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【アジアで会う】サンディープ・アガルワルさん 起業家・投資家 第260回 ゼロから生み出す新しい価値(インド)

1972年、インド北部チャンディガル生まれ。90年代後半にワシントン大学セントルイスに留学。マイクロソフトなどでの勤務を経て帰国。2011年に設立した電子商取引(EC)サイト「ショップクルーズ」はインド5番目のユニコーン(評価額10億米ドル超の未上場企業)となる。14年に自動車マーケットプレース「ドゥルーム」を設立。15歳と10歳の息子がいる。

評価額10億米ドルの1社目を手放した後、次の会社を立ち上げるまでに4カ月のブランクを設けた。その間、仕事らしいことは何もしなかった。朝から夕方までゴルフで汗を流し、夜は瞑想とヨガに打ち込む。体重は12キロ減り、周囲からは別人になったようだと言われた。

「4カ月かけてそれまでの自分をリセットしたんだ。赤ん坊が9カ月かけて生まれてくるように」。新たに会社を興すとき、起業家は過去に積み上げた経験や成功をすべて捨てなければならない。「起業とはゼロから何かを生み出すものだからね」

■ネットの普及に商機とらえる

スタートアップ大国といわれるインドで、数少ないユニコーン企業を育てた起業家として知られる。出身は北部の町チャンディガル。1990年代後半に渡米し、ビジネススクールでMBAを取得した。その後はマイクロソフトやシティグループなどで株式やインターネットのアナリストを務めた。

インドに戻ることはもうないだろう。そう思っていた2010年ごろ、母国でインターネットが興隆していくのを知り、胸にしまっていた起業への思いに火が付く。米国在住のまま衣料品と家電のECサイト「ショップクルーズ」を立ち上げ、翌年に帰国。利用者数を急速に伸ばし、インドで5番目となるユニコーン企業に成長させた。

■成功後、2社目に挑戦

起業家が外部から資金を調達してスタートアップを設立した場合、その先には3つのシナリオが待っている。新規株式公開(IPO)を通じて上場する、新しい投資家を募る、M&Aによって他社へ売却する。

順調に事業拡大するショップクルーズを、自分の手で継続させることはできた。だが設立から数年がたったころ、インドにはインターネットに次ぐ新たな波が来ていた。所得の増加を背景とした自動車の普及だ。バスに乗っていた人たちがマイカーを運転するようになっていく、その姿を見て思った。彼らがネットで車を売り買いする仕組みを作れたら――。

「起業家の使命は、新しい価値の創出を通じて社会にインパクトをもたらすこと。自動車普及の波に乗ってそれができると思った」

成功したショップクルーズを手放し、2社目のスタートアップを立ち上げよう。そう決断すると同時に、自らに言い聞かせたことがある。過去の成功は決して踏襲しない。起業家に最も必要とされるのは、ゼロから新しい価値を生み出すためのエネルギーだ。既存の知識や経験からそれは得られない。

4カ月のブランクを経て頭と体をリセットした後、自動車売買のオンラインマーケットプレース「ドゥルーム」を設立した。狙いは当たり、20~30代を中心に利用が拡大。年間訪問者数が3億8,000万人を超えるインド最大の自動車マーケットプレースと認知されるようになった。昨年から今年にかけては東南アジア3カ国へ進出。近く評価額10億米ドルのユニコーン企業になると期待されている。

■100年続く企業を目指して

ある調査によれば、スタートアップが生き残る確率はわずか2%という。さらにこのうち、評価額が5,000万米ドルを超えるのは15%に限られる。ユニコーンと呼ばれるスター企業が登場する過程で、数百もの起業家が消えている現実がある。

「それでも、インドにはスタートアップが必要で、これからも生まれ続けなければならない。既存の産業や概念を壊し、革新をもたらすスタートアップの存在こそが、この国の経済を成長させると信じている」

その考えを実行するため、事業と並行して起業家の支援活動も行っている。エンジェル投資家として、過去5年で15社に投資した。また、研修プログラムを実施したり、デジタル経済やECを学ぶイベントを開催したりしている。

2社目のドゥルームは、今後も手放さずに続けるつもりだ。本業は自動車マーケットプレースだが、社内には売買、金融、人工知能(AI)など7つの事業体がある。定期的に新しい事業を立ち上げ、「ゼロから価値を生む」状態を保ち続けることを心がけている。2年後にはIPOを実施する計画だ。

「スタートアップとして生まれたドゥルームを100年続く企業にしたい」。過去の成功は振り返らない。その目はいつも前だけを向いている。(インド版編集部・成岡薫子)


関連国・地域: インド
関連業種: 社会・事件

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