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【アジアで会う】三島崇暁さん 赤名酒造社長 第270回 海外市場をつかんだ再起の酒蔵(タイ)

みしま・たかあき 1975年生まれ。島根県飯南町出身。東京農業大学卒業後、広島三次ワイナリー(広島県三次市)に就職。その後、10年間の食品商社勤務を経て、地元の飯南町にUターン。2014年に赤名酒造(島根県飯南町)の社長に就任した。

9月上旬、タイの首都バンコクで、赤名酒造の新酒「純米吟醸 絹乃峰」の発表会が、飯南町商工会の主催で行われた。人口4,824人(9月1日時点)、周囲を標高1,000メートル級の山々に囲まれた飯南町の小さな蔵から届けられた新酒。三島社長が地元産米を使い、タイ市場向けに仕上げた3種類目の日本酒に、関係者は「さらに飲みやすくなった」と舌鼓を打った。赤名酒造が2015年に始めたタイへの輸出も累計6,000本に到達。「下から数えて5本の指に入るぐらいの小さな酒蔵」(三島氏)は、一時閉鎖の危機にあったが、海外市場を開拓しながら奮闘している。

1929年に設立した赤名酒造は、日本酒市場の縮小と競争激化で2004年に経営破綻した。ただ、存続の声を受けて当時の赤来町(後に合併して飯南町)が施設を町有化。年1,000リットルだけ作る酒蔵として継続するも、13年に再び経営が立ちゆかなくなった。当時Uターンして町の臨時職員だった三島氏が、個人で会社を買い取ることで協議。最終的に、14年に町が1億2,000万円をかけて施設を改修し、三島氏が社長に就任した赤名酒造が、町から施設を賃借して再生の道が始まった。

「周りからは夢物語だと思われたが、当初から海外市場を目指すことを考えていた」。国内市場は頭打ちだが、「良い商品であれば海外でも受けるはずだ」。三島氏は商社勤めの経験を生かして市場を調査し、タイにターゲットを絞った。差別化を図るため、タイ人の口に合う酒造りを始めた。タイの料理は辛く、味付けも濃い。行き着いたのは、甘口の酒だった。現地での試飲は好評。手応えをつかみ、15年末に輸出を開始した。

赤名酒造の日本酒は現在、タイの日系卸売業ゴエンカンパニーを通じて、料亭や居酒屋などおよそ100店舗で扱われている。一方で「絹乃峰は甘口のため、少量で満足してしまう人もいた」(三島氏)ことから、消費量を増やすために、甘味をやや抑え、キレよくうまみのある吟醸酒を新たに開発した。初めて日本酒を飲んだタイ人からも「(青パパイヤを使った辛口のタイのサラダ)『ソムタム』に合う」と高評価を得た。新酒の投入で、売上高の海外比率を現状の5%から20%へ引き上げるのが目標だ。

■ワインと市場争いを

三島氏が醸造の世界へ入るきっかけは、高校生のときに発酵学者の小泉武夫氏の著書「発酵」を読み、微生物学に関心を持ったことだ。東京農大を卒業後に就職したワイナリーでは、ワインの原料のブドウ作りから学んだ。その経験は、飯南町産のコメにこだわった原料の管理や酒造り、海外での商談でも生きている。

海外では絹乃峰の味について、「ワインに例えるとどんな種類か」と質問されることもある。甘口の「純米酒 絹乃峰」であれば、「ボルドーワインの甘口に近い」と伝えれば、相手もどの料理に合うかイメージしやすいという。三島氏は海外市場を開拓する上でこう考えている。「タイの日本酒市場では日本酒メーカー同士がシェア争いをしている。だが、世界の酒市場の中心はワインであり、日本酒はワインとの入れ替えを狙って市場拡大を図るほうがよい」

■タイ人を飯南町へ

三島氏はこの夏、赤名酒造のバンコク事務所の運営を委託するタイの会社との縁で、タイから著名人2人を飯南町に招いた。赤名酒造の酒蔵に泊まってもらい、町の魅力を発信してもらった。タイでは会員制交流サイト(SNS)に飲酒を誘導するような投稿をすることが禁止されているため、酒瓶などはアップできない。それでも、浴衣を着て地元の夏祭りを楽しむ姿の写真などは反響が大きかった。町民には不思議がられ、地元のメディアも取材に訪れた。

狙いはタイとの地域交流の種まきだ。町はタイでの展示会を開催するなどして、赤名酒造の活動をバックアップしてくれている。だからこそ、「タイに絹乃峰を輸出することを通じて、飯南町を訪れるタイ人が増えてくれるといい」と考えている。タイから飯南町を訪れるツアーを組むには、2年ぐらいはかかるとみているが、「まずは行ってみたいという雰囲気作りをしていきたい」。地域に愛される酒蔵が海外へ活路を見いだした再生の道は、ふるさとへと続く。(タイ版編集・京正裕之)


関連国・地域: タイ日本
関連業種: 食品・飲料農林・水産

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