• 印刷する

【ASEAN】競争が激化する中でのタイ現地プレーヤーの戦略とは

成熟化するタイのパーソナルケア市場(2)

2018年12月7日付のNNA記事「米ダウケミカル、化粧品市場に注力」(https://www.nna.jp/news/result/1843363)によると、米化学大手ダウ・ケミカルは、タイの化粧品市場における旺盛な需要の取り込みに注力する方針を明らかにしたという。

ダウの担当者によると、同社は購買意欲の高いタイやインドネシアを東南アジアの有力市場と見ており、タイではデジタルプラットフォームを活用したマーケティングを展開していく方針だ。同社はタイで、化粧品関連の化学品や原料の製造は行っておらず、他社から調達している。

英調査会社ユーロモニターの調査では、2017年のタイのビューティー・パーソナルケア市場は高齢者の増加や会員制交流サイト(SNS)の流行などにより、前年比6.8%増の1,980億バーツ(約6,816億円)だった。

タイでは化粧品販売の形態が変化しており、これまでは単一ブランドを扱うカウンター販売が主流だったが、現在はマルチブランドを取り扱う独立店舗や、オンラインでの販売が増加傾向にある。

今回のシリーズでは、健康・美容関連の中でも比較的生活に密着したパーソナルケア市場、特にスキンケア、オーラルケアセグメントでのトレンドや主要各社の攻防等を複数回に分けて見ていきたい。

前回(https://www.nna.jp/news/show/1860692)は、業界全体のトレンドを見てきたが、今回はそれを踏まえて、タイの成熟しつつあるパーソナルケア業界における主要各社の戦略を見ていきたい。

■外資系メーカーが強いタイのパーソナルケア市場

冒頭の記事にあるように、成長を続けるタイのビューティー・パーソナルケア市場へ進出しようとする外資系企業は多い。バンコクでは、日本や韓国の化粧品やパーソナルケア商品の広告が頻繁に目に入ってくる。それだけ現地において、海外ブランドが入ってきていることの証左だ。

それは最近始まったトレンドではない。歴史的に見ても、タイのパーソナルケア市場は、外資系メーカーがその上位に来ている傾向が強い。下記の図表1は、タイのオーラルケア市場における主要な製品セグメントごとの、トップブランドとその市場シェアだ。

オーラルケア商品における主要4商品において、練り歯磨きはコルゲート(Colgate-Palmolive)、歯ブラシはシステマ(Lion)、マウスウォッシュはリステリン(Johnson & Johnson)、デンタルフロスはOral B (P&G) と、それぞれ外資ブランドがすべてトップシェアとなっている。

オーラルケア製品は、パーソナルケア商品の中でも比較的ブランドロイヤリティが高いこともあり、総じて寡占化が進みやすい傾向があるが、タイ市場においては外資製品がより市場で受けいれられている。

こうした状況下で、タイの国内メーカーはどのように立ち向かっているのだろうか?

■タイ由来の成分と価格で独自の地位を築いたTwin Lotus社

Twin Lotus社は、タイ古来の薬草であるハーブを生かした歯磨き粉で独自のポジショニングを確保した、老舗のパーソナルケア製造販売会社だ。

同社の創業者であるBoonkij Leelapa博士は、もともとはタイの伝統ハーブを取り扱うドラッグストアを手がけていた。また創業者はハーバル医療の専門医で、彼自身の歯痛を治すためにオリジナルハーブ歯磨き粉を開発した。ところが、1977年にハーブドラッグストアの倉庫を火災で焼失。

事業を再開するに際し、当時誰も販売していなかったオリジナルのハーブを原料とした「Lotusハーバル歯磨き粉」を市場に出すことにした。いくつかの偶然の積み重ねで誕生したハーブ入り歯磨き粉であるが、ふたを開けてみるとタイ一般消費者に受け入れられて、結果ハーブ系のパーソナルケア製造販売会社として、大きく事業転換することになった。

同社がハーブ入りの歯磨き粉を市場に出した1970年当時、タイのオーラルケア市場では、高級な外国企業製品と、安価だが効用がそれほどでもない国内製品に大きく二分されていたという。ハーブはタイにおいてはその効果があまねく認知されており、「ハーブが入っているのであれば、効果があるに違いない」と思わせる十分な訴求力があった。

こうして比較的安価でかつ効能があるセグメントを自らが開拓することで、しっかりと市場においてプレゼンスを高めていくことに成功。今では、同社の説明ではタイにおける練り歯磨きの全体の約4割が、何かしらのハーブ原料が入ったハーバル系歯磨き粉だという。

その後同社は歯磨き粉の他にも、歯ブラシやうがい薬など、オーラルケア商品を幅広く展開。加えて、ハーバルローション、ハーバル石鹸、シャワージェル、シャンプー、コンディショナーなど、ハーブ入りをうたったスキンケア商品も多く製造販売している。そのほかにも、ボディーケア商品やBird‘s Nest Drink(燕の巣入り飲料)が人気を集めている。

出所:同社ホームページより

出所:同社ホームページより

■事業拡大策は東南アジア市場への展開

ハーブを軸に他の商品への水平展開を果たしたTwin Lotus社の現在の事業拡大策は、海外市場の展開だ。その場合もポイントは、自社の得意分野であるハーブが軸になる。幸いタイの周辺の東南アジアの他の国においても、ハーブは昔から伝統医薬品として重用されていた。従ってタイで成長したストーリーがそのまま当てはまる土壌がそこにあった。加えて、ラオスやカンボジアでは、タイでのプレゼンスから、その地において自らが「有力外資」になることが出来たため、比較的事業展開が行いやすかったという。

アクティブに周辺東南アジア諸国を中心に市場を開拓し、現在約20カ国に直接自社輸出するまでになった。現在の最大の海外市場は中国で、オーナーの息子が中国市場担当として中国事業を拡大中だ。

一方で、彼らの強みは弱みにもなっている。ハーブといえばその効用が説明不要な地域においては、順調に販売を伸ばすことができてきたが、そうでない国ではそもそもなぜハーブがいいのかの説明から始める必要がある。

それに加えて、もしそこに効用を謳うのであれば、しっかりとした科学的な証明が必要になってくる。また、原材料としてハーブが入っている旨の記載だけでは不十分で、その中の成分についてもよりしっかりとした説明が求められてくる。このような理由から、参入に失敗したのが実は日本市場だ。日本の厚労省の申請を通すことができず、参入を断念した苦い経験を持っている。

タイにおいても、ハーブだけでの成長ストーリーに限界が出てきたこともあり、現在新しい商品の柱を育成中だ。そこに位置付けているのが、炭入り歯磨き粉で、高砂香料工業と共同開発した炭成分を使用した商品を展開している。タイでは同社が初めて炭入り練り歯磨き市場を開拓し、現在新しいトレンドになりつつあるという。

■タイのパーソナルケア市場で外資が強い理由はその販促力の違い

パーソナルケア商品で海外商品がタイ市場において高いプレゼンスを獲得している理由の一つに、パーソナルケア商品の事業特性が大きく関係している。それは、広告活動が販売拡大、ひいては市場シェア拡大において非常に重要な位置づけを占めていることだ。

市場においてコンスタントに認知を得て、有力ドラッグストアチェーンでいい棚取りを維持するためには、常に広告及びリテール店舗への販促活動をこまめにかつ積極的に行うことが欠かせないのは、タイ市場も日本市場も変わらない。

従って、長期的には事業規模があり資本力のある企業が優位になっていく。練り歯磨き市場において、タイ市場で1位のコルゲートも、最初にタイ市場に参入した輸入歯磨き粉であることに加えて、地場の有力競争会社が育たたないうちに膨大な広告を継続的に打ち続けたことが、タイ市場においてナンバーワンブランドの地位を確保した最大の要因だ。最盛期の20年前は、コルゲート1強で80%近くのシェアを持っていたとも言われている。

このように資本力が問われる戦いになりがちなパーソナルケア市場に対して、かつ販売チャネルを一度確立することで、比較的安定して販売を確保できるのが医療機関向け商品の領域だ。

■医療分野への展開もにらむBeRichグループ

1997年創業のBeRichグループは、ハンドクリームや化粧品、加えて皮膚科用の医薬品の製造販売を行っているタイの中堅スキンケア事業会社だ。

同社を含むグループには、主に一般マス向けの企業・一般消費者間取引(BtoC)セグメントを手掛けるBeRichのほかに、医療用商品の製造販売を行う子会社も有している。そのどちらのセグメントにおいても、国際基準の自社工場において原材料から工程基準、パッケージングを厳密に管理することでより良質の製造を追求している。

同社トップのJoonphuthipong氏は言う。「一般市場向けスキンケア業界は市場規模が大きい一方で、比較的参入障壁が低いこともあり、新たな市場への参入者が常に存在している。中でも近年勢いが強いのが、韓国系メーカーで、韓流ドラマのイメージにのってタイ市場に押し寄せている」

こうした中で、コンスタントに市場でのプレゼンスを得るのは困難で、自社の得意領域を生かしてしっかりと認知される商品を持っていないと長期的にはなかなか市場で残っていくことは難しいという。

一方で、彼らの医療用商品においては、一般向けと比較して規制もより高いことから、そこまで外資を含めて新興メーカーが入ってくることもない。加えて、取引先も価格よりも長年の取引関係を重視するために、比較的自社の競争優位性が発揮しやすいという。こうしたことから、同社では現在より医療用商品の比重を高めるべく、戦略の注力分野をシフトしていくことを考えている。

今回、外資系パーソナルケア会社との競争にさらされる現地メーカーの事業戦略のケースを2つ見てきた。そこで共通するのは、資本力やプレゼンスが外資メーカーで劣る中で、現地系ならではの競争優位な領域で、生き残りを図ろうとする姿だ。

<筆者紹介>

杉田浩一

株式会社アジア戦略アドバイザリー 代表取締役。カリフォルニア大学サンタバーバラ校物理学および生物学部卒。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)経済学修士課程卒。15年間にわたり複数の外資系投資銀行にて、海外進出戦略立案サポートや、M&Aアドバイザリーをはじめとするコーポレートファイナンス業務に携わる。2000年から09年まで、UBS証券会社投資銀行本部M&Aアドバイザリーチームに在籍し、数多くのM&A案件においてアドバイザーを務める。また09年から12年まで、米系投資銀行のフーリハン・ローキーにて、在日副代表を務める傍ら東南アジアにおけるM&Aアドバイザリー業務に従事。12年に、東南アジアでのM&Aアドバイザリーおよび業界調査を主要業務とする株式会社アジア戦略アドバイザリーを創業。よりリスク度の高い東南アジア案件において、質の高いアドバイザリーサービスの提供を目指してASEAN各国での案件を遂行中。特に、現地の主要財閥との直接の関係を生かし、日系企業と現地企業間の資本・業務提携をサポートしている。


関連国・地域: タイ日本
関連業種: 化学小売り・卸売り

その他記事

すべての文頭を開く

イオン、東南ア初の業態導入 地域ごとの店舗設計で需要に対応(11/22)

双日など日本連合、通信網受注 70億円、華為・KT連合に競り勝つ(11/22)

「国産化」リスクの声高まる 国際貿易のメリット生かせず(11/22)

日系とウイング、融資管理システム共同開発(11/22)

テイクオフ:江戸時代に前野良沢や杉…(11/22)

技術者1万人雇用で事業強化 テクノプロ、高まる人材需要に対応(11/22)

松尾製菓、20年に工場稼働へ 日本向けに「チロルチョコ」生産(11/22)

社会混乱、7割が業務に影響 NNA調査、事業撤退へ懸念も(11/22)

TRXで21年下期に「西武」開業、そごうKL(11/22)

新資格の宿泊、ミャンマー試験合格率は36%(11/22)

すべての文頭を開く

※本コメント機能はFacebook Ireland Limitedによって提供されており、この機能によって生じた損害に対して株式会社NNAは一切の責任を負いません。

NNAからのご案内

出版物

SNSアカウント

各種ログイン