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【アジアで会う】第235回 渡部幹さん モナッシュ大学マレーシア校 准教授 ニューロビジネスで社会を読む(マレーシア)

わたべ・もとき 北海道出身。UCLA社会学研究科Ph.Dコース修了。北海道大学助手、京都大学助教、早稲田大学准教授を経て、現職。実験ゲームや進化シミュレーションを用いて制度・文化の生成と変容を社会心理学・大脳生理学分野の視点から研究。現在はニューロビジネスという大脳生理学と経営学の融合プロジェクトの共同ディレクターを務めている。

「ニューロビジネス」という学問がある。ビジネス上の意思決定において、人間の感情や認知バイアスがどのように影響するかを大脳生理学と経営学の見地から研究するというものだ。渡部さんは2013年、モナッシュ大学マレーシア校がこのニューロビジネスを専門に研究する「ニューロビジネス行動研究所」を立ち上げるに当たり、共同ディレクターとして参画した。米国の大学で博士号を取得し、日本国内の大学で教べんをとっていたが、英語での教育や論文執筆をしてみたいと新たなキャリアを模索していた時期だった。

初めてマレーシアを訪れた時、印象的な出会いがあった。後に勤務先となるモナッシュ大学が手配してくれたインド系マレーシア人のタクシー運転手だ。彼は、インド系の中でも少数派のシーク教徒だった。

渡部さんが出会ったシーク教徒の運転手は、驚くほど誠実だった。その誠実さが気に入り、マレーシア生活が始まってからは家族ぐるみで付き合うように。彼らを知るうちに、運転手の誠実さはシーク教の教えからくるものだということを知った。渡部さんは今、宗教社会学や行動科学の観点から、シーク教徒が社会で果たす役割に関心を抱いている。

北西インドにルーツを持つシーク教は非常にユニークだ。シーク寺院では、毎日3度の食事を無料で振る舞う。施しを受けられるのは信者に限らず、あらゆる人に門戸が開かれている。マラッカにある寺院では、朝食に訪れる人の6~7割が異教徒なのだという。これらの食事の用意は、信者のボランティアや寄付で賄う。

シークの人々は、異教徒を信仰に誘ったり、見返りを求めたりしてはいけないとされている。となると、完全に異教徒に「搾取」されているようにも見える。しかし、シーク教は今世紀に入り着実に信者を増やしており、英国やカナダなど先進国にも多い。また、信者の多くがコミュニティーの中で社会的地位の高い、もしくは高い職業倫理が要求される職業に就いている。特に、警備や会計、法律分野などに多く存在するという。マレーシアのゴビンド・シン・デオ通信マルチメディア相もシーク教徒で、法曹から政界に転身した。

シークの人々の成功は、その職業倫理の高さや勤勉さに支えられているという。彼らの教義では、与えられた仕事をまじめにこなすことこそが宗教実践であるとされているからだ。

また、シークの人たちは驚くほど理性的なのだという。「怒り」の感情は持ち合わせているが、幼い頃から理性でコントロールする訓練をされている。渡部さんは、彼らは人間の脳の中でも理性を司る前頭葉の部分が特に発達しているのではないかとの仮説を立てており、今年中に日本の玉川大学とともに脳科学的なアプローチでその秘密を探る計画だ。

渡部さんは、「シーク教の行動研究は、日本人の利益にもつながる」と強調する。真面目で集団行動や規律を重んじるシークの人々は、日本人の愛する「武士道精神」とも重なる部分が多くある。一方で、ムラ社会を重んじる日本人に対し、シークの人々は来るものを拒まず「愛他的」だという点が異なる。渡部さんは、そこにシークの人々が世界各地で根を広げる秘密があり、また日本人がグローバル社会で成功するために学ぶべき点があるのではないかと考えている。

今後の研究テーマとしては、「高齢者に優しい街づくり」にも取り組む。人の視線の動きを読み取る「アイトラッカー」という装置を用いて、高齢化社会に向けた公共交通機関の利便性向上を目指すという。2030年代にはマレーシアも高齢化社会に突入するとみられており、日本の知見を活かせる部分があるはずだ。

(聞き手=マレーシア編集部 降旗愛子)


関連国・地域: マレーシア
関連業種: 社会・事件

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