフラ開発の手法はどのようなものでしょうか

インフラ開発には二つの方法があります。一つは、政府が望みのインフラを指定するものです。別のやり方はPPP方式です。

オーストラリアのインフラ開発は、政府が民間からアイデアを募るPPP方式が主流です。例えば政府が病院を作る場合、年間30万人の患者に対応し、これこれの専門を設置すると提示し、それ以外についてどのようにするべきか提案するよう求めます。政府は、提案を基にどの設計が優れているのか、価格はどれが理にかなったものか評価します。こうして、民間からイノベーションを取り込もうとしています。

具体例では、メルボルンのチルドレンズ病院があります。普通の病院のナースステーションは長方形ですが、この病院は十字型のナースステーションをフロアの中央においています。これにより、ナースステーションからすべてを見ることができます。もし長方形のナースステーションなら、2~3カ所につくらないといけません。

こうした、オーストラリア式のインフラ開発は、アウトプット・スペシフィケーション(output specification)と言います。政府は、インフラ設備の目的を提示し、民間に目的に応じた設計と仕様を求めるのです。

一方、日本政府は細かい点まで指定します。これを、インプット・スペシフィケーション(input specification)と呼びます。日本の民間企業は、政府の指定に対し正確に同じものを作らないといけません。

――どうしてこのような違いが出るのでしょうか

日本政府は、たくさんのエンジニアなどの専門家を雇用しているからでしょう。彼らは職務として設計を行わなくてはいけません。また、ほとんどすべての日本の官僚は、民間企業で働いた経験がなく、企業活動や利益を上げることが分かっていません。

一方、オーストラリアでは、政府と民間の人材交流が盛んです。多くの政府高官が民間出身者です。ある者は、また政府から民間に戻ります。従って、オーストラリアの政府組織は、民間部門と協働することに問題を感じていません。

――オーストラリアのインフラ事業には、メルボルンの自動車道路のように、政権が代わって突然中止されるようなリスクはありませんか?

当時、インフラプロジェクトが入札に出た時、保守連合政権でした。野党労働党は、「もし我々が選挙で勝てば、そのプロジェクトをキャンセルする」と公約していました。従って、誰もがそのプロジェクトが中止されるリスクがあると理解していたのです。

そして労働党政権ができ、プロジェクトが中止されました。しかし、労働党政権のビクトリア州政府は、受注企業に対して利益分相当額を支払いました。70億豪ドルのプロジェクトなら、プロジェクトの利益率は10%で、政府は企業に7億豪ドル払ったのです。これは特殊な状況だったと言えます。

――オーストラリア市場への参入を検討する日本企業が増えています。インフラ開発で参入する場合に留意するべきことはありますか

日本企業は、オーストラリアの政府が提案を求めているということを理解するべきです。日本の企業は、マインドセットを変える必要があります。

また、オーストラリアのインフラ市場は、PPPを50年以上続けており、日本よりも洗練されています。これはインフラ市場の話で、ほかの分野では日本の方がより洗練されていますが。また、オーストラリア市場は海外企業に開かれています。オーストラリアは、海外からの専門的な知識や資金がなければ生き残れなかったからです。ただ、市場競争は厳しいです。従って、日本の企業が参入するには、決断を素早く行う必要があります。

――決断の問題とはどのようなことでしょうか

日本の企業の問題は、海外に行く担当者が、最終決断する権限を持っていません。決定はすべて本社が行います。しかし本社は、オーストラリア市場をよく理解しておらず、彼らがプロジェクトを理解するには時間がかかります。その間に、検討していた事業は終わってしまいます。

また、他国企業が、オーストラリアにインフラ開発で参入する場合、政府は企業に対して、これまでのオーストラリアでのインフラ事業の実績を求めます。経験のない企業を選ぶことは政府にとってリスクだからです。

――新規参入の場合、どうすればいいでしょうか

日本企業がオーストラリアでインフラ開発事業に参入する場合、地場企業でちゃんとしたパートナーを見つけることが必要です。

例えば、オーストラリアの大手企業は自分たちの競争相手で、彼らと協議するべきではないと考え、より小さい企業と事業提携した場合、政府は、オーストラリアで経験のない日本企業と、オーストラリアで大きな事業経験のない地場企業が組んだと判断し、不利です。

もし私が、日本企業の役員なら、オーストラリアの大手企業と、一つのプロジェクトだけではなく、将来を見据えた戦略的提携を結ぶよう提案します。アジアのインフラ開発で提携し、オーストラリア市場参入で支援を求める提案をします。

――地場企業と提携する上で留意するべき点は何ですか

オーストラリアの業界関係者は、新聞を毎日見て、政府が何を言っているか確認し、いつインフラ開発プロジェクトが発表されるか予想して待っています。

プロジェクト発表の確信を得た段階で、オーストラリアの企業はすぐにコンソーシアムを結成します。こうして、政府がインフラ開発を実際に発表すると、すでに複数のコンソーシアムが応札できる準備ができています。

日本のある人は、これを談合システムだと言いますが、私は違うと思います。オーストラリア市場の透明性が高いからこそできることです。

――インフラ市場の透明性とは、どのようなことですか

オーストラリアのプロジェクトは完全に透明度が徹底しています。インフラ関連の書類や情報は、すべてネット上で入手できます。また、これまでの契約内容もネット上で見ることができます。従って、他国からオーストラリア市場に入っても、とても簡単に現地の状況を把握することができるのです。こうしてプロジェクトの検討や、そうした資料を利用したケーススタディーを行うことができます。

ただ、注意するべきは、政府は入札で価格だけを考慮して企業を選ばないということです。日本では、価格が最優先ですが、オーストラリアではイノベーションがより重視されるからです。(聞き手=小坂恵敬)

<プロフィル>

ボブ・セイドラー(Bob Seidler, AM)

豪日経済委員会副会長、NSW州政府対日特使、CIMIC(前レイトン)社外取締役。日本で法律業務を行う許可を受けたオーストラリア初の弁護士。レイトン・アジアおよびレイトン不動産の元会長を歴任。2011年には国際的なビジネスへの貢献や日豪間の経済関係強化に寄与したとしてオーストラリア勲章を、2016年には旭日中綬章を受勲した。


関連国・地域: オーストラリア日本
関連業種: マクロ・統計・その他経済

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