• 印刷する

【アジアで会う】韋晟さん 日本農業カントリーマネジャー(タイ) 第249回 日本の農業で世界を驚かす(タイ)

ウェイ・スン 1992年中国・広西チワン族自治区生まれ。幼少期を中国・日本を行き来して過ごし、小学生からは日本で育つ。東京大学法学部卒業後、米コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニーに3年間勤務。2018年4月に農業スタートアップの日本農業(16年11月設立)に加わり、タイへ渡る。「Essence(エッセンス)」ブランドのリンゴなどの果物・野菜の輸入を手掛ける。

バンコクのスーパーに並ぶ「エッセンス」ブランドの日本産小玉りんご。みずみずしく、甘さと酸味がほどよく口に広がる。日本の旬の味だ。日本では規格外とされる小ぶりのリンゴも、小さいサイズが好まれるタイでは需要がある。熱帯の国の消費者はいま、かつてないほど手頃な価格で日本産リンゴの旬を味わっている。

「店頭に立ってリンゴを売っていると、リピーターの方が増えているのが分かり、すごくうれしいですね」。農業スタートアップに加わって1年。「コンサルタント時代から仕事は180度変わった」というように、飛び込み営業も辞さない農産物の販路開拓をスピード感を持って進める。ウェイさんたちが、18年度に輸入した日本産リンゴは前年度比で2倍。数量ベースでは日本からの輸入全体の5割ほどを占めることになる。

「いまはタイで日本の農産物の販路を広げる仕事を突き詰めることで、自分と関わる全ての人がポジティブになれると思っている。タイの消費者は『おいしい』と言ってくれ、日本の農家の方は『去年よりリンゴの価格が少し上がった』と話してくれる」

コンサルタント時代は、中国市場を中心に日本企業の海外市場戦略などを支援していた。理詰めで練った事業戦略は、支援する会社にとって理屈上は正しくとも、時にはその会社の社員が職を失うこともあり得るなど「誰かは嫌な思いをすることもあった」。そういう時には「プロとして仕事を遂行する一方で、感情的な部分ではなかなか腹落ちしていなかった」という。いまは、自分の好きな食べ物を、ほしいと思う人に売る。「人の感情に寄り添った仕事をしているほうが好きなのだと思う」

■販路拡大で農家に寄り添う

「元々は感情的な人間」と称する韋さんの原動力は、「感謝の気持ち」だ。神奈川県の小学校に入学したとき全く日本語が話せなかった上、同学年で外国人は1人だけという状況だった。それでも、先生や友人が寄り添って助けてくれた。それ以来「困った人に寄り添えることが一番大事」だと考えている。

農業の世界も通じるところがある。コンサルタント時代に世界中を飛び回り、消費者目線で日本の農産物のおいしさを再認識した。だが、日本の農業の現実は、作れば作った分だけ、供給過多が起き値崩れする「豊作貧乏」になることもある。それでもコンサルタントの立場で見れば「農業ほど海外市場でポテンシャルのある業界はなかなかない」。「それなら海外で売れば日本の農家の支援になるし、自分の海外市場分析の経験も生かせる」と、気心知れたマッキンゼー時代の同期が立ち上げた日本農業に加わった。

■日中の農業知財は自分のテーマ

4月中旬、韋さんはニュージーランドへ飛んだ。日本のリンゴの季節は終わったが、これから冬に向かう南半球でリンゴを仕入れるのだ。扱うのはニュージーランド産の日本品種「ふじ」など。日本品種で品質が担保できれば、外国産でも「エッセンス」ブランドとして販売していく。その際、農家にはブランドのライセンス料を支払ってもらい、韋さんたちが開拓したタイの販路を確約する。

この仕組みは日本の農家を救う一つの策でもある。「ふじ」は中国などでも栽培されるが、知的財産権が存在しないため、日本生まれの品種とはいえ日本側に還元はない。そこで韋さんたちは、支払ってもらったライセンス料の一部を、日本の農家に間接的に還元する。例えば、リンゴを輸出する際の検査や輸出証明書の取得費の支援、新たな生産技術を導入する農家のサポート費などに充てる考えだ。

日本の農業の海外市場を拡大させるには、植物の新品種に与えられる知的財産権の育成者権(PBR)も重要になる。この知的財産権やブランドライセンスは、「中国生まれ・日本育ち」のアイデンティティーを持つ韋さん自身にとっても「大きなテーマ」だという。

「『ふじ』という品種は、平たく言うと種自体が中国などに盗まれている。こんなに売れているのに、知的財産権がなくて、日本で発明した人に利益が還元されないのは本質的に良くないと思っていて、何かしらの還元が必要」と話す。ただし「品種を守ることが、中国に作らせないための対策という方向には行ってほしくない」。農業がグローバル化する中で、「日本の農家が素晴らしい品種を開発した場合に、それが世界中で普及して生産され、その利益が農家に還元されることが一番大事だと思っている」

そして農業は技術的にも人工知能(AI)やモノのインターネット(IoT)など先端技術の応用がしやすい。「自分より若い世代が将来のことを考えるとき、農業ってアツいなと思ってもらいたい」。そのためにも「世界中に日本の農業でサプライズを提供したい。ポテンシャルだけは絶対にあるので」。頼もしい言葉とその行動力が、日本の農業の未来を照らす。(タイ版編集・京正裕之)


関連国・地域: タイ
関連業種: 農林・水産マクロ・統計・その他経済社会・事件

その他記事

すべての文頭を開く

テイクオフ:タイで初めて、救急車の…(06/26)

6年ぶりのバーツ高水準続く 中銀が監視、観光業界は客足懸念(06/26)

5月MPIは3.99%減、設備稼働率は67.7%(06/26)

不動産クリード、タイ企業と高層コンド開発(06/26)

東部の革新特区、3Qに商業区のTOR公表(06/26)

タイ40社が投資会議に参加、提携先を開拓へ(06/26)

マグノリア、多世代居住型の高級住宅を開発(06/26)

WHA、サイエンスパークなどの開発を計画(06/26)

3空港高速鉄道のEIA、国家環境委が承認(06/26)

すべての文頭を開く

※本コメント機能はFacebook Ireland Limitedによって提供されており、この機能によって生じた損害に対して株式会社エヌ・エヌ・エーは一切の責任を負いません。

NNAからのご案内

出版物

SNSアカウント

各種ログイン