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【年始特集】西シドニーに30分通勤圏都市を NSW州エアロトロポリス構想【1】

オーストラリア・ニューサウスウェールズ(NSW)州のシドニー西部に、24時間の離着陸が可能となる西シドニー国際(ナンシー・バード・ウォルトン)空港が、2026年に開港予定だ。これに合わせ、新空港周辺で先端製造業誘致などを含む、新都心開発計画「エアロトロポリス構想」が進められている。NNA豪州は、同構想について、関係者へのインタビューなどを交え、3回に分けて特集する。第1回は、同構想の概要と、根底にある価値観に触れてみたい。【NNA豪州編集部】

■エアロトロポリス構想

エアロトロポリス構想は、シドニー西部バジェリーズクリークに建設予定の西シドニー空港を中核とするものだ。連邦政府が公社を立ち上げ、空港関連インフラの整備と空港運営を行う。

一方、NSW州政府は、空港に隣接する1万1,200ヘクタールの敷地で、新都市「西シドニーエアロトロポリス」の開発を進め、企業にビジネスチャンスを開放する考えだ。

エアロトロポリス構想は、政府予算が総額200億豪ドル(約1兆5,024億円)割り当てられており、政権が変わっても維持されることが約束されたプロジェクトだ。投資への安定感があり、国内外の企業から注目が集まっている。

NSW州政府が投資誘致を狙う分野は、◆航空産業と国防産業◆農業と食品加工業◆医療・健康◆教育・職業訓練◆技術・調査研究◆運輸・運送――となっている。

ここで重要となるのが、NSW州政府の「ウェスタンシティ&エアロトロポリス公社(Western City and Aerotoropolis Authority:WCAA)」だ(※)。WCAAは、エアロトロポリスや空港周辺の開発を統括する組織として機能し、新都市構想の具体的な内容を示すマスタープラン(基本計画)の作成を行っている。今後、マスタープランが公開され、各種の入札が実施される予定だ。

※WCAAの日本語表記にはさまざまあるが、弊紙ではWCAAの日本語での自称表記を採用する。

NSW州政府はプロジェクトを進めるに当たり、中核となる企業・団体を特に「ファンデーション・メンバー」と位置付け、マスタープランへの積極的なインプットを求めている。ここには、三井住友銀行と三菱重工業、日立製作所、都市再生機構(UR都市機構)の4社が入り、NSW州政府とそれぞれ覚書を交わしている。

■豪州版シティーディールズ

同構想への参画には、背景にあるコンセプトや価値観の理解が必要だろう。

エアロトロポリスは、先端技術を活用し、都市生活をよりよく変える世界的な都市構想「スマートシティー」に沿うものだ。オーストラリアでは、ターンブル政権が2016年に「スマートシティーズ・プラン」として連邦政府の方針を示した。ここでは、全国で、都市インフラの効果的な投資や、連邦―州政府―地方自治体が連携した政策、都市の持続性の向上とイノベーション推進のための先端技術の採用がうたわれている。ただ、内容が概念的で不明確だという指摘もある。

一方、ターンブル首相と後継のモリソン首相が、スマートシティーを各都市の実情に合わせて具体化したものが、都市協定「シティーディールズ」だ。

シティーディールズは、オーストラリア独自のものではなく、元は英国の政策だ。英国政府は世界金融危機(08~09年)後、地方自治体に対し、独自の経済発展策を策定・実施できるよう、政府資金利用での裁量を広げるなど、各種の権限を拡大するシティーディールズを採用し、都市の再生を図った。

これに対し、オーストラリア版シティーディールズは、地方自治体の権限を拡大するものではなく、経済成長を促進するために、連邦―州政府―地方自治体の3つのレベルの政府が開発計画などで協調する取り決めとなっている。これまで国内では、クイーンズランド州タウンズビルを皮切りに、ビクトリア州やタスマニア州などでシティーディールズが結ばれている。

WCAA のジェフ・ロバーツ副会長

WCAA のジェフ・ロバーツ副会長

WCAAのジェフ・ロバーツ副会長は、英国とオーストラリアのシティーディールズの違いについて、都市のあり方を考えれば当然だと言う。ロバーツ副会長は「オーストラリアは面積が広く、人口が都市に集中している」と指摘。また、シドニーを含めた5大都市(ブリスベン、メルボルン、アデレード、パース)はオーストラリアの国内総生産(GDP)の80%以上を創出しており、連邦政府が地方自治体に関心を寄せるのは当然だという。

■連邦・州・地方自治体の協調

西シドニー・シティーディールズは、これまで結ばれたシティーディールズの中で、最も長期(20年間)にわたるものだ。38件の内容から構成されており、そのうちの一つにWCAAの設置がある。

ところで、シティーディールズの重要な点としてよく挙げられるのが、連邦政府と州政府、地方自治体の3つのレベルの政府の協調だ。西シドニー・シティーディールズは、連邦政府とNSW州政府、シドニー西部の8自治体(リバプール市、フェアフィールド市、ペンリス市、ホークスベリー市、ブルーマウンテンズ市、ウーロングディルブ市、カムデン市、キャンベルタウン市)の取り決めと言える。

ロバーツ副会長は、西シドニー・シティーディールズについて、「西シドニー空港の周辺で、どこで開発を進め、どこに雇用を創出し、鉄道をどのように走らせ、病院や学校をどこに設けるかなどについて、3つのレベルの政府が政策の協調で足並みをそろえるもの」だと説明する。

連邦政府の役割は、インフラ省を通じて、西シドニー空港の建設・運営を行うほか、西シドニー・シティーディールズで決められた各種プロジェクトに資金を提供する。一方、NSW州政府は、学校や病院、警察、公園、ビルの建設許可、そして州内のほとんどの道路について、建設と管理の責任を持つ。予定されている新鉄道ノース・サウス線の敷設や運行などはNSW州政府の役目だ。地方自治体は、ゴミ収集や開発許可管理など日々の重要なサービスのほか、自治体内の開発も主導する。

■戦略なき都市開発を克服

では、そもそもなぜ西シドニーに特化した開発がオーストラリアにとって必要なのだろうか。これについて、ロバーツ副会長は、シドニーの急成長を挙げる。同氏によれば、今後20~24年間にシドニーの人口は460万人から800万人へと増える見込みで、その大部分が西シドニーに集中することから、西シドニーの開発が必須だという。

ロバーツ副会長が西シドニー・シティーディールズで最も強調するのは、通勤30分圏の創出だ。ロバーツ氏は「日本人は長時間かけて通勤しているが、われわれはそうしたくない」と述べ、人口成長の核となる西シドニーの人々に、通勤30分以内で仕事を持てるようになってほしいのだと強調する。そのために「われわれはオーストラリアのカタパルトとなるような、先進製造業を西シドニーに育成したい」のだという。

ロバーツ副会長は、オーストラリアのこれまでの都市開発は、戦略がなくだらだらと開発が進むことが問題だったと言う。

これに対し、西シドニー開発では、彼が兼任するNSW州政府の都市開発諮問委員会「グレーター・シドニー・コミッション(GSC)」が作成した戦略「シドニー3都心戦略」が都市開発の戦略に当たるという。

■シドニー3都心戦略

ロバーツ副会長によれば、GSCが2016年に発表した「シドニー3都心戦略」がなければ西シドニー・シティーディールズは成立しなかったという。

3都心戦略とは、大シドニー圏の都市機能を3カ所の都心に分けるものだ。GSCは、海岸部にある現在のシドニー中央商業地区(CBD)を中心とした都市圏を東部ハーバーシティー(Eastern Harbour City)とし、パラマタ川をさかのぼった終点に位置するパラマタ市を核とする中央リバーシティー(Central River City)と、西シドニー空港を中心とする、西部パークランドシティー(Western Parkland City)を提案する。

シドニー3都心戦略

シドニー3都心戦略

GSCによれば、何も戦略がなければ、より多くの人を郊外からシドニーCBDへ移動させるよう道路と鉄道を建設するだけになってしまうという。しかし、ロバーツ氏は、人々が通勤30分圏内に住むことこそが住みよい都市で、それを実現するために、シドニーCBDと並行して、内陸の2カ所の発展を促す必要があったと主張する。

あらためて西シドニー・シティーディールズをまとめるなら、それはNSW州政府が打ち立てた3都心戦略を基に、連邦政府が進めるスマートシティー構想を各都市の現状に合わせて、都市再生の実現を図る計画だと言えるだろう。【小坂恵敬】

(明日は西シドニー・シティーディールズに参加する地方自治体の一つ、リバプール市を取り上げ、地方自治体レベルでのシティーディールズへの対応や期待などについて伝える)


関連国・地域: オーストラリア
関連業種: 運輸マクロ・統計・その他経済

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